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タカシの外資系物語

セールス・プレイブックで売れ !2006.02.14

またまたまた ! 拙著の宣伝で恐縮なのですが、『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』( あさ出版 ) が絶賛発売中です。横書きの装丁で、とてもカッチョよく ( 自分で言うのも何ですが )仕上がっていますので、是非一度お手にとっていただけたらと思います。よろしくお願いいたします !

新商品を売り込むとき

みなさんの会社では、新しい商品やサービスを市場に売り出す際、どのような準備を臨んでいますか ? ま、一口に「新商品・サービス」といっても、業界によって様々なケースが考えられます。典型的なパターンとしては、まず新商品の内容をマスコミなどに発表し、しかるべき広告・宣伝をします。それと並行して、営業部門では、個別の顧客 ( 企業や消費者 ) に対して、詳細な説明資料を作って具体的な営業活動を開始すると思います。

 


オフィシャルな広告や宣伝は、広報や宣伝部に任せておくとして、営業部門として重要なのは、実際にお客様を目の前にしたときに使う「説明資料」ではないかと思います。私は営業の経験そのものは少ないのですが、銀行員時代にデリバティブを使った商品開発の部門にいたことがあるので、少しは経験があります。私の場合は、事業会社向けの新しい運用商品を開発した際に、その商品の説明書を作って、営業担当者と一緒にお客様にセールスしていました。


私が作った説明書の中身は、その運用商品の詳細な説明 ( 仕様 ) とそれによってもたらされるお客様側のメリット、実際に取引を行なうための手続等をかなり詳細に説明したものでした。トータル 20 ページにも及ぶ「大作」です。その中には、金利や株価の変動パターンに応じて、いくつかのシミュレーション ( 金利や株価次第で、運用成績が異なるということ ) を提示したりしていたため、最初に話を聞いてくれる財務部門の担当者 ( 課長・係長クラス ) には、結構ウケがよかったような気がします。しかし、担当者にウケがいい反面、なかなか販売にはつながりませんでした。なぜか ? それは、実際にその運用商品を購入する権限のある、部長や役員クラスには、思うように話が伝わらなかったからです。


タカシ 「この商品、御社の運用ニーズにピッタリだと思うんですけど … いかがですかねぇ ? 」


お客様側の担当者 「いや、商品のスキーム ( 仕組み・内容 ) は素晴らしいものだと理解してるんですよ。でもね、こっちの役員連中には、その良さがなかなか伝わらなくてねぇ ・・・ すぐに返事できなくて、ほんとにスミマセン … 」


タカシ 「は、はぁ … ( がっくし ・・・ (T-T) )」

Sales Playbookの中身

結局、私がセールスしていた商品は、セールスを開始した半年後ぐらいから、徐々に売れ始めるようになりました。つまり、お客様側の担当者が、決裁権限のある部長や役員を説得するのに、約半年かかったということになります。


さて、こんな場合、外資系企業ではどのように対応するのでしょうか ? 外資系企業において、新しい商品やサービスを開発した場合、営業部門はまず「セールス・プレイブック (Sales Playbook)」なるものを作ります。セールス・プレイブックの構成は、横軸が「セールス先 ( = お客様)の部門別」、縦軸が「商品・サービスの適用パターン」から成っています。


例を挙げて説明しましょう。例えば、いま私が新しいソフトウェアを開発して、そのセールス・プレイブックを作るとします。そのソフトウェアは、金融機関向けなので、資料・説明書の聞き手・読み手は金融機関の人です。しかし、一括りに金融機関といっても、様々な立場の人が想定されます。役員 ( 経営層 ) から、企画部門、システム部門の方まで多種多様。役員の方は経営戦略の観点からそのソフトウェアのメリットを聞きたいでしょうし、システム部門の方はシステム開発や運用の観点で記述した説明書を要求するでしょう。プレイブックでは、聞き手であるお客様を、「経営層」「企画部門」「システム部門」などいくつか分類に分け、その分類毎に最適な説明資料を作成します。


次に、縦軸を詳細化します。私としては、そのソフトウェアの全機能を売りたいのですが、お客様によっては、そのソフトウェアの一部機能だけを採用したいと考える場合もあるでしょう。そんな場合に備えて、「全部適用」と「部分適用」の場合を、説明資料として分けて準備しておきます。このように、縦軸・横軸それぞれのケースにおいて、プレゼン資料と説明書を作成しておくのです。


相手が大手の社長クラスなら、【「経営層」( 縦軸 )×「全体適用」( 横軸 )】の資料を使い、また相手がシステム部門の特定業務担当者なら【「システム部門」( 縦軸 )×「部分適用」( 横軸 )】を使うというように、相手の立場によって使い分ける資料が準備されているというわけです。


これらの詳細資料に加え、Playbook のエッセンスが簡単に説明してある「Trifolds*」という三つ折のブローシャ ( = パンフレット ) も作成します (* tri = 3 つ、fold = 折りたたむ という意味 )。営業マンは常に Trifolds を胸に忍ばせ、少しでもチャンスがあれば、どこにいても説明を始められるようにしておくのです。Trifolds に記載する内容の目安は、その商品の内容とメリットを、 10 分でお客様に伝えることができるかという視点で作成します。

Sales Playbookのメリット

セールス・プレイブックを作るメリットは、 2 つあります。 1 つは、聞き手に応じた最適な説明資料を用いることで、購入の意思決定までの期間が短くできるということです。外資系企業では、銀行員時代の私のように、半年間も待ってはくれません。半年待って売れないようなら、大抵の場合、その商品は芽が出ないと判断され、撤退を余儀なくされます。そのためには、できるだけ短期間に売る必要があるのです。


「じゃ、購入権限のある役員向けの資料だけで売りに行けばいいじゃん … 」と思われる方、そういうもんでもないのです。日本の会社というのは、欧米企業とは異なり、経営者のツルの一声で商品購入の意思決定をしたりしません。「企画部やシステムの総意として OK で、かつ、経営陣もわかりやすい説明」が必要なのです。セールス・プレイブックは、このような日系企業の力関係 (Power Structure) に十分配慮して作られているのです。


もう 1 つのメリットは、営業資料を詳細に細分化することで、われわれ売り手側にも理解しやすくなるということです。外資系企業では、ある新商品のセールス・プレイブックが完成すると、営業部門の全担当者を集め、「プレイブック講義 (Playbook Lecture)」を行ないます。実際の資料を用いて、新商品の概要や商品戦略、お客様パターン別の売り込み方を、セールス部門に叩き込むのです。この講義によって、実際に商品を開発した担当者やその商品専属の営業担当者がいなくても、一般の営業マンだけでセールスをかけることが可能となります。そういえば、私の銀行員時代のケースでは、私と営業担当者以外は、その新商品をお客様に説明できないような状況だったように思います。外資系企業では、説明資料の標準化を通して、パワーセールス ( 大人数で営業する ) の素地を作り、短期間で成果を上げる仕組みを作っているのです。


わが社の営業担当者 「タカシ ! ○○ 銀行の役員向けにプレゼンが決まったから、準備頼むよ」


私 「OK! じゃ、Playbook の「役員向け」「全部適用」パターンでいきましょうかね」

ボス 「お、やってるな … Sales Playbook を使えば、いくらでも売れそうだな ! その調子でがんばってくれよ、ハッハッハ ! 」


営業担当者・私 「ハハハ … (T-T)」


… Sales Playbook があれば、「セールスがやりやすい」というだけで、「いくらでも飛ぶように売れる」というわけではありません。みなさん、くれぐれも勘違いなさらぬよう …

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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