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タカシの外資系物語

社内プロセスの重要性2004.04.23

「あーあ、どうしてこんなことまで自分でやんなきゃならないんだろうね、まったく ……」


外資系企業に転職して 7 年、幾度となく繰り返してきた言葉です。


「契約書 DB への登録とか、支払口座の変更だとか、こんなのはまとめてだれかがやってくれりゃいいのに ……」


ホントにその通り。しかし、これはおそらくどの外資系コンサルティング会社でも同じでして、コンサルタント自らが、顧客との契約書を管理し、顧客が支払う代金の支払にまで関与しなければなりません。そもそも会社の組織として存在しているのは、人事・システム ( 運用部分 )・総務・経理・サポート ( 秘書 )、そして私が所属するコンサルティング部門、以上で終わりです。そのうち、人事 ( 採用・研修以外 ) ・システム ( 運用部分 ) ・総務の大半は外部の会社にアウトソースしており、社内にはほとんど存在しません。秘書の多くも派遣のスタッフさんですから、実質的に会社には「コンサルタント」という部門に所属している社員しか存在しないわけです。つまり、業務上起こりえるすべての事柄は、コンサルタント ( = 自分 ) で処理するしかない、ということになります。


半年前に転職する際、実は一番気になったというか、イヤだなと思ったのは、「また 1 から社内プロセスを覚えなければならない」ということでした。私は自分で言うのも何ですが、元来あまりキッチリした性格ではないものですから、この「社内手続」というのがあまり得意ではないのです。前の会社にいたときも、一通りの社内手続を覚えるのに 1 年以上かかったような気がします。「社内プロセスを覚える前にクビになったりしたら、シャレになんないなぁ ……」なんていう、何とも情けない不安を胸に転職したわけです。


実際にそういうケースは頻繁に起こりえます。特にマネージャークラスの人材では、半年やって案件の 1 つも取れない場合、それとなく「退職勧告」がなされます。そして、次の半年でも何も取れなかった場合には、本当に会社を辞めなければなりません。このような場合、案件獲得からプロジェクト完了、顧客からのフィーの徴収といった一連の流れに則した社内プロセスを覚えるどこ 
ろか、全く経験することなく退職することになってしまいます。


「社内プロセスなんて覚えても、何の得にもならない。要は稼げばいいんだよ、稼げば ……」なんて考えている方も多いのではないでしょうか。確かに、「稼ぐ = 収益を上げる」というのは絶対条件なのでしょうが、その一方で、社内プロセスに疎い人は、いくらか稼いでも思うように出世しないのも事実です。


日系企業、それも特に大企業から転職してきた人材の中には、このことを理解していない人が結構います。日系企業では、顧客との折衝がうまくて、最終的に案件をクローズする ( 獲得する ) 能力が高いだけの人を指して、「営業のエキスパート」とか「営業のプロ」と呼んでいます。しかし、こういう人に限って、案件が取れた後の社内プロセスには関心がなく、「あとはバックオフィスに任せておけばいい !」みたいに考えている人が多いと思います。


例えば、月締めギリギリに案件を獲得して、締め処理に間に合わないような場合を想定してみましょう。


日系企業でいう営業のプロ A さん 「あー、B さん、いいところに …… ○○社の案件なんだけど、今日契約してきたから …… 今月の締めに間に合わせてね ! よろしくーーっと」


バックオフィスのスタッフ B さん 「ちょ、ちょっと、困りますよ A さん。今日はすでに月末なんですから、今からじゃもう間に合いませんよ ……」


A さん 「( にゃ、にゃんだとーーーぉ …… 営業実績 No.1 のオレ様が言ってるんだぞ、コノヤロ …… ) あのねぇ、B さん。オレだって月末ギリギリにしたくてやってるわけじゃないんだよね。会社のためを思って、下げたくもない頭下げて営業してるんだよ …… わかる ? すべてはお客様あっての話なんだからさ …… ちょっとぐらい無理きいてよ、ね ?」


B さん 「( ちぇっ ! 営業部長にチヤホヤされてると思って、いい気になりやがって …… ) はいはい、わかりましたよ ……」


A さん 「さんきゅ !( 最初から黙ってやれよな、コイツ ! )」


結局、バックオフィスの B さんは○○社の案件を今月の締め処理に間に合わせるために、深夜まで残業する羽目になります。社内の評価についても、営業の A さんは評価されるものの、その契約を徹夜で処理したバックオフィスの B さんは一切評価されません。これって、何だかおかしい気がしませんか ?


