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有元美津世のGet Global!

スリランカ(8)-- 増える日本就労のスリランカ人2024.04.30

 

「スリランカなんて、私には関係ない」と思っている人も多いでしょう。が、日本との関係については、以前、書きましたし、日本は、今後も(対外債務の10%を所有する)債権国としてスリランカの債務再編に関わらざるを得ません。さらに、経済危機で海外への出稼ぎを余儀なくされ、日本で働くスリランカ人は増える一方です。

私は、12月にスリランカに向かう前夜、成田で一泊したのですが、そのホテルでは多くのスリランカ人が働いていました。客室清掃(housekeeping)だけでなく、フロントデスクでは、日本語を流ちょうに操っていました。

成田空港のスリランカ航空のチェックインカウンターには、里帰りする多くのスリランカ人が並んでいましたが、彼らに向かって、日本人の地上スタッフが日本語で話しかけ、それに日本語で答えていたのには驚きました。

そして、スリランカ滞在中には、あちこちで「日本で働いていた」「日本で働こうと思って試験を受けたが落ちた」「日本で働きたいが、行くために必要な資金を用意できない」という現地の人たちに出会いました。経済危機が勃発した直後の2022年2月には、こうした声は聞かれなかったのですが。

 

経済危機による出稼ぎ増加

 

スリランカの人が海外に移住するのは珍しいことではなく、とくに富裕層や高学歴層の間では、以前から行なわれていました。1983~2009年の内戦時には、多くのタミル系がカナダやオーストラリアなどに移住しました。ところが、経済危機勃発後は、食べていくためにやむなく国外に出稼ぎに行くという人が増えているのです。2022年には100万人が国外に移住し、現在、海外在住のスリランカ人は300万人にのぼっています。(スリランカの人口は2200万人弱。) 

こうした中、スリランカ政府では、国の施策として国民の海外への出稼ぎを推進しています。海外雇用局(Bureau of Foreign Employment)によると、2022年に出稼ぎ労働者として出国したスリランカ人は31万人を超え、2021年の倍以上に達しました。これは、内戦時代の数字を上回るもので、過去最高の数字です。

経済危機の発端のひとつに、コロナ禍によって(外貨獲得額第3位の観光業が壊滅したのと同時に)海外から自国民の送金が減ったことがありました。スリランカでは、歴史的に自国民の海外からの送金が最大の外貨獲得手段であったのですが、2020年から2021年にかけて、それが大幅に減少したのです。しかし、2022年に海外での就労が増えたことで、2023年には海外からの送金が盛り返しました。昨年3月の海外労働者からの送金額は5億7000万ドル近くに達し、前年同時期の8割増に達しています。

 

日本での就労促進

 

こうした中、日本で自国民が就労する機会の拡大に、スリランカ政府が力を入れています。2022年から2023年にかけて、就任後立て続けに2度、労働・海外雇用相が来日し、日本の政府機関や人材斡旋企業などと面談しました。大手人材斡旋会社とは、日本での就労支援などに関する覚書を交わしています。

海外雇用局に登録されている就労者は、日本向けは4500人、1.45%で10位です。なお、上位4位は中東で、7位の韓国は9000人以上で3%でした。

2022年11月にジェトロが行った高度外国人材の採用に取り組む日本企業を支援するオンライン合同企業説明会には、700人を超えるスリランカ人が登録し、2位の中国、3位のベトナムを抑えて、最多だったそうです。

なお、ジェトロが、昨年年に実施した調査では、アジア・オセアニア地域で基本給(平均値)が、もっとも低いのがスリランカでした。製造業では月104ドル、エンジニアでも189ドル、マネジャーでも388ドルで、非製造業では、マネジャーで628ドルでした。マネジャークラスでも、日本の方が数倍稼げるということです。

また、海外雇用局では、日本語教育の推進も行なっています。スリランカでは、高校では80年代、中学では90年代に、日本語教育が導入され、以前から、日本語は中学や高校で選択科目の「外国語」として一部の学校で教えられてきました。日本語教育は、首都コロンボだけでなく、地方でも行われており、全国138校で行なわれています。

2018年時点では、中学でも高校でも、選択可能な外国語としてアラビア語に次いで、日本語が2番目に人気だったそうです。その後も、日本語学習者は、年々、増加しており、スリランカ人の(英語の)オンラインコミュニティでも、「日本語は、どこで学べる?」という質問がよく見られます。

スリランカでは、日本での就職を前提としたカリキュラムに日本語も盛り込むことで閣議決定しており、海外雇用局では、全国で日本語を学べる態勢を作り、日本で就職先が決まれば、労働者が日本語学習に費やした費用を払い戻すことになるようです。

 

特定技能職種の拡大

 

こうして、日本に在留するスリランカ人は年々増えており、2022年から2023年にかけては3割近く増加し、4万人を超えました。

主に大卒向けの「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で居住するスリランカ人は、9000人以上おり、インドやフィリピンなどを抑えて6番目に多いのです。技能実習では9番目、「特定技能」や「技能実習」の資格、高度専門職や特定技能では10番目です。

また、「経営・管理」の資格では、中国、韓国、ネパールに次いで4番目に多いのですが、この資格では、中古自動車貿易などを手がけている例が多いようです。スリランカでは、日本からの中古自動車輸入販売で財を成した実業家が何人かおり、名をはせています。すでに2代目が継いでいる例もあります。

昨年10月には、海外雇用局と国際人材育成機構(外国人技能実習生の一般管理団体)との間で合意書が交わされ、これまで特定技能の技能試験は「介護」「外食」「農業」のみだったのが、さらに「建設」「航空」「自動車整備」「ビルクリーニング」の4職種の試験をスリランカで受けることが可能となりました。スリランカ政府は、今後も、職種を拡大していきたい意向です。 

ということで、皆さんが、日々の生活でスリランカの人と遭遇する頻度は、さらに増え、より身近な存在となりそうです。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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