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タカシの外資系物語

「先輩の背中を見て覚えろ ! 」 の崩壊2011.09.20

「システム移行」 に奪われた青春 ?!

少し前の、ある週末のこと。私はクライアントのシステム移行作業をサポートするために、地方に出張していました。そのときに気付いたお話を 1 つ。

 

「システム移行」というのは、新しいシステムを構築した際に、古いシステムからデータを移すことを指します。また広義には、マシン(ハードウェア機器)自体を単に移動する場合にも、「システム移行」という言い回しが使われる場合もあります。
最近、様々な業界で、システム上の不具合に起因するトラブルが発生していますが、その多くは「システム移行」が不十分であったがゆえに起こっています。なぜ、「システム移行」がそんなにも難しいのか ? 最大の理由は、現状のシステムがあまりにも「複雑」になっているからです。

 

現在、企業が持つシステムの複雑さたるや、想像を絶するものがあり、よく「スパゲッティ状態」という言い方がされます。しかし、現場の感覚では、そんなレベルではない ! スパゲッティなら、まだ目に見えるので何とかなりますが、あまりに複雑すぎて、何が潜んでいるのかよくわからない ! 闇なべの中に、スパゲッティやら素麺やらマカロニが混在している感じですかね(たとえになっとらん・・・(T-T))。

 

みなさんも、パソコンを買い換えたときにデータを移し変えた経験をお持ちだと思います。それですら、結構大変ですよね。最新のパソコンには、移行用のツール(ソフトウェア)もバンドルされていますが、そのツールを使ったとしても、完全に元のパソコンと同じデータ・環境を作成することは不可能でして、手作業でデータを移している間にモレやヌケが発生しがちです。企業のシステムは、個人のパソコンとは比較にならないぐらい複雑で大規模ですから、移行作業の大変さも半端ではありません。データにモレやヌケが発生しては一大事ですから、IT 部門や関連ベンダー、私のような IT コンサルタントなどは、細心の注意を払って、移行を計画し、何度もテストを繰り返して確認の上、実行に移す・・・ ということを行うわけです。

 

万が一にも問題が発生して、業務に影響を与えてはいけないので、移行作業のほとんどは、週末や連休を使って実施されます。最悪の場合、元のシステムに戻すこと(これを、「フォールバック」といいます)も想定して計画を立てるので、移行作業に使える時間は、長ければ長いほうがベター。よって、年末・正月やGWなどは、システム移行のオンパレードとなります。

 

私はこの業界(金融向けの IT コンサルタント)に入って早や 15 年になりますが、年末・正月や GW に十分な休暇を取ったためしがありません。毎回毎回、どこかのクライアントでシステムの移行作業、そしてそのサポート・・・ 加えて、金融機関の場合は、お盆休みも営業していますから、こちらとしても休めない。ゆえに、まとまった休みをとるタイミングが一切ない ! そういえば、もう 5 年以上、連続した休みを取っていないではないですかっ ! あーーん、私の青春を返せーーーーーっ ! (T-T) (と叫ぶ 43 歳のおっさん、奈良タカシ)。

“非常時” にこそ、“通常” で !

 

「ふぁ~~あ。眠い、眠い・・・」
クライアントの担当者 A さんが、何度もあくびを繰り返しながら、ポツリと一言。

 

私 「 A さん、目が真っ赤ですよ。大丈夫ですか ? 」
A さん 「あぁ、タカシさん。いやぁ、今回の移行作業、殺人的なシフト体制なもんで、ほとんど寝る間がないんですよね。この 2 日で、かれこれ 3 時間しか寝ていない・・・」

 

IT 業界では、よく見られる光景です。特に、今回のようなシステム移行やトラブル発生時など、有事における現場は、さながら地獄絵図。常にだれかが、バタバタと倒れてもおかしくないような状況が展開されています。

 

