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タカシの外資系物語

成果の上がる 役員の関与とコミットメント (その1)2012.12.11

    プロジェクト成功のための最大要因とは?

    コンサルタントという職業柄、次のような質問をよく受けます。 


    「プロジェクトを成功させるための、最大の要因は何ですか?」 

      

     無理のないスケジュール、非常時のリスクプラン、経験豊富なPM(プロジェクト・マネージャ)、明確で可視化された目的、実効的な評価体系、士気の高いチーム・・・ プロジェクト管理の本には、色々と書いてあります。確かに、これらも重要かつ必須です。 
     しかし、私の経験上、成功するプロジェクトには、特定の共通項が存在します。その共通項さえあれば、上記の要素が多少欠けていても成功する可能性は高い。逆に、その共通項がなければ、それ以外が完璧でもプロジェクトが成功する確率が下がる。さて、何だと思います? 


     それは、「経営陣の関与とコミットメント」 です。どんなに優秀なPMとメンバーを集めても、経営陣の意識が低いプロジェクトは、まず成功しない。よくありがちなのが、以下のようなパターン。 


    ・ 「俺はシステムのことはわからん!」とか言って、部外者のようなフリをする ← この時代に、システムがわからん役員など、即刻退場すべきです! 
    ・ 「俺は営業の人間だから、事務のことはわからん!」とか言って、事務部門に足を踏み入れようとしない ← 営業部門だけで会社が回っていると勘違いしている役員など、不要です! 


     「確かにそうなんだけど・・・、システムや事務がわからない役員が関与しすぎると、かえって面倒なんだよねぇ・・・」 その通り。「俺は門外漢だが、やる気はある。さぁ、素人にもわかるように、じっくり教えてくれ!」 その気合は買います。しかし、役員さん、あなたのやるべきことは、そういうことではない・・・ 

    役員に振り回されるな! 使い倒せ?!

     外資系企業に転職して、マネージャー職になった当初、こんなことがありました。その日、私は担当する案件について、役員のReview(レビュー:状況報告をしてコメントをこらうこと)を受けていました。ちなみに、外資系企業における 「役員レビュー」 というのは、「ボッコボコに怒られること(今風にいうと、フルボッコ)」 と同義です。どんなに完璧なレポートをしても、まずは怒られる。怒られることに慣れてしまい、怒られても何も感じなくなった自分が嫌になりますが・・・ 


    私 「・・・という状況です。現状のコンサルティング・プロジェクトは順調なのですが、後続フェーズとして、より大きい提案をぶつける上で、その提案内容がイマイチとの評価を受けておりまして・・・」 
    役員(アメリカ人、ちなみに私と同い年だったりする) 「タカシ・・・ 後続の案件が見込めるという理由で、現状のコンサルは、かなりの値引きをしたんじゃなかったっけ?」 
    私 「は、はぁ・・・(T-T)」 
    役員 「つまり、その投資は無駄に終わりそうだ・・・、と言っているんだな・・・」 
    私 「い、いや・・・(T-T)(T-T)」 
    役員 「もしそうなったら、お前のチームの人数を半減する! 成果を出せないチームに、リソースは必要ない!!」 
    私 「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン(T-T)(T-T)(T-T)」 


     チーム半減の危機に瀕し、デスクで号泣している(泣くなよ、おいおい!)と、同僚のアメリカ人マネージャーAがやってきて一言。 
    「お前は上司の “使い方” というものがわかっていないなぁ・・・」 


    私 「だって、外資では、役員というのは絶対的な存在だろ? その役員から、『チーム半減!』と宣告されたんだぜ。もう、どうしようもないじゃん・・・ 凹むのも当然だろ?!」
    同僚マネージャーA 「NO! どアホ!! 違うって・・・ お客様と現場のことを一番わかっているのはお前だろ? 役員じゃ、ないだろ??」 
    私 「そりゃ、そうだけど・・・」 
    同僚マネージャーA 「だったら、役員に振り回されるんじゃなくて、お前が役員を “使う” んだよ。自分のやりたいように、便利にね・・・」 

    クラス委員に経営はできない?!

     マネージャーAいわく、役員と一般社員(担当者)を比較した場合、役員の方が優れているのは、“権限 = 影響力” のみであって、それ以外は、社員と同等ないしは、むしろ劣っていることの方が多い。言い換えると、役員というのは、“権限” を持った “道具(ツール)” と見なし、使い倒さなければ損なのである・・・ とのこと。 
     役員は、権限はもちろんのこと、経験・知識・判断力等、全てにおいて一般社員より優れているからこそ役員に選ばれたのだ、だから、役員の言うことは絶対なのだ・・・ と思い込んでいた私にとって、「役員= “ツール” にすぎない」 というAの見方は、まさに目から鱗でした。 


     日系企業の多くでは、依然として、社長や役員のほとんどは、いわゆる “叩き上げ” “プロパー” でしょう。社内の主要部門を満遍なく経験し、大きな失敗もなく、そつなくこなしてきた人、いわば、「優良社員の代表」のような人が役員になる。勤務年数が長いので、経験・知識・判断力等、全てにおいて一般社員より、ちょっとだけ 優れている。小学校のクラス委員みたいなもんです。将来に変化がなく、定常的な運用を継続するという意味では、クラス委員に経営を任せても構わんでしょう。しかし、企業経営というのは、環境変化に応じて、ときにはリストラや下請け切捨て等の非情な判断を迫られます。それは、みんなの代表であるクラス委員にはできないのです。 


     外資の経営陣にも、もちろん “叩き上げ” “プロパー” はいますが、彼ら・彼女らは、みんなの代表として選ばれているわけではない。むしろ、冷静に(冷酷に?)非情な判断ができる人、いざとなったら、みんなをバッサリ裏切ることができる人、が役員になっているケースが多い。この点が、日系と外資系における、経営層の資質・スキルという観点での最大の違いです。 


     では、「役員を使う」「社長を使い倒す」 とは、具体的にどういうことなのか? 次回のコラムでは、いくつかの事例を示しながら、成果の上がる「役員の関与とコミットメント」についてお話したいと思います。 


    (次へ回続く)

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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