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タカシの外資系物語

ポスト “半沢直樹” は 女性バンカー! (その2)2014.04.22

    池井戸潤さんの思惑(・・・仮説ですが)

    前回の続き) 4月、春、新年度、新学期! 大手町のビジネス街でも、明らかにそれとわかるフレッシュマンのみなさんが、「制服か、それは!!」と突っ込みたくなるほど一律のスーツを着込んで、町をゾロゾロ歩いています。研修なんでしょうかねぇ・・・ ま、楽しいのは今のうちですから、存分に堪能してください、ヒヒヒ・・・(タカシ、性格悪し!)。 春の新番組での話題作に、『花咲舞は黙ってない!』という作品があります。あの 『半沢直樹』で一躍 時の人 となった、池井戸潤さんの作品です。TV局にとっては、“二匹目のドジョウ” といったところでしょうが、実は最近、ドラマや小説において、一種の “銀行員ブーム” が巻き起こっているのです。それも、“女性銀行員”。果たして、これは何を意味しているのでしょうか?


    ドラマ 『花咲舞は黙ってない!』 は、予想通り、主人公の花咲舞が、悪弊はびこる男社会の銀行を、内部からメッタ切りにするというもの。ま、女性版 『半沢直樹』 といっていいでしょう。ただ、作者である池井戸さんの真意はもっと深いところにあると思います。


    このドラマの原作は、10年以上前のものであって、正直、ちょっと古い。しかし、「女性総合職の銀行員が、男性社会をメッタ切りにする」というコンセプトは、当時、かなり斬新でした。“総合職” というのがポイントでして、彼女たちは言わずもがな、男女雇用機会均等法を経て入社した、幹部候補生です。そこには性差など一切ない、はず・・・。しかし、現実には、女性総合職というのは、男性総合職の一段下に位置付けられ、昇進も遅れる傾向にありました。10年前であれば、それが “普通” だったでしょう。


    しかし、10年が経過して、とうとう機は熟したのです! アメリカでは黒人の大統領が誕生し、次は女性大統領となる可能性もある。隣国である韓国の大統領は女性です(ま、政治手腕という意味では、いろいろ問題ありそうですが・・・)。 若手の女性科学者も台頭してきました(こちらも、相当問題ありそうですが・・・)。 池井戸さんとしては、このトレンドを活かして、真のダイバーシティを定着させるために、満を持して 『花咲舞』 を出してきた・・・。私は、そう思っています。

    小説に描かれる “女性銀行員” には、作者の性差が出る?!

    小説界では、現役の財務官僚が著した 『スコールの夜』(芦崎笙 日本経済新聞出版社 第5回日経小説大賞受賞作)が話題になっています。こちらはもっとリアルでして、主人公の吉沢環は、帝都銀行に勤める、東大法学部卒の総合職。女性では異例のスピードで昇進し、銀行の中枢である、総合企画部関連事業室の室長に抜擢されます。そこで彼女を待っていたのは、子会社のリストラ。リストラの対象となった社員の過激な反発、現役の頭取vs元会長などの派閥争いなどを交えながら、吉沢環は苦悩の日々を過ごします。


    実は、私の専門領域は、「金融機関の業務改革・コスト削減」 でありまして、これまで数々のリストラプロジェクトに関与してきました。この小説の内容は、私の目から見ても非常にリアリティがあると思います。現場はまさに、こんな感じ。ただ、1つ違うのは、日本の金融機関において、リストラの実行責任者を 女性 が務める例はないと思います。


    小説の中で、彼女をこのポストに抜擢した人事部長は言います。「リストラという “汚れ仕事” をやり抜くことで、真のエリートとして成長して欲しい・・・」 さて、吉沢環は、その期待に応えられるのか? あまり書くとネタバレになるので、続きは書店でお手にとってみてください。


    一方、私が欠かさず作品を読んでいる作家の一人、角田光代さんの新作に 『紙の月』(角川春樹事務所)という作品があります(NHKのドラマにもなりましたね)。主人公の梅澤梨花は、わかば銀行の契約社員。ま、お決まりのパターンで、付き合っている男のために、顧客の預金に手をつけていくというストーリーなのですが、ここで描かれている “女性銀行員” は、一般の方が思い描く典型的なものでしょう。いわゆる、伊藤素子(※)の世界ですね(※説明すると長くなるので、ググってください。「三和銀行巨額横領事件」として、山ほど出てきますので・・・)。