さて、最近読んだ本の中に、以下のような指摘がありました。

『スタッフに長時間勤務を強いると疲労が蓄積し、判断ミスが起きやすくなる・・・ 一日の勤務時間は通常通り(とすべき)・・・ 非常時にこそ、人員にゆとりを持たせようとするのは、米国の変わらぬ発想です。米政府は長年の危機管理の経験から、疲労した現場の要員が大きなミスを起こしやすいことを肌身で知っているのです・・・』 (『決断できない日本』(ケビン・メア著:文春新書)

 

私はニューヨークでも、クライアントのシステム移行作業をサポートしたことがありますが、そういえば、きっちり 8 時間勤務のシフト体制を敷いていたように記憶しています。加えて、万が一、不測のトラブルが発生した場合でも、関与する人員を増加することで対応する段取りになっており、1 人あたりの労働時間を増やすことを前提としない計画でした。作業内容は、トラブル時の対応も含め、全てマニュアル化され、基本的な知識さえあれば、だれでも処理が進められるようになっていました。

「暗黙知」システムが機能しなくなった理由

 

最近は、日本企業でもマニュアルを整備(可視化)して、業務を遂行することが一般的になってきました。これには、J-SOX の導入が一役かっていると思います(J-SOX では、企業の財務データに影響を与える可能性がある業務プロセス全てを可視化し、リスクが認められる場合には、それを統制(コントロール)するチェック機能についても、明記が求められる)。
しかし、有事対応については、十分にマニュアル化されていない。むしろ、個人の知識と経験に頼った、属人的な対応の方が期待されたりもします。いわゆる 『暗黙知』 というやつですね。私は、このこと自体を否定しているわけではありません。全ての暗黙知をマニュアルとして可視化できるはずはなく、最終的に頼りになるのは、間違いなく、経験豊富な個人に他ならないからです。

 

一方で、ケビン・メア氏が指摘しているように、個人の知識に頼ったオペレーションは、当然のごとく、特定個人に対して、過度に依存してしまうという欠点があります。今回の福島第一原発トラブル処理などはまさにその典型でして、ごく少数の人に、国の命運を任せてしまうような政策意思決定がまかり通る。そして、現場のみなさんを英雄視することで、政策の課題を曖昧にする。もちろん、福島第一原発の処理にあたられているみなさんは、本当に素晴らしい。超がつくほどのプロフェッショナルです。しかし、そのことと、生命の危険を冒してまでの作業を国が強いることとは、別次元の話です。政府は現場対応をマニュアル化し、リスクを極小化した上で、より多くの人材が、通常の勤務時間で対応できる環境を構築する義務があるにもかかわらず、実態は明らかにそれを放置しています。

 

マニュアルで可視化されたオペレーションは、マニュアル化作業や教育など、非常にコストがかかります。一方、特定個人の知識・経験に依拠したオペレーションは、非常に低コストで済みます。「先輩の背中を見て覚えろ ! 」なんてのは、要は育成のために何もしないわけですから、基本的にコストゼロで進められます。
私は、日本が短期間で高度成長を成し遂げた 1 つの理由は、「先輩の背中を見て覚えろ ! 」式発想にあったのではないかと考えています。マニュアル化・教育のためのコストなしに、人材を育成する方式。トヨタの「カイゼン」や「自働化」なども、同じ発想です。教育・育成に莫大なコストをかけるアメリカ企業からすれば、これは “夢のシステム” といえます。

 

しかし、国の経済が成熟化し、さらにバブル崩壊を経て、“夢のシステム” も瓦解していきます。企業の採用が極度に抑制されたことにより、「先輩の背中を見て覚え」てくれるはずの新人が、企業からいなくなったのです。いわゆる「失われた 10 年」において、経験・知識の継承がほとんどなされていない。近年における日本経済の弱体化は、「暗黙知システムの崩壊」にあるのではないでしょうか。日本経済復活のためにも、暗黙知一辺倒ではなく、マニュアル化・可視化の考えを、積極的に取り入れるべきだと、切に感じる今日この頃です。 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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