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タカシの外資系物語

入学テスト と グローバル人材 (その2)2013.12.10

    “受験は一発勝負!” のメリット

    (前回の続き) 「『○○を論ぜよ』と求められたからには、とにかく何でもいいから書きまくれ! わからなかったら、詩でも日記でも自己紹介でもいい、とにかく書けーーーっ!!」・・・ 前回のコラムでは、インドにおける “テスト評価” の考え方を紹介しました。


    一見、極端に思えるインドの指導方法ですが、IT分野で世界を席巻し、国際会議で積極的に意見を発する等、グローバルで活躍する人材を輩出しているという意味では、日本の評価方法よりも、グローバル人材を育成しやすい評価方法のような気もします。では、日本の(入学)テストにおいて、グローバル人材を輩出する上で、阻害となっている要因とは何なのでしょうか?


    前回お話したように、私の個人的な見解として、日本の教育におけるテスト・評価の問題点は、以下3点だと思います。 
    (1) (大学入試という観点で見ると) チャンスが1回しかない 
    (2) (これも大学入試がメインですが・・・) マークシート方式が主体である = いまや、記述式は、難関国立大の2次試験ぐらいしか見当たらない 
    (3) 対話方式でない ≒ 解答に至るプロセスやコミュニケーション能力が評価できない


    (1)について、前回の主張を補足しておくとすれば、「チャンスが1回しかない=一発勝負」 というのは、デメリットばかりではなく、いい面もあります。それは、“一発勝負に対する(かなり本気モードの)訓練ができる” ということです。ビジネスに限らず、リアルな人生における勝負どころは、そのほとんどが “一発勝負” です。二度目はありません。体調管理も含め、当日に最高のパフォーマンスを発揮するために、いかに準備するか、というのは、1つのスキルだと思います。


    ただ、多くの受験生は、受験時点では未成年です。大学に合格するか、不合格に終わるか、で人生が決まることはない(これは、「ない!」 断言します。一部、保守的な業界に学歴・学閥信仰が残っていますが、少なくとも10年後には、「どこの大学を出たか?」 よりも 「どんな(潜在的)能力を持っているか? それを裏付ける経験は何か?」 が、採用における最重要ポイントになっているはずです)のですが、自分がやりたいことが明確で、それを実現する近道として、特定の大学に入学したいと思っている学生にとっては、「人生 “一発勝負” ですから~ 残念!(ギター侍、波田陽区風って、古いしっ!)」というのは、あまりにも可哀想という気もします。そういう意味において、複数回の試験機会というのは、セーフティネット的に必要かもしれません。

    タカシが “マークシート方式” を嫌う理由

    次に、(2)の話をしましょう。いきなりですが、私はマークシート形式のテストが嫌いです。前回のコラムで、「経済的に若干にでも余裕があれば、京大に挑戦したかったなぁ・・・」 という後悔の念を書きました。実は、私は現役時代に京大法学部に願書を出しています。でも、不合格どころか、マークシート形式の共通一次の点が低く、“足切り” されたんです! 要は、二次試験を受ける権利がなかった・・・(T-T) 論述式なら、それなりに自信があったので、これは本当に悔しかったです・・・(T-T) オロロン・・・(T-T)(T-T)(T-T)


    (※参考までに、私が大学を受験した1987年というのは、国公立大学をA日程・B日程に分けて受験する制度が採られました。古くは、一期校・二期校という制度があったのですが、この場合は、一期校(難)>二期校(易) という図式(一期校に不合格だった人が二期校に行く)が成り立っていたので、わかりやすかった。しかし、A日程・B日程のときは、A日程=主に関東、B日程=主に関西、という区分けをしたために、ものすごくモメたんです。特に、A日程に回された関西の雄、京大法学部が、B日程の東大法学部の “すべり止め” にされることに対する懸念を示し、単独でB日程に変更したのです。


    よって、私はA日程=大阪市立大(←結局、ここに入学)、B日程=京大、に願書を出すことができたというわけ。あと、マメ知識としては、当時、A・B日程のほかに、“幻のC日程” というのがありまして、確か、大阪府立大学の工学部が、C日程だったと記憶しています。予想通り、志願者が殺到しまして、50倍ぐらいになっていたと思います。大阪府立大学の名誉のために申し添えて起きますと、この大学の、特に工学部は非常に優秀でして、京大や阪大並のレベルです、念のため・・・)


    話を戻しましょう。マークシート試験の最大の欠陥は、「(A) 答えが1つしかない」 加えて 「(B) 1つしかない答えを導き出すアプローチも1つしかない」 ということだと思います。要は、“1つの正答” というゴールが明確で、そこに至るレールも引いてある。あとは、いかに出題者の意図(=解答までのプロセス)を読んで、短時間で効率的に解くか?という能力を競い合っているに過ぎないのです。


    相手の意図を読む、短時間かつ効率的に処理する・・・、いずれも、今後の人生、特にビジネスにおいては必須の能力です。しかし、もっと重要な要素を忘れてはいけません。それは、実社会/現実のビジネスにおいては、「答えは決して1つではない」 ということ。そして、「答えにいたるプロセスも決して1つではない」 ということ。特に、後者は非常に重要です。なぜなら、イノベーションというのは、失敗も含めた複数のアプローチの蓄積がなければ、生み出すことができないからです。

    日本人は “セレンディピティ” を起こせない?! 

    ひところ、“セレンディピティ(serendipity)” という概念が流行りました。有名な事例として、「3M社のポストイット」が、よく引き合いに出されます。


    当初、3M社の技術者は、紙用の強力な接着剤を開発しようとしていました。その中間段階で、「くっつくが、すぐはがれる」という、非常に中途半端な接着剤が生み出され、当初は失敗作として、お蔵入りしてしまったのです。しかしある日、「この中途半端な接着剤を使った紙を、メモにすれば、どこでも貼れて、すぐにはがせて、便利じゃないか!」となって、大ヒット作 「ポストイット」が誕生するのです。


    上記の事例から、“セレンディピティ” によるイノベーションは、単に “偶然発見した産物” かのように理解している向きがいます。しかし、それは大間違い。“偶然発見した” のではなく、大量の失敗アプローチを繰り返す中で、イノベーションの元となる “選択肢” を多数蓄積したことにより、成功=イノベーション を導いているのです。「強力な接着剤」という当初のゴールからすると、ポストイットの接着力など、話にならないほど弱い。しかし、いまや、世界中で何億人という人が、毎日ポストイットを使っている。これこそ、イノベーション なのです。


    一般に、日本人は複数のアプローチを考え出すのが非常に下手です。それは、マークシート方式という、あらかじめ1つの解答に向かうためのレール(=プロセス)の穴埋めしか訓練していないからです。だから、強力接着剤の接着力をより強力にしたり、安価な価格で製造したりすること、つまり、あらかじめ引かれたレールの延長線上にある課題解決には長けていますが、ポストイットのようなイノベーションは起こせないのです。


    (※ちなみに、日本に “セレンディピティ” という概念を紹介したとされる、東京理科大学MOT大学院の宮永博史教授(『成功者の絶対法則セレンディピティ』などの関連著書多数)は、前職のコンサルファーム時代に、私のメンターを引き受けてくださった恩師です。随分ご無沙汰していますので、時間を作って、理科大の研究室に押しかけたいと思っています・・・)


    次回のコラムでは、「(3)対話方式でない」クラスやテストの功罪についてお話し、日本の教育が、グローバル人材を輩出するために採るべき施策を述べたいと思います。

     

    (次回続く)

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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