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タカシの外資系物語

略すな !2004.06.01

私の横に座っている若手コンサルタント 2 名 ( ちなみに 20 代後半 )。何やら熱心に話しています。


A くん 「SCM の効率化を目指すなら、データは XML にして、DWH を構築、システム間の連携は STP にしたいよね。そう考えると、やっぱり ERP かな ?」


B くん 「最近は CRM だけじゃなくて、SFA の機能も求められるからね。それから、コストの観点からは、業務を ABC で分析しないと …… こういった地道な努力が TCO に貢献するんだよね !」


…… い、一体、何を言っておるのじゃ、この若者たちは ……


読者のみなさん、彼らの言っていること、どのくらい理解できますか ? え ? 知ったかぶりして、実はお前が全くわかってないんだろうって ? いやいや、もちろん私はわかっているんですよ。こう見えても、「IT コンサルタント」としてメシを食っている ( はず ) ですから …… ハハハ…… ( 乾いた笑い。結構、わかってなかったりして …… トホホ )


ここ数年の間に、私の周りでもアルファベット 3 文字略語が異様に増えてきました。これは単に、私が IT コンサルタントであるという理由だけではないように思います。つまり、日本の社会全体が 3 文字略語の洪水におそわれているような印象を受けます。


確かに 3 文字略語を使うことで、会話する上での煩雑さを解消できるメリットはあるでしょう。例えば A くんの会話に出てくる略語をフルネームに直すと、


- SCM : Supply Chain Management 
- DWH : Data WareHousing 
- STP : Straight Through Processing


となり、こんなものをいちいちフルネームの英語で話していたのでは日が暮れますし、舌を何度もかんで血だらけになってしまいかねません。ですから、会話・仕事の効率化という観点では、3 文字略語を使う方がいいのかもしれません。


しかし、そもそもフルネームの段階で何だか得体の知れないコトバ ( = 横文字 ) であるにもかかわらず、さらに略語を使ってしまうわけですから、文章の意味が極端にわかりにくくなっていることも事実です。とうことで冒頭の問いかけに戻りますが、A くん・B くんが言っている話の内容を正確に理解できる人は、読者のみなさんの中にも、あまりいらっしゃらないのではないかと思います。


では、すべてを日本語に置き換えてわかりやすくすればいいかというと、そういうわけでもありません。ちなみに、A くんの会話を、横文字を使用しない日本語説明バージョンに直してみると、以下のようになります。


A くん 「部品調達から生産・物流・販売までのプロセス ( SCM ) の効率化を目指すなら、データは Web の標準化団体である W3C によって制定された、自己拡張が可能なマークアップ言語 ( XML ) にして、データを倉庫のように蓄積してうまく活用できるようなデータベース上の仕組み ( DWH ) を構築、システム間の連携は取引の約定から資金決済および商品等の受渡までの一連の事務処理を、コンピューターにより、人手を介さずに自動的に処理を実施( STP ) したいよね。そう考えると、やっぱり企業の経営資源 (「ヒト、モノ、カネ」) に関する情報を統合的に管理し、部門や組織をまたがって最適に配分・管理・運用する手法 ( ERP ) かな ?」


なんじゃこりゃーーー ( 松田優作風 ) ! さすがにこれはやりすぎですね。かえって意味がわからなくなってしまいます。そもそも、常に辞書を持ち歩いているわけではないのですから、会話の都度、こんな噛み砕いた説明をするのは不可能です。


では、どのくらいの説明が適当なのでしょうか。当然のことながら、聞き手のレベルにもよるのですが、ま、だいたい次のような感じではないかと思います。


A くんの会話 ( タカシ修正案 ) 「サプライチェーンの効率化を目指すなら、まずはシステムに手をつける必要があるよね。データは XML のような集計・検索のしやすい形式の方が扱いやすいし、データベースも大きなのを 1 個だけ作るんじゃなくて、目的に応じて集約して検索できるようなものの方がいいだろうね。データ連携についても、手作業を排除して全自動にしたいよね。そう考えると、ERP パッケージってのは、これらの要件を満たしているっていう意味で、検討の価値があるんだろうな……」


XML や ERP なんてのは、日本語で噛み砕いて説明すると、かえってわかりにくくなります。またサプライチェーンもこのままの方がいいでしょう。ですので、少し補足した上で、そのままの言葉を使った方がいいと思います。一方、XML や ERP については簡単に説明するのが難しいので、その言葉を聞いてすぐにイメージできるようでないと、この手の会話にはついていけないということになりますな。


