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タカシの外資系物語

経営判断と数字2006.03.01

QAとは何か ?

わが社には、「 QA ( Quality Assurance )」という制度があります。 Quality Assurance を文字通り訳すと、「品質保証」という意味なのですが、わが社では「案件審査」という意味で使っています。金額が 1 億円以上の案件については、 QAによる承認を経なければ、実行することができません。


QA の審査には、専門の審査官 2 名があたります。 1 名は日本人、もう 1 名は US 本社から派遣されたアメリカ人で、 2 名とも OK が出ないと承認されたことになりません。人件費にうるさい外資系企業が、 QA だけのために 2 名もアサイン ( 任務につけること ) しているのですから、この業務がいかに重視されているかということがわかります。


QA の基準 ( Criteria ) というのは公開されていますから、それを満たしてさえいれば、 QA は通ります。しかし、それが難しい。例えば、「システム開発案件の場合、クライアントの目標が具体的な開発内容で表現され、必要な工数が明らかで、開発・テスト・データ移行にかかる期間に余裕があり ・・・ 」などの要件が定められています。具体的にいうと、こんな感じ。あるお客様が、新しい人事システムの導入を検討しているとしましょう。わが社がそのお客様に対して提案する内容について QA を通すためには、その人事システムの設計書 ( 要件定義書といいます ) とそれにかかる工数 ( ワークロード、どれだけの人数がかかるか ) 、および構築にかかる期間が1年だとしたら、 1 年 2 ヶ月ぐらいの余裕が必要だと言っています。


しかし、これからお客様とシステムの仕様を詰めようとしているこの段階において、システムの設計書を出せるわけがありません。 QAというのは、起案段階では出しようもない条件を要求しているわけで、そもそも無理があるのです。 QA審査官もそのあたりは十分に理解しており、結局は、過去の類似案件などと比べて、内容やスケジュールに無理がないか等を判断する場になるというのが実際のところです。

QAの効用

私は個人的には、この QA という制度を気に入っています。その最大の理由は、「会社として、案件の是非を議論している」ということです。


私が日本の銀行にいたときによくあったのが、一部の役員の「独断」で案件可否を決定してしまい、その案件がトラブったときには、すでにその役員はいなくなっているというようなケースです。このような場合、トラブル案件に対する責任の所在が明確ではないため、多くの場合放置され、どうしようもなくなってから対応を始めてはみたものの、どうにもこうにも手の施しようがなくなっている ・・・ というのがほとんどです。一方で、わが社のように、すべての大型案件を会社として意思決定していれば、たとえその案件がトラブルになった場合でも、迅速な対応をとることが可能です。


また、 QA において定量的な数値や過去の経験値などを吟味しておくことにより、「最終的な意思決定の論点が明確になる」ということもあります。定量的な数値や過去の経験値というのは、実際には「参考値」にすぎません。本当に意思決定の難しい案件というのは、数値的には甲乙付けがたい状況だが、会社の経営としては是非取り上げたい案件をどうするか ? ということにあります。


例えば、わが社が新しい分野に進出するとしましょう。過去の経験に照らした場合、事前調査に○人、セールスに○人 ・・・ などのように、どのくらいの工数がかかるか、だいたい見積もることができます。しかし、こういう数値的な見積もりは、実はそれほど重要ではなくて、結局は経営者がその分野に進出したいかどうか、やる気があるか、ということにかかっています。 QAで数値的な分析を終了しておけば、「はい、社長さん。あとはあなたの経営者としての ”勘” にかかっています。どうか意思決定してください」と言って、経営者に迫ることが可能となるのです。

数字だけで判断できるか ?

とは言うものの、 QA の結果を無視して、自分の独断だけで意思決定するような経営者はほとんどいません。これは US 本社でも同様で、 QA の結果が芳しくない場合は、ほぼ 99% の確率で、経営会議でも否決されているようです。


何事も数字で判断すべきだということはわかります。しかし、数字で判断できることしか意思決定に使わないのなら、経営者の意味がありません。数字だけを見て良し悪しを判断するなら、小学生でもできることです。経営者にとって重要なのは、数字だけでは判断できない部分にビジネスの種を見つけ、いかにバランスよくリスクを取っていくかということに尽きます。先日も、ある QA 会議でこんなことがありました。


私 「 ・・・ ということで、見積もりベースではかなり厳しいプロジェクトとなることが予想されますが、この分野は、今後の発展が見込めるため、是非案件として取り上げていただくようお願いいたします・・・ 」


QA 審査官 「ううむ ・・・ で、その分野は、今後どの程度の発展が見込めるのかね?」


私 「ガートナー (※) の調べでは、年率 20% 以上の発展が見込めるという調査もあります・・・  (※ = ガートナー・リサーチ。 IT 関連の調査機関として有名)」


QA 審査官 「それは確かかね? 」


私 「業界誌に書いてありましたよ。あとでコピー持ってきますよ」


QA 審査官 「いや、その記事がどうこうじゃなくて、年率 20% 以上発展するかどうかということが確かかと聞いているんだよ」


・・・ んなもん、今の段階で保証できるか ! 私は、空いた口がふさがりませんでした。


私 「それは私にもわかりません。年率 20% 以上発展するかどうか、わが社の経営層に判断いただきたいと思うんですが・・・ 」


・・・ ま、おそらくはこの案件も否決されることでしょう。私としては、ここまで食い下がっておいたので、たとえこの市場が年率50% 以上の発展をして大ブレークしたとしても、それなりに言い訳が立つんですが・・・ (「こんなに発展するのがわかっていたら、なぜあのとき取り上げなかったんだ ! 」って言われなくて済むので・・・ )


でもまぁ、なんかスッキリしませんね。うちの会社も、大企業病にやられ始めているってことでしょうか。みなさんの会社は、どうですか。経営が、数字でしか判断できなくなっていたら・・・ ご用心ください !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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