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タカシの外資系物語

クレーム客さん、いらっしゃい !2004.01.30

先日、わが家の掃除機がこわれてしまいました。実は、2 年半前に購入してから、今回で 3 度目の故障です。「 2 年半で故障 3 回って、何かおかしいんじゃない ?」と思われるかもしれません。私もそう思います。ただ、わが家の掃除機って、コードレスなのです ( 実はちょっと自慢 )。2 年半前、海外の某有名メーカー F 社が大々的に売り出したものなのですが、はっきり言ってその後は鳴かず飛ばず。要は、製品としてはイマイチだったわけです。そんなわけで、頻繁に壊れるのも仕方ないかな、と半ば諦めていた部分もあります。


元来、私は電化製品というものをあまり信用していません。「壊れて当たり前」ぐらいに思っておいたほうが、何かあったときにむやみに怒らなくてすむじゃないですか。なので、ポイントカードで 20% 還元のお店も多い中、私はアフターサービスが重視したお店を選ぶように心がけています。この掃除機を買ったのも、ポイント還元は少ないのですが 5 年保証を売りにしているお店です。しばらく掃除機が使えませんが、ま、タダで修理してもらえるのですから文句は言えません。


掃除機を預けて 1 週間後、お店から連絡がありました。


「お、早いじゃん。さすが、○○デンキ !」


担当者 「タカシさんでいらっしゃいますか ? ○○デンキの者ですが ……」


私 「さすがアフターサービスの○○さん、早いっすね ! 週末に取りに行きますよ ……」


担当者 「いや、実はですね …… 実費費用がかかるんですよ …… 」


私 「え ?」


担当者 「掃除機の充電池がやられてましてですね、充電池は消耗品なので、 1 万 5 千円かかるんです、ハイ ……」


…… にゃ、にゃんだとぉーーーーーーーーーーーーーーー !


私 「で、でも、おたくは 5 年保証なんでしょう !? 充電池は対象外だって、どっかに書いてあるとでも ……」


担当者 「…… あるんです、保証書の裏に ……」


い、いかーーーーーーーーーーん、本当に書いてあるじゃーーないですかぁーーー !


私 「い、いや、書いてあろうがなかろうが、 2 年半で壊れるものを作った F 社も悪いし、売るときにそういう説明をしなかった○○さんも悪い。とにかく、 1 万 5 千円なんて絶対払わんからな !」 ガシャン !


まるで理不尽なガンコ親父です。でも、ちょっとぐらい文句を言いたかった私の気持ちもわかってくださいな。トホホ …… 1 万 5 千円は痛いなーー、いっそのこと新品買おうかなーー……


翌日、朝の 9 時ちょうどに、私の携帯に電話がかかってきました。


「もしもし、タカシさんですか ? F 社のものです。○○デンキさんで購入されました掃除機の件で、お話さしあげたいと思うのですが ……」


電話の主は、掃除機のメーカーである F 社のカスタマー・サービスの人でした。彼の言い分を要約すると、以下の通り。


( 1 ) 今回の件は、○○デンキ担当者の対応が悪く、申し訳なかった。


( 2 ) 悪いのは○○デンキだが、F 社としてもメーカーとして、販売担当者の対応と無関係というわけではない。なので、申し訳なかった。


( 3 ) 今回はおわびの意味も込め、「無料」で修理させていただきたい。なお、今回の件はお客様だけの特例なので、周りのみなさんには言わないでいただきたい。


「む、無料 …… ゴネてみるもんやなぁ …… 涙、涙、( T-T )、( T-T ) …… 」 ということで、ねばった甲斐あって、修理代を無料にすることができました。よかった、よかった ……


さて、消費者としてのタカシは、この経験を通してどのように変貌するのでしょうか。それは間違いなく、「外国メーカー F 社の大ファンになる ! 」ということです。上記 ( 1 )( 2 ) だけ読むと、何となく○○デンキに責任を押し付けているようで、ちょっと気に入らないと感じるかもしれません。私も最初はそう思いました。でも、そんなことはちっとも問題にならんのですよ、実際のところ。なんと言っても「タダ !」にしてくれたのですから。


F 社の対応は、まさに外資系企業の考え方そのものだと思います。外資系企業では、「クレーム客とウダウダ話しているぐらいなら、妥当性が認められる方法で、一刻も早く解決してしまいなさい」という考え方があります。今回のケースでも、分からず屋の私と 1 時間も話をすれば、すぐに 1 万 5 千円ぐらいのコストはかかってしまいます。私が要求しているのは、修理費を無料にしてほしいということなのですから、それをかなえてやれば、私はサッと引くのです。


