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タカシの外資系物語

顧客になれるか ?2006.03.28

企業の論理・顧客の論理

前回のコラム (『顧客の声を聞け ! 』) では、仕事を行なう上での意思決定基準としての「顧客の声」と、それを確認するための「仮設→検証」のサイクルが重要であることをお話しました。しかし現実には、企業は商品やサービスを提供する側の立場で物事を判断せざるをえないことから、本当の意味で顧客の真意の理解にはつながらないケースもあります。つまり、分析の観点がサービス提供側の一方的な観点に片寄ってしまい、顧客が何を欲しているかわからないということです。会社の机に座ったままで把握できる意見など、たかがしれているのです。


では、どうすればいいのか?それを探る前に、みなさんにクイズをお出ししましょう。 
( クイズ ) 以下の英文の空欄 ( A ) ( B ) に、適切な語句を入れなさい ( 代名詞 ) 

People buy for ( A ) reasons, not ( B ).


問題文の意味は、「人々 ( 消費者 ) は、( B ) という理由ではなく、( A ) という理由でモノを買う」といったところでしょうか ? さて、答えは・・・ ?


正解は、( A ) = their ( B ) = ours です。 People buy for their reasons, not ours. つまり、「人々は、販売側の理由 ( これを売りたい ) ではなく、自分たちの理由 ( 自分が欲しいから ) でモノを買う」となります。「そんなもん、当たり前じゃねぇか・・・」 ま、確かに解答を見てしまえば当たり前のことかもしれません。お客様である消費者は、自分が欲しいと思うから商品・サービスを買うのであって、売る側の都合を考慮してお金を払ってくれるわけではありません。しかし、売る側としては、「新商品を売りたい」「儲けの大きい商品を売りたい」という一方的な論理を押し付けているのも事実です。


外資系企業では社員に営業戦略を検討させる際に、まず上記のようなクイズと解答が示されます。そして、社員に再度問いかけます。


How should we do to make it their reason from ours ? ( われわれの理由 ( 売る側の論理 ) をお客様の理由 ( 欲しい ! ) にするには、どうすればいいのか ? )

 

正攻法

上記の問いかけに対して、最もわかりやすい解決法は、「( 1 ) ( 既存の枠組みや技術の中で ) お客様の身になって考えてみる」ということでしょう。お客様の身になって、何が欲しいのかを考え、それを売ることができれば、売り上げは上がるはずです。


しかし、それは簡単ではないことぐらい、みなさんにも容易に想像がつくでしょう。客が何を欲しがっているのかが手に取るようにわかるぐらいなら、だれも苦労しません。企業のマーケティング部門などは、お客様が何を望んでいるのかについて、そのヒントを探るために、多大なコストをかけて調査を行なっています。しかし、明確な解答など得られないのが実態です。


次にわかりやすい解決法は、「( 2 ) ( 全く新しい枠組みや技術を使って ) お客様が欲しいと思う商品・サービスを、新たに作り出す」ということです。現状では存在しない新たな市場を生み出して、お客様に「今まで気付かなかったけど、そんな新商品があるなら欲しいなぁ・・・」と思わせれば、売れると言っています。例えば、ウォークマンを例にとってみれば、以下のように整理できます。


( 1 ) の例・・・ ( 機械の ) 軽量化、しゃれたデザイン、コードレスヘッドフォン など 
( 2 ) の例・・・ i-Pod などに代表される電子媒体を利用した音楽携帯


ま、確かに、言っていることはわかります。しかし、 ( 2 ) は ( 1 ) よりも数百倍難しいことも事実です。新技術を活用した新商品・サービスを市場にバンバン出せるようなら、だれも苦労しません。 ( 1 ) ( 2 ) 以外に、お客様にモノを買ってもらう方法はないのでしょうか ?

客になる方法

上記 ( 1 ) ( 2 ) は、いわば「正攻法」の攻め方です。もちろん、企業のマーケティングに対する基本的な方針は、これら正攻法であることは間違いありませんが、正攻法だけでは短期的に収益を上げることができません。また、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる・・・」とばかり、新商品を開発していたのでは、開発費がいくらあっても足りません。


そこで、外資系企業では第3の方法を考えます。それは、「 ( 3 ) 売る側の企業が、買う側の客になりきってしまう」という方法です。ちょっとわかりにくいので、例を挙げてご説明しましょう。


例えば、お客様として、あるシステムを作りたいと思っている企業があるとしましょう。で、そのシステム開発を受注したいと思っている、売り側のシステムベンダー ( システム開発を請け負う企業のこと ) がいるとします。企業側は、予算の範囲内で、自分たちの作りたいシステムを作って欲しいという「要求」を出します。一方、ベンダーの論理としては、自分たちのやりやすい方法かつ儲かる方法で、企業にシステムを売りたいと考えています。両者の間にかい離がある以上、ベンダーの提案は、企業になかなか受け入れられません。


一般的に、システム開発の場合、買い手である企業は自分たちが作って欲しいシステムの内容を「 RFP ( Request for Proposal: 提案依頼 ) 」という形でまとめ、ベンダーに提案するよう求めます。ベンダーは、顧客である企業が出してきた RFP をもとに提案書を作成することになります。しかし、顧客である企業が作る RFP というのは抽象的な表現ばかりであるため、ベンダーの具体的な提案とは相容れないケースがほとんどなのです。


( 3 ) の方法とは、買い手である企業の「要求」を、売り手であるベンダーが一緒に作ることを言っています。「そんな無茶な・・・」と思われるかもしれませんが、あながち不可能なことではありません。 RFP を作るサポートをするという目的で、顧客企業に入り込み、作成の手伝いをしてやるのです。

もちろん、ベンダーが無理やり自分たちの提案に沿うように、顧客企業の RFP をねじ曲げてはいけません。インサイダー的な情報を得ることが目的でもありません。あくまでもフェアな立場で RFP 作成をサポートしてやるのです。重要なことは、その作業を通じて、「売り手 ( ベンダー ) が買い手 ( 企業 ) の論理で物事を見ることができる」ということにあります。外から眺めていたのではわからない顧客の論理を、内側から理解し、より的確な提案につなげる。これが、 ( 3 ) の方法の真髄なのです。


外資系企業では、「売り手」「買い手」という画一的な切り分けで、自社とお客様をとらえたりません。両者の関係は、あくまでも「パートナー」。何が欲しいのか、どうすればお互いにとって都合がいいのかということを考えて、 Win-Win の関係を築いていくというのが、外資のやり口なのです。


みなさん、お客さまと一緒に机を並べて、お客様になりきって物事を考えると、すべきことが見えてくるかもしれませんよ !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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