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タカシの外資系物語

外資は不正を許さない ( その 1 )2006.06.13

領収書ブランク … 許してよ

先日、わが社の経費処理センターから、こんなメールが来ました。


「 【宛名欄ブランク】 検証不可につき、経費支払できません。領収書に宛名欄がある場合 「ブランク、上様、個人名、別法人名」 は財務処理上認められておりません。業務使用であることを確認した所属長承認メールを検証者に転送ください … 」 
… あっちゃー、面倒なことになったにゃ … (T-T)


出張のときの交通費を経費申請したのですが、領収書に宛名を書くのを忘れていたようです。飛行機代なので高額だし、それなりに注意していたんですが。まぁ仕方ありません、私は所属長 ( = ボス ) にお願いし、この経費が業務使用であることを確認するメールを送ってもらうことにしました。ボスはアメリカ人なんで、説明するのが厄介なのですが、この手の処理はボスの秘書である日本人が代行してくれるので、思ったより楽なんです ( よかった、よかった … )。


しかし、宛名がブランクなだけで経費を支払ってくれないとは、ちょっと厳しい気もします。「○○コンサルティングって、チョロっと書いてくれりゃいいものを気の利かんやっちゃなぁ … 」と、思わず関西弁で文句の 1 つも言いたくなります。


これが、日本企業に勤めていた頃の私なら、間違いなくキレていたと思います。「こんなくだらんことで、いちいち連絡すんなやーー、ウォリャーーー ! 」と大騒ぎしていたかもしれません ( そもそも、日本企業の場合は、それぞれの課に所属している庶務係の女性が事前にチェックしてから提出してくれたりするので、いざ処理の段階になって今回のような問題が発生することはほとんどないのですが )。しかしここは外資系。どんなにくだらないことであっても、決められたルールを守れなかった私が悪いのであって、そんなことでキレるなんざぁ、もってのほか。「オレって、何ておっちょこちょいなんだろう … タカシ、もっとしっかりしろよ ! 」なんて自分自身でつぶやきながら ( ちょっと気持ち悪いが )、処理をやり直すのが外資のスタイルなのです ( 腹の底が煮えくり返っていようが、そんな素振りを見せてはいけないのです ! )。


それにしても、外資はこの手の処理に超厳格です。ま、当たり前と言ってしまえばそれまでですが、どんなに手間がかかろうと、ルール以外のことを認めることは決してありません。どうして外資系企業では、これほどまでに厳格な内部処理を求めるのでしょうか。

外資の管理が厳格な理由

このコラムでも何度となく触れているように、外資には様々な人が勤めています。人種や国籍はもちろんのこと、文化的な背景や受けてきた教育などを考慮すると、本当に多種多様の社員がいます。そのような社員を管理するためには、ルールに曖昧さを持たせておくと、いろいろな解釈が生まれ、管理できなくなるのです。なので、外資がガチガチのルールで社員を縛る理由は、社員の多様性にあると、私は考えています。


しかし、私のこの考え方は、外資でオフィシャルに言われていることではありません。たとえ事実だったとしても、このようには言わないのです。なぜか ? それは、私の考え方自体が「曖昧さ」を含んでいるため、説明に困るのです。


例えば、「もしタカシの説が正しいとすれば、どれぐらいの数の多様な社員がいる場合、どれぐらい厳格なルールを決めればうまくいくのか。それが論理的に説明できるのか ? 」なんてことを言い出す輩がいるのです。ご理解いただけると思いますが、「 10 種類の社員がいる場合には、ブランクの領収書を認めてもよいが、 11 種類以上の社員がいる場合はダメ … 」というように説明できるものではありません。なので、後々説明に困るような曖昧な考え方はしないわけです。


では仮に、社員のだれかから経営層に対して、「どうしてわが社の管理はこんなに厳しいのですか ? 」という質問が出た場合、どのように答えるのでしょうか。答えはおそらく、以下のようになると思われます。


「わが社が例外を認めない厳格な管理をする理由は、その方がリスク管理および収益上の観点から、いい結果を得ることができるという 【事例】 を持っているからです ! 」

ゼロ・トレランスって、何 ?

【事例】 … 前例となる事実、具体的な実例。つまり、「過去にだれかが同じようなことを試したら、こっちの方がいいという結果が出たので、そうしている」 と言っているのです。では、厳格な内部管理における「事例」とは何を指しているのでしょう。


真っ先に思い浮かぶのは、「エンロン事件」かもしれません。エンロンというエネルギー卸の会社が、会計監査のアーサーアンダーセン社とグルになって不正な会計処理を実施した結果、エンロンは破綻、名門会計事務所であるアーサーアンダーセンは解体してしまいました。しかし、この例は「厳格に管理しなかったがゆえに、うまくいかなかった」例、いわゆる「反例」です。反例は、「 Lessons Learned 」( 教訓 ) としては有意義ですが、だからどのような管理をすべきだ、という答えは示してくれません。


厳格な内部管理をいう観点で、多くの外資系企業が参考にしているのは、「ゼロ・トレランス方式」という教育理論です。「ゼロ ( zero ) + トレランス ( tolerance: 寛容・容認)」という表現の通り、要は「容認ゼロ。全く例外は認めない!」という考え方です。


アメリカでは 1970 年代から学校崩壊が深刻化し、校内での銃の発砲事件や飲酒・暴力などが常態化しました。様々な対処がなされた中で、最も効果的だったのが、「ゼロ・トレランス方式」を採用した学校だったのです。学校における「ゼロ・トレランス方式」とは、銃やアルコールの持ち込み、校内で暴力を振るった瞬間に、「即退学」というやり方です ( そりゃそうだろ、って気もしますが )。ここで重要なことは、その暴力がたとえイジメを避けるための正当防衛であったとしても認められないという点です。暴力は暴力であって、どんな場合であれ情状酌量の余地は認めないというのが、ゼロ・トレランス方式の肝なのです。


ゼロ・トレランス方式を採用した学校の躍進ぶりには、目を見張るものがありました。カリフォルニア州のある学校では、ゼロ・トレランス方式を導入して以来、校内暴力事件がゼロになったばかりでなく、学業成績においても大都市圏にある学校でベスト 5 になり、今では全米屈指の名門校になっているとのこと。アメリカでは、 1980 年代の歴代大統領が「ゼロ・トレランス」を標語として打ち出し、 1997 年にクリントン大統領が全米に導入を呼びかけることになり、今や学校だけでなく企業においても一般的な考え方として定着するに至りました。


つまり外資系企業の多くにおいて、ガチガチの内部管理を行なって不正を一切許さない理由は、ゼロ・トレランス方式での成功という事例があったからなのです。このように、外資で行なっている仕事のやり方や管理の方法には、その考え方を採用している理由や裏づけが必ず存在しています。私が経費の申請ぐらいでゴチャゴチャ言いやがって … と反論しなかった理由も、まさにその点にあります。曖昧な考えで反論しても、過去の事例・実例の前では、絶対に負けるのです。


昨今の日本企業における不祥事も、外資にとっては、恰好の「反例」としてとらえられています。次回のコラムでは、外資の内部管理や不正に対する考え方をもう少し説明するとともに、日本企業はどのようにすべきかについて、私なりの意見をお話したいと思います。

 

( 次回続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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