ここで難しいのは、「妥当性が認められる方法で」という部分。外資系の合理的思考も、すべての場合に当てはまるわけではありません。例えば今回のケースでも、私は新品と交換しろなどと、無理を言ってゴネているわけではありません。おそらくこの掃除機の充電池は、私以外にも多くのクレームが来ているはずです。F 社としても、正直なところを言えば、あまりつっこまれたくない部分なのだと思われます。つまり F 社としても弱みがあるわけでしょうから、早く解決した方がいいのです。企業にとって妥当性が認められるということは、こういうことなのです。一方的な恐喝・脅迫行為に屈しているわけではないのです。


今回の件、F 社にとって最大の利点は、実は別のところにあります。それは、私がこの話を周りのみんなに言いふらすに違いないということです。上記 ( 3 ) で F 社の担当者は「周りのみなさんには言わないでいただきたい ……」と言っていましたが、本心は違います。これは、「どうか周りに言いふらしてください !」と言っているのに等しいのです。そんなことをしたら、私と同じようにする人がたくさん出てきて困るじゃないかと思うかもしれません。でも、F 社にとってはそれほど困ったことにはならないのです。なぜなら、私と同じような状況になるためには、まず F 社の掃除機を買わなければなりません。次に、充電池が故障しなければならないわけですが、これも全部が全部壊れるわけではないでしょうから、私と同じ状況になる人はごくわずかです。仮に万が一、同じ状況になったとしても、充電池を無料交換してやるだけの話です。大した話ではありません。


一方で、私が周りに言いふらす宣伝効果は絶大なものです。このコラムを書く以前に、すでに 10 人以上の同僚に話しているぐらいですから、最終的には少なくとも 20 人以上に言いふらすことになるでしょう。私から話を聞いた何人かは、近い将来に F 社の商品を買うと思います。なんと言っても、ゴネれば修理代が無料になる F 社なのですから、消費者としても安心この上ないと思いませんか !


私が勤めている外資系企業では、以下のような標語があります。


「 5 good reputations = 20 bad reputations ( 5 つの良い噂= 20 の悪い噂 )」


何を言わんとしているかというと、「良い噂 ( 評判 ) は 5 人に言いふらす、悪い噂は 20 人に言いふらす」、つまり、消費者というものは悪い評判ほど多くの人数に言いふらすものだということ。逆に、悪い評価が良い評価に変わった途端に、消費者の態度は豹変します。この場合には、はじめから良い評価であるケースよりも、より多くの人に言いふらすに違いありません。


外資系企業というのは、このようなクレーム客のアクションを、経験則として理解しています。特に米国は訴訟社会ですから、クレーム客の数は日本社会の比ではありません。そんな外資系企業に共通する考え方は、「クレーム客こそ味方につけろ」ということ。クレーム客を自社のファンにしたときの、爆発的なマーケティング効果の威力を、身を持って知っているわけです。最近日本においても、クレーム処理の本がベストセラーになったりしていますが、まだまだ外資系企業のノウハウには勝てないと思います。消費者の嗜好がますます欧米化していく中で、日本企業は、もっと外資系企業の「クレーム処理術」を学ぶ必要があるのかもしれません。


「タ、タカシさぁーーん。XX銀行の□□部長という方からお電話入ってますよ。何やらえらい剣幕ですから気をつけてくださいよ !」


「あ、あぁ ……」


セクレタリーから電話を転送された私。どうやら顧客からのクレームのようです。顧客からのクレームこそ、大きなビジネスチャンス。早速、実践に移してみましょう。


「もしもし、タカシでございます。いかがされました ?」


「タカシさん、あんたの提案書、ウソばっかりじゃないか ! 私をだましたのか !」


…… ビジネスチャンス、ビジネスチャンス ……


「あんたがその気なら、こっちにも考えがある。この契約以外のおたくとのすべての契約についても見直すつもりだからな ! とんでもないヤツだ、まったく !」 ガシャン !


…… ビジネスチャンス、ビジネスチャンス ……って、やっぱりクレームは嫌だよーーー、えーーーーーーーん、こわいよーーーーーーー …… どうしよーーーーーーー( T-T )、( T-T ) …… って、まぁ現実はこんなもんですよ、ハイ …… トホホ ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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