もちろん、( タカシ修正案 ) だって、相手によって臨機応変に変えていかなければなりません。相手がお客様なら、なおさらのことです。上の案は、相手がそれなりの IT 知識がある方用です。現場サイドの方や部長・役員レベルなら、もっと噛み砕いてわかりやすく説明しなければならないでしょう。


さて、私がここで問題視しているのは、話す相手によって説明レベルを変えねばならないので面倒だ、ということではなく、そもそも噛み砕いた説明ができる人が少ないということなのです。その傾向は、特に若い人 ( 20 代の方 ) に顕著だと思われます。


例えば、冒頭の A くん、B くんに対して、「聞き手に合わせて、使う言葉のレベルを変えてごらん ?」と言ってみます。


A くん 「そんなの無理ですよ。XML は XML だし、STP は STP じゃないですか ! これ以上、説明のしようがないですよ」 
B くん 「そもそも、これぐらいのことは自分で勉強してくれないと、話にならないですよね」


…… トホホ …… それじゃ「話にならない」じゃなくて、「話を聞いてもらえない」んだけどさ……


A くんや B くんがこういうふうになってしまったのには理由があります。 

( 1 ) 彼らが社会に出る前から、それらの言葉は 3 文字略語として、それなりに定着していたから ( よって、補足説明が必要ないと考えている ) 

( 2 ) 3 文字略語で通用する相手としか話をしていないから 

( 3 ) 外資系だから


まず( 1 )については仕方がない部分もあります。例えば、STP(Straight Through Processing) なんてのは、インターネットの世界では当たり前の話です。処理の間に手作業やバッチ処理 (※) が介在していた時代の苦労を知らなければ、STP のメリット・本質を理解することはできないでしょう (※ちなみにバッチ処理というのは、処理を一定量溜め込んでから一気に処理する方法のこと。机の上を常にきれいにしておくのではなく、ある程度散らかってから掃除するようなもんですな ← ひでぇ、例え……)。この場合には、その 3 文字略語が出来上がってきた「歴史」みたいなものを自分で勉強しなければ、わかりやすい説明はできないわけです。


( 1 )については、今のうちは若い人たちだけの世界で盛り上がっていてもいいのでしょうが、ずっとそのようにしているわけにはいきません。今後は部長や役員レベルの人とも話をしていくわけですから、そういう階層が理解できるレベルとは何なのか、これも勉強していかなければならんのでしょう。


さて( 3 )ですが、外資系に勤めているからアルファベット略語を使いがちというのは、大きな誤解です。そもそも外国人はあまり略語を使いません ! 外国人の同僚と話をしていても、彼らが略語を使っているのは、ほとんど聞いたことがありません。その理由としては、英語で会話している中に略語を混ぜてしまうと、何を言っているのかわからなくなるのです。特に外国人が日本人に対して話をする際には、聞き手に誤解を与えないように極めてわかりやすく話してくれます。なので、略語は使わないわけです。つまり、3 文字略語を頻繁に使うのは日本人だけだということになります。


私 「おいおい、そんなことではクライアントの部長や役員と話なんかできねぇぞ、んったくぅ……わかりやすく話す練習してみな。例えば、TCO って何よ ?」


A くん 「( えーー ! う、うざっ ! ) えーーっと、TCO(Total Cost of Ownership)というのは、システムを維持していくためにかかる総コストのことで ……」


私 「お、調子いいじゃん ……」


A くん 「TCO 削減のためには、ASP 使うとか、思い切って運用を BPO しちゃうとかするといいっすね、と ……」


私 「…… 略すな ! と言うとるやろが ……」


A くん 「じゃ次に、このパワポを見てください、っと ……」


私 「…… パワーポイントと言え、パワーポイントと !」 


トホホ …… こりゃ、かなり重症のようです …… 彼らにはまだまだ OJT が必要 ……( おっと危ねぇ …… )、実地教育が必要なようですね。


以上、いろいろ書きましたが、まずわかりやすく話すということ、そして、略語を使うにしても TPOに合わせて……( またまた危ねぇ…… )、時・場所・状況に応じて使う必要があるということです、はい。


…… ところで、略語を使わずに話すって、結構疲れますね …… トホホ ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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