    非常に興味深いのは、男性である池井戸潤さん&芦崎笙さんが、女性総合職銀行員が活躍する小説を書いて、女性である角田光代さんが、ステレオタイプ的な女性銀行員を、書いている点です。池井戸さんと芦崎さんの小説には、女性がバリバリ活躍する理想の世界が描かれていますが、角田さんの小説には、それがない。『八日目の蝉』でもそうでしたが、角田さんの作品は、女性の弱さ・甘さと同時に、そこに潜むしたたかさが描かれていて、男性の私にとっては、ゾッとする表現もあります。角田さんは、「男女格差のない社会?! 世の中、そんなに甘くないのよっ!!」と言っているように感じるのは、私だけでしょうかね・・・


    ちなみに、池井戸さんの『花咲舞』、芦崎さんの『スコールの夜』、角田さんの『紙の月』。個人的に一番面白いのは、断然、『紙の月』 です! 池井戸さん、芦崎さん、持ち上げるだけ持ち上げておいて、ごめんなさい。角田さん、大ファンでございます! 『ひそやかな花園』、良かったですーー

    あなたは “覚悟” がありますか?!

    本題に戻りましょう。日本において、最も女性の活躍推進が遅れているとされる金融業界において、大きな うねり が起きています。上述の、『花咲舞』 『スコールの夜』 もそうですが、現実社会においても、女性の役員が続々誕生し始めています。管理職クラスにも、多くの女性の抜擢人事が見られるようになってきました。でもまだスタート地点に立ったばかり。私は、彼女たちがこれまでに味わった苦労と辛酸を思うと、本当に頭が下がります。企業風土や制度・ルールなど、まだまだ改善すべき点は多いと思います。応援しています。一緒に頑張っていきましょう!


    一方で、上を目指す女性のみなさんに、私から一言お話したいことがあります。それは、「上を目指し、上に立つ以上、覚悟と責任が必要だ」 ということです。夫や子供がいるなら、その人たちを説得して、苦労をシェアすることも、その1つです。「夫に理解がない」ではなく、まずは、「夫を理解させられない自分が未熟である」と考える。本当に仕事をしたいなら、粘り強く、真摯に説得をしてください。


    「その点、外資はそもそも男女平等だから、そういう苦労がなくていいわよねぇ・・・」 何をおっしゃるウサギさん! 外資だって同じことです。外資に対する典型的な誤解として、このコラムでも再三お話していますが、外資は勤務時間が短い のではありません。会社にいる時間が短い だけなのです。だから、男性だろうが女性だろうが、特に管理職の場合は、夜中に自宅で仕事をして、日が出るか出ないかというレベルの早朝(ほぼ始発!)に出社しています。


    本国アメリカでも同じことで、コミカルに描かれていて見過ごしがちですが、人気ドラマ 『Sex and the City』 などでも、働く女性の苦悩が描かれています。アメリカだろうが、日本だろうが、働くというのは、それなりの覚悟を有するのです。


    また、特に大学を卒業した女性は、そこで身につけた教養・スキルを、社会に還元する義務を負っていることを忘れてはいけません。『スコールの夜』の吉沢環のように、東大法学部ならなおさらです。あなたが東大法学部で勉強することができたのは、あなたが優秀だったからではなく、あなたの両親が勉強に最適な環境を作ってくれたからでもなく、国民が税金を教育という形で “投資” してくれているからに他なりません。国立の東大法学部を出たなら、その能力を社会に還元することは、義務なのです。私立も同じですよ、早慶だって、国から多額の助成金を得ています。


    国家にとって最大の “投資” が教育だとすると、子育ては極めて重要なプロセスといえます。その重要プロセスを、奥さんに完全に委ね切っている男性は、本当に猛省しなければなりません(私も含めて、です・・・)。


    科学で優れた業績をあげた女性研究者に贈られる「ロレアル-ユネスコ女性科楽賞」を受賞した 稲葉カヨ 京都大学副学長が、このようにおっしゃっています(2014/4/1付 日本経済新聞朝刊)。


    「女性研究者が育つ条件として、まず、本人の “覚悟” が重要」


    ビジネスでも同じことではないでしょうか。では! 

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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