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タカシの外資系物語

外資は不正を許さない ( その 2 )2006.06.20

アッシュの実験

今回も前回に引き続き、外資系企業における不正防止の考え方についてお話します。では最初に、みなさんに問題をお出ししましょう。

 

【問題】 ( A ) と同じ長さのものは、( 1 ) ~ ( 3 ) のうちのどれですか ?

( A ) ------


( 1 ) ---


( 2 ) ------


( 3 ) ----


「バカにしとんのか ! ( 2 ) に決まっとるやんけ … 」 その通り、正解は ( 2 ) です。当たり前といえば当たり前なのですが、実はこの問題、ある条件下においては、間違える人が続出するケースがあるのです。その条件とは、例えばここに 7 人の回答者がいて、うち 6 人が「サクラ」でわざと不正解を言うとします。


サクラ 1  「だれがどう見ても ( 3 ) だね」 
サクラ 2 「 ( 3 ) に決まってるじゃん … 」


すると、サクラではない残りの 1 名は、正解の ( 2 ) ではなく、 ( 3 ) と答えてしまう確率が非常に高まるのだそうです。これは心理学の世界で有名な「アッシュの実験」といいまして、ある調査では、75 % 以上の人が間違ったサクラの回答に同調してしまうという結果も出ているようです。


また似たような話として、私が中学生の頃、こんなことがありました。英語の時間のこと、クラスで一番の秀才 S くんが、先生が出した問題に答えていました。その問題とは、動詞の原形が黒板に書いてあって、その動詞の過去形・過去分詞を答えるというものでした。 S くんは、「 swim ( 泳ぐ )」という動詞に対して、以下のように解答しました。


swim – swimmed – swimmed


これを見て、私は思ったものです。「いやぁー、さすが S くん。 m を2つ重ねて ed 付けるなんざぁ、なかなかできんわいのぅ … やっぱり秀才は一味違うね、にくいね、このっ ! 」 
… 賢明なみなさんはすでにお気づきだと思いますが、 swim の変化は「 swim – swam – swum 」、思いっきり不規則変化をします。でも、そのときはクラスのだれも、 S くんが間違っているとは気付きませんでした。担任の先生までもが、見落としていたように思います。だって、あの秀才 S くんが間違えるはずはないんですから・・・

人間とは過ちを犯すもの

さて、「アッシュの実験」や「 S くんの swim 」から、何がわかるでしょう。それは、「人間というものは、大勢の人たちや権威のある人の意見に、いとも簡単に流される」ということです。外資系企業では、意識的であれ無意識であれ、人間はこのような過ちを犯すものだという前提で物事を考えます。ですから、全てを疑ってかかるし、どんな特例も認めない。同じ処理を 10 回やったことがある人でも、 11 回目には間違えるかもしれない、他人の意見に流されて失敗するかもしれないと考えて、社内のルールを作っているのです。


しかしこれは、日本人にはなかなか受け入れ難い部分があるのも事実です。日本的な考えでは、まず他人の意見と同調することから始まります。「赤信号、みんなで渡ればこわくない … 」ではないですが、たとえそれが間違っていたとしても、みんなと同じ意見でいることの方が重要だったりします。


また、「慣れる」ということについての考え方も違います。日本企業では、「慣れる」 = 「作業が早く効率的になる」と考えます。一方、外資系では、「慣れる」 = 「作業に緊張感がなくなり、失敗が多くなる」と考えます。ここで重要なことは、どちらが正しいとかそんなことではなく、どちらの考えを重視して社内ルールを構築するかということです。一般的に、日本人は欧米人に比べて手先が器用な民族なので、過去においてそれほど多くの作業ミス ( = 失敗 ) をしてこなかったのだと思います。なので、作業のリスク管理よりは、スピードや効率性を重視してきたのでしょう。


しかし最近になって、 1 つのミス・見落とし・見逃しが企業の屋台骨を揺るがすような事件が頻発しています。それは証券会社の発注ミスであったり、自動車会社のリコール隠しであったりといろいろですが、要はスピードと効率性を極限まで追究した結果、人間一人が扱う業務範囲が過大になりすぎたことが原因といえるのではないでしょうか。そろそろ、外資流の「慣れると失敗が多くなる」という発想に基づいたルール作りを積極的に導入する時期になってきたように思います。

「 300 」の潜在リスクに目を向けろ !

また、不正・ミスの潜在的な「量 ( ボリューム )」についての考え方も、日本企業と外資系では異なるように思います。みなさんは、「1 : 29 : 300 の法則」というのをご存知でしょうか。これはハインリッヒの法則といいまして、アメリカ人技師のハインリッヒ氏が労働災害の発生確率を分析したものです。これの意味するところは、 1 件の重大災害の裏には、 29 件の軽度の災害があり、さらにその裏には 300 件のヒヤリとした体験があるというものです。


人命に直結するような医療や建設の現場は別として、多くの日本企業においては、これまで「1 : 29 」の範囲、つまり過去において実際に事故として起こった事柄についてのみ管理するような風潮がありました。日本人は手先が器用で飲み込みも早いんだから、そうそうミスはしない。過去に起こったものを起こらないようにしておけば、事足りる … という考えです。


一方、外資系企業では、「 1 : 29 : 300 」すべての範囲、つまり実際には起こったことはないが、潜在的には起こる可能性が皆無とはいえないものも含めて管理しています。社内処理に関するルールが厳格なのもそういうわけです。外資系企業に勤める人 ( 一般の欧米人 : 特にアメリカ人 ) は、この考え方を理解しているので、手取り足取り指示し、例外を一切認めないようなルールについて文句を言うようなことがないのです。


外資のこのような考え方は、ミスや不正を防ぐという意味では大きなメリットがあるものの、管理に手間がかかり過ぎるというデメリットがあります。まず日々の業務を管理するスタッフを抱えておかねばなりませんし、どのような潜在リスクがあるかを認識するだけでも、かなりの手間がかかります。しかし、外資はそのような手間 ( = コスト ) を厭わないのです。「1:29」の予備軍である「300」を管理することこそ、不正やミスを減らす方法だと信じられているからです。


さて、日本企業に求められることは何でしょうか。それは、「バランス」だと思います。日本企業はあまりにも不正やミスに関する潜在的なリスクに無頓着すぎました。かと言って、潜在的なリスクの全てに目を配る外資流に変えてしまっては、日本の強みである効率性を損なってしまうように思います。今まで軽視された「300」の潜在的なリスクに目を向けることができれば、その中で本当に守るべきものは何なのかを見極める能力が、日本企業には存在するのではないでしょうか。今こそ、外資の考え方を一部取り入れた、日本流の不正管理を確立すべき時期であるように思います。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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