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なぜIT企業の外国人は日本語がうまいのか?

 
あなたの「日本語マスター法」を教えてもらえますか?

テレビを見ていても町を歩いていても、日本語を上手に操る外国の人が増えている。あるとき、日本語がペラペラのアメリカ人に出会った。文法も発音もほぼ完璧。外国語のなまりはなく、むしろ東北弁のなまりが少しある。聞けば、東北地方の大学に留学経験があり、留学中のわずか1~2年で、日本語をほぼマスターしたという。今は、日本語を巧みにあやつりながら、IT企業の社員として働いている。

 「IT企業に勤める外国の人って、なんで日本語がうまいの?」「英語を何年も勉強しているのに、英語を話せない日本人(私)が多いのはなぜ?」「もしかしたら、外国人と日本人の脳の違いに秘密がある?」

 そんな謎を解き明かすべく、日本のIT企業に勤める4人の外国人に体当たり調査を敢行。彼らの日本語マスター法から、効果的な語学学習のヒントを探った。

Case4 ゲームブログで日本語力アップ!

  Manish Prabhune
  マニッシュ・プラブネさんの場合
  アドビ システムズ

 

 

 

日本語力ゼロで田舎暮らし


 「Photoshop」や「Illustrator」といった、デザイナーやクリエーターにおなじみのソフトウエアを提供しているアドビ システムズ。同社に勤務するマニッシュ・プラブネさん(アドビ グローバル サービス グローバルアカウント マネージャー)は、インドのムンバイ出身で、インドの大学で機械工学を専攻。卒業後はずっとエンジニアリング系の仕事に携わってきた、バリバリの技術者だ。

 

 マニッシュさんはITブームの波に乗り、1998年に来日。新潟の、とある金型生産の会社でエンジニアとして働くことになった。日本語はまったく話せなかったという。

 

 「東京や大阪などの大都市であれば、外国人もいるし、英語を話せる日本人もいると思います。でも新潟には、英語を話してくれる人は誰もいなかった。だから最初の3カ月はホント大変でした。日本語ができないとコミュニケーションが成り立たないので、1日中ずっと日本語の生活。でも今思えば、その状況がプラスになったんだと思います」

 

 1年間、新潟で苦労して生活して、仕事上のコミュニケーションは問題なくできるようになった。だが、逆にすごく複雑な専門用語はわかるのに、ベーシックな言葉がわからないことも。そこで「どうやったら語学力をアップできるのか」と考えた末にたどり着いた方法が、ブログだった。

 

 「専門用語だけだと、どうしても限定的な日本語になってしまう。社会的なこととか歴史的なことにもふれるために、自分の経験や生活のことをブログに書いて、日本語で表現しようと思いました」


インド人ゲーマーの本領発揮


 初めは日記を書いていたが、1~2年たつと、だんだんネタがなくなってきてしまう。そこで、技術的なスキルを生かしつつ、自分がおもしろいと思うことを発信することにした。すなわち「ゲーム」である。

 

 「当時のPSP(プレイステーション・ポータブル)とニンテンドーDSの公式情報や裏情報、プログラミングの技術などをブログに書きました。“インド人ゲーマー”で検索すると、今でも出てくると思いますよ」

 

 日本人が作った技術をインド人が勉強して、日本語で発信するというブログを、8年ほど書き続けた。大好きなゲームのことを日本語で書く――。楽しみながらやっていたからこそ、無理なく続けられたのだろう。その成果もあってか、「パソコンで日本語を打つことに関しては、日本人並み」と自信を見せる。

 

 とはいえ、外国語で「書く」ことをネイティブ並みにマスターするのは、かなりハードルが高い。とりあえず「話せる」ようになるには、どうしたらいいのだろう。


正確さより伝えることが大事


 「インドの大都市に住んでいれば、たいてい地域の言語(ムンバイではマラティー語)とヒンディー語と英語の3つの言語ができます。子どものころから、近所の子がみんなバラバラの言葉をしゃべるので、すべての言語を混ぜて話すんです。そのときに大切なのは、正確に話せるかどうかじゃなくて、自分の気持ちを伝えるということ。ネイティブの完璧なアクセントを追求する必要はない。“間違ってどこが恥ずかしいんだ? ”という気持ちでチャレンジしてみないと」

 

 なるほど。完璧じゃないと恥ずかしい――。多くの日本人が、英語を学んでも、なかなか話せるようにならない理由は、この辺にあるのかもしれない。

 

 さらに「外国で現地の人とのコミュニケーションを深めるコツは、学校の授業だけでは学べないかも」とマニッシュさんは続ける。

 

 「その人が生まれ育った環境や、子どものころに何をして遊んだかということを、ある程度理解しておく必要があると思います。私は、日本のアニメを見て勉強しました。たとえば『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』を見ていても、勝鬨橋(かちどきばし)が開くということが、どんなにすごいことなのかがわからないと、実際に会話はできない。ニュースは読めても、ニュアンスが伝わらない。だから文法や語彙に頼るだけではなく、その裏の意味を知ることが大事かなと」

 

 文法だけでなく、その国の文化や風習、出来事の背景を知ることもコミュニケーションには大切だということ。そして、今の日本の若者について、率直な意見を述べてくれた。

 

 「ひと昔前の世代の日本人は、アメリカを抜いて1位になれるという夢を見ていた。でも今はそういう夢を中国に譲ってしまって、がんばっても1位にはなれないと諦めている。ナンバーワンを目指さなくてもいいんだけど、それで何もしなくてもいいということではないと思うんですよ。世界から見てではなく、自分なりのナンバーワンを探すっていう危機感が足りない気がします。SMAPだって、“ナンバーワンにならなくてもいい” って言いながら、自分たちはナンバーワンになっていますからね」

 

 あの名曲を例に挙げながら、危機感が足りないとは、鋭い指摘……。けれども、日本を飛び出してグローバルな活躍を目指す、元気な若者もいっぱいいる。そんな彼らへ、マニッシュさんから2つのメッセージ――。

 

 「1つめは、自分の目標を明確にすることや、目標に向けて行動するための思考プロセスを支える“グル”を探すこと。インドはグルを大事にするカルチャーなんです。個人的には、経営者としては孫(正義)さんとか三木谷(浩史)さん、哲学的なアプローチとしては、イチロー選手みたいな人物かな」

 

 グルとは、サンスクリット語で「指導者」とか「尊敬すべき人物」を意味する。

 「2つめは、世界にはいろんなカルチャーがあると知ること。人種や宗教は関係なく、まずは人間として接してみる。それがグローバル人材になるために、大事なことだと思います」


(取材・文/佐藤未来)


次回につづく

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