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タカシの外資系物語

学習雑誌休刊 と 外資系 ( その 2 )2010.02.02

「年功序列」 と 「終身雇用」

前回の続き) 最近、学年別学習雑誌の休刊が相次いでいます(学研の 『学習』 と 『科学』、小学館の 『小学五年生』『小学六年生』 など)。小学生時代、これらの雑誌を愛読していた私。「なんとなく、寂しいな・・・」という話を外国人の同僚にしたところ、「学校以外の家庭学習にまで、学年別に画一化された教材を与えるのはおかしい ! 」「そんなことをしているから、日本人は金太郎飴的で、個性のある人が少ないんだ ! 」と、手厳しいコメントを受けました(実際に、アメリカや中国では、学年別学習雑誌は存在しないか、存在したとしても日本のようにメジャーではないようです)。
今回のコラムでは、日本におけるこれら“「小学○年生」政策”(学校においても家庭においても、特定の学年においては、決められた情報・教材しか提供しない方針)が、ビジネスの現場にどのような影響を及ぼしたのかについて、考えてみたいと思います。」


“「小学○年生」政策”の成功面で特筆すべきは、日本の高度経済成長を支えた「年功序列制度」にフィットしたということではないかと思います。言うまでもなく、「年功序列制度」というのは、「年齢(=学年)」を基準にしたキャリア制度です。新人は新人、10 年目は 10 年目・・・、という具合に、年齢別にやるべきこと(ミッション、というほど大げさではないが・・・)が決まっていて、業務内容も似たりよったり。同期であれば昇進時期も似たりよったり。もちろん、中には頭 1 つ抜け出すやつが少数いるわけですが、それはレアケースであって、大部分の社員にとっては、同じ学年ならば同じ昇進タイミングとなることが普通であり、それに少しでも遅れれば、かなり焦る(汗っ ! )状況となるわけです。


また、年功序列制度は、「終身雇用制度」にも密接に関係しています。終身雇用の大前提は、「順番」です。年齢順に昇進させることで、年齢別に確立されたピラミッド組織を構成する。もちろん、同じ年齢の人全員が「部長」になれるわけではありませんが、天下り先を確保したり、「担当部長」「部付部長」などの “肩書きマジック”(肩書きは「部長」だが、実態は窓際な場合が多い)を駆使したりすることで、定年間際の高年齢層をも、ピラミッドの上位で守るわけです。

「アメリカ型経営」の到来

その後、日本経済は高度成長期を経て、安定成長 → バブル → バブル崩壊 → 景気停滞 と遷移してきました。その流れの中で、年功序列・終身雇用のベースとなった“「小学○年生」政策”を脅かす逆風が吹き始めます。それは、「若手人員減少」 と 「アメリカ型企業経営の導入」 です。


まず、「若手人員減少」については、不景気の影響で、企業が極端に新卒採用を絞ったことが原因です。ここ数年、新卒採用については、若干の回復基調が見られたものの、リーマン・ショックを受けて状況がさらに悪化しているのは、ご存知の通り。冷え切った雇用市場の中で、一握りの内定を勝ち取るために、大学生のみなさんは涙ぐましい「シューカツ」を展開しているわけです。


新卒採用の抑制により、日本企業の年齢別ピラミッド構成に歪みが生じてきました。具体的には、入社 10 年未満の若手が極端に減ってしまったのです。ちょうど、ひょうたんの上半分のような形状(ピラミッドの下位層がしぼんでいる形)のイメージでしょうか。以前ならば、新卒入社したスタッフは、十分な OJT や見習い期間を経て、一人前に成長していったわけですが、現状は企業にそのような余裕はない。「新卒入社=即戦力」とばかりに、ほとんど経験もないまま、ビジネスの第一線に放り込まれています。小学 1 年生として入社したと思ったら、いきなり 5 年生の役割を期待される、つまり、“「小学○年生」政策”では、企業の切迫したニーズを満たせなくなったのです。


次の「アメリカ型企業経営の導入」は、より直接的な影響を与えました。アメリカ型経営の大きな特徴は、「時間をかけて人を育成しないこと」にあります。違う言い方をすれば、「スタッフに過大な目標を与え、それをクリアした者だけがのし上がる」政策です。結果、即戦力の中途採用組が幅をきかせ、新卒プロパー入社組では、少数のエリートだけが昇進する。それ以外の「普通」の人は、一律、ピラミッドの底辺を構成することになります。小学 1 年生に 5 年生の役割を期待し、それをクリアすれば中学 3 年生の役割を期待する・・・ という具合です。つまり、アメリカ型経営と“「小学○年生」政策”は、そもそも相容れない考え方だというわけです。

来るべき時代に向けて・・・

これまで日本企業が取ってきた“「小学○年生」政策”は、いわば「線形(linear)」の政策です。小学 1、2、3 ・・・年生という順番と同様に、30 歳=主任、35 歳=係長、40 歳=課長・・・ と年齢別に役割が決まっていた。しかし、ここ数年の環境変化とともになだれ込んできたアメリカ型経営は、「非線形(non-linear)」が前提です。ポストが年齢別に線上に並んでいるわけではなく、いきなりポンッ、ポンッと飛ぶわけです。


実際に、私の上司も私より 4 歳年下ですし、逆に、私も年上の部下を複数管理しています。先月まで同じランクだった同僚が、何の前触れもなく、いきなり役員に抜擢されていたりもします。このような「非線形昇進」に慣れてしまえばどうという話ではないのですが、“「小学○年生」政策”を念頭に置くと戸惑うのも事実。日系企業から外資系企業に移った私も、慣れるのに 5 年ぐらいかかってしまいました。そして今まさに、同様のことが日系企業にも起こり始めているわけです。


最近頻発している学年別学習雑誌の休刊、その直接的な理由は、「少子化やインターネットの普及などによる発行部数減少」「子供たちの価値観が多様化」といわれています。しかしその背景には、来るべき「非線形時代」の到来に備えて、子供社会がその準備を始めたとも解釈できるのではないでしょうか。社会変化に対する子供の察知能力は高い。いつまでも“「小学○年生」政策”を前提に安穏としているわれわれ大人を尻目に、子供は着々と準備を開始している・・・ と見るのは、飛躍した考えでしょうかねぇ・・・


先日、社内に以下のような人事異動のアナウンスがなされました。
「人事異動 ○○事業本部 A 新役職=執行役員・○○事業担当(旧役職=コンサルティング部門マネージャー) ・・・ 」
A 氏といえば、4 年前に、私のチームに所属していたスタッフです。
「それにしても、ものすごい勢いで抜かれたにゃ・・・(T-T)」
元上司としては、部下の昇進は誇らしいことです。しかし、内心はそれほど穏やかではない。それは偽らざる心境です。
昇進が全てではないですが、自分のやりたいことを実践するためには、より上位の職階に就くことが必要です。だから私も昇進したい。しかし、もしかしたら、私の意識のどこかには、まだ“「小学○年生」政策”への執着が残っているのかもしれません。


さて、みなさんの会社ではどうでしょうか。そして、みなさん自身の準備は整っていますか。「おててー、つないでー♪」 同級生と仲良く登校した日々を懐かしみつつ、私は来るべき「非線形時代」の準備を始めたいと思います。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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