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タカシの外資系物語

「地頭力」と外資系 ( その 2 )2008.04.01

議論が始まらない !

前回の続き ) 本年度のわが社の採用面接では、“地頭力” を使ったグループ・ディスカッションを実施しています。例えば、『日本に公園はいくつあるか ? 』 というお題に対して、どのように回答するか ? 以下では、実際に学生さんが展開したグループ・ディスカッションの模様をご紹介しましょう。

 

私 「では、グループ・ディスカッションを始めます。制限時間 20 分を使って、自由に議論してください。 課題は、『日本に公園はいくつあるか ? 』 です … 」
※以下、括弧 ( ) 内は面接官としての、私の印象です。

 

学生さん達 「こ、こんにちは ! 」「はじめまして ! 」 …
( いきなり初対面同士の会話は、ちょっとキツイわな … でも、実際のビジネスでは、そんなこと言ってられないんだよ、頑張って ! )

 

学生さん達 「どうしましょう … うーーん …」
( お、おい … 挨拶だけかよ … 誰か口火切れ ! )

 

学生さん達 「うーーん … 」
( だから、だれか仕切れって、早くぅ ! )

 

学生さん達 「うーーん … 」

( Zzzzzz... って、寝そうになったわーーーーーーーー(T-T) はよ、せいやー ! )

 

学生 A 「まず、アプローチを決めるべきだと思う。単位面積あたりに何個とか、人口何人あたりに何個とか … 」
( 「べきだと思う … 」 じゃなくて、「そうしましょう」 と言え ! 言ったもん勝ちなんだから … )

 

学生 B 「そうですねぇ … どうすればいいのかなぁ … 」
( 代替案ないんなら、とりあえず A の案に乗れ ! そうしないと始まんないぞ ! )

 

学生さん達 「うーーん … 」
( うがぁーーーーーーーーーーーっ ! イライラするわぁーーーーーーーーー ! )

議論の対象が定義できない !

結局、6 人の学生さんはひとしきり悩んだ挙句、A さんの案で進めることにしました。

 

学生 C 「人口あたりで攻めるとしたら、大体 1,000 人に 1 つぐらいはあるんじゃないのかな ? 」

 

学生 A 「その理由は ? 」

 

学生 C 「いや、昔住んでたマンションって、1 棟に 1,000 人ぐらいいたんだけど、1 棟ごとに公園があったから … 」
( お、いいじゃん。そういう経験に基づいた推論ってのが重要なんだよ。そう言い切ってしまえば、だれも文句言えないんだから … )

 

学生 D 「ちょっと待てよ … そもそも、ここで言う “公園” って、どんな公園なんだろ ? 」

 

学生 C 「僕が言ってる公園って、すべり台とかブランコとか砂場とか … 一通り揃ってるやつ」
( それでいい、それで。そのまま行け … )

 

学生 E 「でも、私がよく遊んでいた公園は、海のそばにあって、端から端まで歩くだけでも、10 分ぐらいかかったけど … その公園の中に、C さんが言ってるような公園が、5 つぐらいあったわ … 」
( だから、C さんのでいいじゃん。E さんの公園は、C さんのが 5 つで成り立っているとすれば… )

 

学生 B 「そう言えば、国が指定する国立公園とか国定公園なんてもあったな … これって、歩けるようなレベルの広さじゃないけど … 」
( どんどん大きくしてどないすんじゃーーーーーーー ! C さんのも、E さんのも、全部含まれてしまうやんけーーーー )

 

学生さん達 「うーん … 」
( うがぁーーーーーーーーーーーっ ! イライラするわぁーーーーーーーーー ! )

“地頭力” と “推進力”

その後はどうなったのか ? 実は、非常にスムーズに議論が進み、6 人の学生さんは、完璧とはいえないまでも、それなりに説得力のある回答を導き出していました。よって、前回のコラムで書いた私のコメント、「ふーん、なるほどねぇ … ( 最近の学生さんは、しっかりしてるなぁ … )」に繋がるわけです。

 

しかしながら、回答はどうでもいいのです。そもそも正解など、あってないような世界なのですから。では、このグループ・ディスカッションでは、何が重要なのでしょう ? また、何が課題だったのでしょう ?