外資系企業の場合には、このような状況になりにくい仕組みになっています。なぜなら、案件を獲得した者自らが、後続の社内プロセスまでやってしまわなければならないからです。


外資系企業 C さん 「や、やっべー …… 契約取れちゃったよ …… 締めまでに間に合うかな …… あと 3 時間しかないよ ……」


( C さん、システムの運用センターに連絡する )


C さん 「あ、運用センターさんですか。あのーー、今日の締めなんですけど、ちょこっと延長してもらえませんかね ? …… え ? 月末にそんなことできるかって ? いや、そこをなんとか …… だ、だめか …… トホホ ……」


( 結局、○○社の案件は月締めに間に合わず、C さんの今月の評価には加味されない )


…… なんてことになるわけです。ですからこのような場合、後続処理を理解した外資系企業の担当者は、もっと早い段階から顧客との交渉を行って、処理が無理なくスムーズに進むように配慮します。日系の営業担当者が全く配慮に欠けるとは言いませんが、外資系企業の方が、このような意識が高いのは事実です。


後続処理まで含めた業務全体の流れをつかんでおくと、そこから逆算して、今やっている作業の位置づけを明確にすることができます。この作業は何日でやるべきだとか、この作業は後続に影響を与えないので、今はとりあえず省略してしまおうだとか、自分で作業プランをデザインすることができるようになります。


そもそも、大量生産に基づく分業作業は、欧米が元祖です。かの経済学の祖、アダム = スミスは言いました。「1 本のピンを作るのに、全ての工程を 1 人でやるのと、工程を細分化して流れ作業でやるのとでは、作業効率に格段の差が出る……」 ま、そりゃそうなんでしょうよ。しかし、近代企業における仕事は、ピンを作るほど単純な作業ではありません。特に、ホワイトカラーの多くの作業は、分業するよりは 1 人でやってしまった方が早い場合の方が多いのです。いや、製造業においてすら、いわゆる「セル型生産方式」ということで、1 人で全てやった方が効率的であることが確認され、多くの企業に導入されているのです。


営業活動と案件成約後のバックオフィス作業というのは、まさにその典型ではないかと思います。つまり、営業マン ( ウーマン ) が自分でやった方が、分業よりもはるかに早いと思うのですが、みなさんはいかがでしょうかね ?


そもそも欧米では、作業を切り分けること = 賃金の格差 を意味します。つまり同じ会社であっても、作業の質が違うならば、給料も違うわけです。一方で、日本企業においては、少なくとも営業・企画・管理・開発部門 ( いわゆるホワイトカラー ) に属していれば、作業の質を問わず、給料は一定です。では、どうしてホワイトカラー内で上記のような分業体制を作ってしまったかというと、それはスキルの低い人を救済するという意味合いが強いのだと思います。みんなが同じ、「一億総中流」という状況を作るためには、ホワイトカラー内に分業を設定することで、本業のスキルが劣る人を救う必要があったのです。


外資系企業には、そんな甘っちょろい考えは存在しません。要は、営業でも社内処理でも、うまくできる奴が勝って、それ以外はダメという考えしかありません。


さて、話を戻しましょう。要は、外資系企業では、何でもそれなりにうまくこなせなければ出世しないということです。分業化された大企業において、「営業のプロ」とチヤホヤされたからといって、外資系企業でも通用すると思っては大間違い。自分の専門で慣れた仕事しかしないような人は、外資系企業では浮いてしまいますし、出世もしないというわけです。


それから、外資系企業では社内プロセスがそのときどきの状況に応じて、柔軟に変更されます。これは、常に担当者自らが「最も効率的な作業方法は何だろう ?」という意識で作業しているからです。なので、マニュアルもあってないような部分もあるのですが、それはそれで結構。早く効率的に作業できればいいわけで、過去のマニュアルに固執する必要はありません。


このように、外資系企業では、かなり名前の知られた大手であっても、内部処理はベンチャー企業のような趣があります。それを自分のものとし、その処理(たとえ内部処理であっても)を心底楽しめるような人材が、外資系企業に向いている人材だと言えるのではないでしょうかね。


なーーんてね、今回の話は、ちょっとシブかったでしょ ? まぁ、たまにはこういう「影」の部分も紹介しないと …… って、あれ ? 今日って月末でしたっけ ? し、しまった …… 締め処理に間に合わない …… だれかーーーーーー、処理手伝ってーーーーーーーーーーーーー、トホホ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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