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タカシの外資系物語

“COOL JAPAN”と外資系( その 2 ) 2011.03.08

「ハード」から「ソフト」へ

前回の続き)中国とフィリピンから来た同僚( 2 人とも 40 歳オーバー ! )に、「日本で行きたいところはどこ ? 」と尋ねたところ、「Maid Cafe in Akihabara (秋葉原のメイド喫茶)」と回答され、驚いたタカシ。最近、アニメやマンガ、音楽といった日本のカルチャーが、“COOL JAPAN” として、海外から高く評価されています。その成功の裏には、私たちが想像しえない努力と工夫があるようです・・・


“フジヤマ” “ゲイシャ” “ハラキリ” ・・・ 過去、日本の文化が海外から注目・評価される場合、その背景には、「東洋的でエキセントリックなもの」への憧れのようなものがありました。しかし、昨今話題になっている “COOL JAPAN” では、その要素が薄くなっているように思います。つまり、日本というユニークなものに対する評価ではなく、「世界基準・世界品質を満たしたもの」として選ばれているということです。


実は、このことは非常に大きな意味を持っています。これまで、日本が生み出してきた財のうち、「世界基準・世界品質を満たすもの」として評価されていたのは、自動車や電気製品などの「ハード」が中心でした。トヨタやソニーなんていうのは、元祖 “COOL JAPAN” ですよね。今回は、その対象が「ソフト」に移っています。これまで、「ハード」分野においては、外国製品の真似をしているだけで独創性がない・・・ と揶揄され続けたわけですが、「ソフト」分野において、ようやくその独創性が認められたというわけです。


しかしまぁ、冷静に考えてみると、今まで日本のソフトが評価されなかったのが不思議なくらいでして、「グローバル諸君よ、やっと日本のすごさを理解したか ! 」という感も、なきにしもあらず。例えば、マンガ 1 つ取っても、やはり日本のマンガはグレードが高い ! 作画能力も優れているし、それ以上にストーリーが深い ! 考えさせられるし、泣ける ! 一方、アメリカのマンガといえば、スヌーピーのような一筆書きチックな 4 コママンガか、派手な色使いのアメリカンコミック。ストーリーも、かなりワンパターン路線で、深みに欠けます(これはこれで良さもありますが・・・)。唯一、アメリカの新聞に出ている風刺マンガについては、「面白いな・・・」 と思いますが、総合力では日本がダントツだという気がします。

芸術作品を “売る” という発想

さて、今回のソフト分野における “COOL JAPAN” 現象は、以前から日本に存在していたものに対して、世界がそれに気付き、目を向けただけの現象なのでしょうか ? 私は、単にそれだけでは、このように大きなムーブメントは起きえなかったと思います。では、どのような要素が加わったのか ? それは、「マーケティング」 をベースとした 「カルチャーのビジネス化」 という要素に他なりません。

 

例えば、オタク系フィギュアが驚くほど高値で取引されている 村上隆 という芸術家がいます。彼が作る美少女フィギュアは、サザビーズなどのオークションで、なんと数千万(!)の単位で取引されています。こんなこと言ったら怒られますが、単なる “人形” に数千万ですよ、数千万 ! 芸術の世界は究極までいくと、わけがわからなくなるもんですが、まさにそういう印象です。


しかし、村上氏の作品が、わけもなくバブル的に売れているかというと、そうではない。彼の手法は、ターゲットとなるオタク系富裕層に、徹底した「マーケティング」を仕掛けることから始まります。アメリカの金持ちオタクは何を欲しているか ? 背景にどのようなストーリーを忍ばせるべきか ? いくらなら買うか ? ・・・ それらリサーチの結果を作品に仕上げていくわけですが、その製作過程も匠 1 人が担うわけではなく、まるで工場のように、完全に分業化されています。また、大型フィギュアを 1 体だけ製作し、そのミニチュア版を複数製作することで、大型にプレミア感を持たせ、ミニチュア販売を商用ベースに乗せるのです。まさに、「カルチャーのビジネス化」を前提に、作品を作っている印象です。


同様の手法は、日本で爆発的に流行中の「AKB48」にも現れています。「AKB48」は、希代のマーケッターである秋元康氏による渾身の “作品” といえますが、やはり売り方がうまかった。ひとたび “ツボ” にはまったときのオタク・マーケットでは、等比級数的にブームが巻き起こることをまざまざと見せつけられました。基本的には “COOL JAPAN” も、同じ文脈の中で説明できるように思います。

「ソフト」を売るために、マーケティングしよう !

村上氏の成功を前にして、彼のアプローチに対しては、眉をひそめる芸術家も多いようです。が、これも 1 つの表現方法だと割り切ってしまえば、アリだと思うんですよね。いくら優れた作品を作っても、存在を認識されなければ寂しいし、「死んでから売れた」というのでは悲しいし・・・(こういう芸術家って、結構多いじゃないですか ! ) また、視点を変えれば、ビジネスベースで展開することによって、雇用を創出しているという意味では、社会に貢献しているわけですからね。

 

すでにお気付きだと思いますが、「マーケティング」「カルチャーのビジネス化」という手法そのものは、非常にアメリカ的な発想です。つまり、“COOL JAPAN” の成功とは、カルチャーや芸術分野に、アメリカ的な発想・手法を取り入れたことにより生まれた、ともいえるわけです。そして、このことは、日本企業が海外に進出する際の大きな示唆になりえます。


「ハード」の時代は終わり、これからは「ソフト」の時代である・・・ とよく言われます。ハードの生産主体が中国や東南アジアに移ったことにより、もはやハードには「安価である」こと以外の付加価値を提供できそうにありません。となると、やはり、ビジネスの主戦場は「ソフト」。ソフトはハードと異なり、安価で丈夫で品質が高ければ売れる、という単純なものではありません。いかにマーケットの欲している商品をタイミングよく提供するか ? それに尽きるのです。


日本では、どちらかというと、「いいものを作っていれば売れるんや ! 」といった職人気質の企業が多いように思います。そもそも、マーケティング的な売り込みが下手な国民ですしね。オリンピックの誘致合戦を見ていても、なんか勝てる気がしないし・・・ 同様のことは、鉄道や発電所などのインフラを、「オールジャパン企業」で他国に売り込む際にも生じているようです。このままでは、国益に影響が出ます ! ここらで、“COOL JAPAN” の成功にあやかって、国を挙げて、マーケティング的発想を国民に根付かせる必要があるように思いますが、みなさんはいかがでしょうかね ? では ! 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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