 

まず、学生さんがディスカッションで使った時間の配分を見てみましょう。

( 1 ) 自己紹介 & アプローチ決め 7 分
( 2 ) “公園” とは何か ? = 公園の定義 6 分
( 3 ) 回答を導くための実のある議論 7 分

みなさんもお気付きだと思いますが、明らかに ( 1 ) ( 2 ) に時間をかけ過ぎです。学生さん達全員が、「うーーん … 」と考え込んでしまった部分ですね。では、どうすべきだったのか ?

 

( 2 ) について、これは “地頭力” の問題です。実は、“地頭力” で最も難しい部分が、「分析対象となる定義を決めること ( この場合、何を “公園” と定義するか ? ) 」なのです。対象の定義さえ決まってしまえば、その後の議論はそれほど難しくない。特に今回の場合、インターネットなどで情報を収集できないのですから、数値の計算は「大体、こんなもんだ ! 」と割り切って進めるしかありません。

 

では、対象の定義はどのように設定すべきなのでしょうか ? それは、想定される中で最も小さい単位にすることが望ましいといえます。今回の場合なら、公園 = 「すべり台とかブランコとか砂場とかがある公園」とすればいい。議論の中では、いくつかの公園の概念が出てきていますが、それらは以下のような大小関係があります。

 

( 大 ) 「国立公園」 > 「海のそばの大規模公園」 > 「すべり台とかがある小規模公園」 ( 小 )

 

最も小さい単位に定義する理由は、「MECE ( ミーシー )」にするためです。MECE というのは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の略で、ダブりがなく漏れなくという意味。「国立公園」は、「海のそばの大規模公園」を含むことがあり、また、「海のそばの大規模公園」の中には、「すべり台とかがある小規模公園」を複数含んでいる場合がある … このように重複がある状態では、個数の議論がやりにくい。なので、ダブりがなく漏れなくするために、最小単位である「すべり台とかがある小規模公園」 を選んだ方がいいとなるわけです ( MECE については、別の機会に詳しくお話ししたいと思います )。

 

さて、ここまでは “地頭力” の議論。前回、私が、学生さんの問いに対して「 “地頭力” よりも、もっと重要な能力がある … 」と言ったのは、何を指すのか ? それは、議論を前に進める “推進力” です。今回のケースでも、この “推進力” が発揮できなかったために、自己紹介 & アプローチ決めに 7 分も費やしています。これは明らかにもったいない。

 

“推進力” というのは、押しの強さだけではありません。だれかの案に乗って、「とりあえず、やってみよう ! 」とする力、自分は意見を言わずに、司会に徹するような献身的な態度も含まれます。要は、いくら “地頭力” がいい人が集まったとしても、話が前に進まなければ、その “地頭力” は宝の持ち腐れになるのです。

 

私は長年コンサルタントをやっていますが、クライアントからの評価は、“地頭力” ではなく、圧倒的に “推進力” に対してのものが多いです。“地頭力” のある人は、クライアントにもコンサルにも結構いるのです。問題は、それが発揮できずに、停滞していること。だから、“推進力” の方が、より評価されるというわけです。

 

これは、コンサルだけではなく、外資系企業全般について言えるように思います。私の身の回りを見ても、「あの人は “地頭” がいいからなぁ … 」という理由で出世している人は、ほとんどいません。一方で、評価される人は間違いなく、「あの人はプロジェクトを “推進” する能力があるなぁ … 」などと言われています。そういう意味では、“地頭力” というのは、それをもって評価されるという類のものではなく、ビジネスパーソンが備えるべき「基本要件」のようなものかもしれません。最終的な評価は、いかに進めたか ( いかに落としどころを見つけたか、いかに売ったか … ) ということに帰結するわけですね。
 
みなさん、いかがでしたか ? 自分の “地頭” をブラッシュアップする一方で、職場に埋もれている他人の “地頭” を、いかにして機能させるか ? そんなことを考えるのも、面白いかもしれませんよ !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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