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タカシの外資系物語

リストラによる転職 ( その 2 )2004.01.23

前回の続き )銀行員時代の後輩であるマサルと久しぶりに連絡を取ったところ、彼は銀行を辞めて外資系企業に転職を考えているとのこと。彼が転職を決意した理由は、「今の銀行で仕事を与えてもらえず、干されている」というものでした。


私 「干されてるって言うけどさ、どんな感じなの ?」


マサル 「去年の 6 月に、証券のディーリングから事務部門に異動になったんですよ。自分としてはしばらくディーラーをやるつもりだったんで、事務をやれって言われたときは結構ショックだったんですがね ……」


確かにマサルの言う通り、ディーラーから事務への異動はショックです。どちらがえらいというわけでもないのですが、ディーラーは事務に比べると、自分で積極的に希望してやっているケースが多く、他の仕事より個々人の思い入れが強い傾向があるのです。私が銀行員時代にシステム部からデリバティブのディーラーになったときも、通常の人事異動ではなく、「フリーエージェント制度」を使って自分で手を上げてアピールしなければ異動できませんでした(No. 113 「FA(フリーエージェント)宣言しよう !」参照)。つまり、それぐらい積極的にアピールしないと就けない業務ということで、その反動からか、ディーラーの人は自分が他部門より格上かのように、えらそうに振舞ったりします。若かったせいもありますが、私もそうだったのでよくわかります。


私 「そりゃショックだわな。ディーラーから他部門への異動って、何人ぐらいいたの ? 2, 3人 ?」


マサル 「 15 人でした」


私 「 15 人って、ほとんどじゃねぇか ! そんなことしたら仕事回らなくなるだろうに」


おそらく銀行としては、ディーリング業務を大幅に縮小しようとしているのでしょう。確かにディーリング業務は「水物」でして、儲かるときはすごく儲かるのですが、ダメなときは銀行を赤字にしてしまうほど、足を引っ張る可能性があります。バブル期の銀行収益は、不動産投資やディーリングに大きく依存していたわけですが、それが「偽りの収益」だったことは歴史が証明しています。最近の銀行はハイリスク・ハイリターンの事業を避ける傾向がありますので、その流れでディーリング業務も縮小傾向にあるのは事実です。


マサル 「私の同期で東大や京大卒のやつなんかは、企画部門なんかに異動になったんですがね。ま、三流大学卒の私なんかは、企画になんか行けるわけないし ……」


…… 私がいたころと、全然変わってないな …… 全く、進歩のない組織だねぇ ……


マサル 「 15 人のうち 5 人は、異動を機に外資系の銀行に転職しましたよ。やっぱりディーラーがいいって ……」


私 「お前はどうだったの ?」


マサル 「私も行きたかったんですが、悲しいかな、どこからも声がかからなかったもんで ……」


私 「あ、そう …… ( こりゃ失敬 ) で、今回は声がかかったわけだ」


マサル 「ま、そういうわけですね」


なーんだ、そういうことならリストラされて、泣く泣く転職するっていう感じでもないじゃん。よかった、よかった ……


私 「具体的に、どこ行くつもりなの ?」


マサル 「○○生命ですけど ……」


私 「おっ、生保で証券ディーラーって、シブイねぇ。運用する金額がハンパじゃないから、きっと面白いぜ !」


マサル 「いや、ディーラーじゃないんですけど ……」


私 「え ? じゃ、何するんだよ ?」


マサル 「保険の勧誘ですよ」


私 「か、勧誘 ? じゃ、保険のおばちゃん ってこと ?」


マサル 「FP ( ファイナンシャル・プランナー ) って言ってほしいですね。おばちゃんにも失礼じゃないですか。年収 1 億円の人もいる世界なんですよ」


私 「あのさぁ …… 結局のところ、ディーラーか FP か、どっちになりたいの ?」


マサル 「そりゃ、できることならディーラーになりたいですよ。でも、それも難しそうだし …… それよりも FP に向いてるって、そりゃもぅ熱心に勧誘してくれる人がいたんで …… 」


私 「だれだよ、それ ?」


マサル 「ヘッドハンティングの△△コンサルティングですよ」


私 「そ、それって ……」


それって、銀行にはめられてるんだぜ …… 私は口から出そうになった言葉をグッと飲み込みました。実はこういうことなのです。外資系生保を中心に、FP の採用ニーズは、依然として多く存在しています。FP は高度な金融知識と営業能力が要求されますから、元銀行員というのは、それら生保会社にとっては、FP として「金の卵」であることは間違いありません。保険のおばちゃんの例にもあるように、FP で成功すれば年収数千万も夢ではないのですが、一方で、成功する人はごくごくわずかという実態もあります。基本的に給料は歩合制、完全に実力の世界だといえます。そういう事情も手伝って、リターンが見込める割にはリスクも高いため、なり手が少ないのです。リスクを負うのは FP 側ですから、生保側としては、できるだけ多くの人を集めて、そのうちの数% でも成功してくれればいいということになります。


では、生保会社はどうやって「FP の卵」を集めているのでしょうか。このやり方がすべてとは言いませんが、どこかのヘッドハンティング会社を使って、現役の銀行員や証券マンに片っ端からスカウトの電話をかけさせるようなこともしているようです。ヘッドハンティング会社は言葉巧みにこうささやきます。「あなたなら、証券ディーリングの経験を活かして、 FP として絶対に成功しますよ !」


これだけなら、私は文句を言うつもりはありません。本人がリスクをとって頑張ろうと思っているわけですから、成功するも失敗するも本人次第です。これこそ「外資系」の世界です。ただし、マサルのケースは、まず間違いなく、銀行の人事部がヘッドハンティング業者に名簿を渡しています。つまり、銀行としてリストラしたい人物を、うまい形で辞めさせようとしているわけです。


「そんなバカな ……」と思われるかもしれません。私も信じたくはありません。でもおそらく間違いないのです。なぜなら、私も銀行のディーリング部門にいたときに、同じヘッドハンティング会社から、同じ誘いを受けたのです。それも全く同じ「○○生命」へのハンティングでした。


当時 ( 6 年前 )、私がいた銀行は海外撤退を決め、ディーリング部門の大幅な縮小を進めていました。マサルのいた証券部門は対象ではなかったのですが、私がいた外国通貨のデリバティブの部門は近いうちに消滅することが決まっていたのです。そんなとき、私がいた部門の数人に対して、△△コンサルティングから連絡がありました。私はそのうちの3人と、「おまえもか?」「なんだ、おまえもかよ」と確認し合ったので、間違いないのです。他の部門にいる同僚には、そういう連絡はなかったようです。そして今回、マサルにも同じスカウトが来たわけです。これは単なる偶然ではなく、何らかの組織的な圧力がかかっていると考えるのが自然でしょう。


私はマサルに、次のように言いました。


私 「マサルさぁ、もしかしたら、お前を辞めさせるために、銀行が△△コンサルティングに頼んで、ヘッドハンティングさせてるのかもしれないぜ。過去にも、似たような話を聞いたことがあるもん」


マサルはしばらく何も話しませんでした。重苦しい雰囲気の中、彼は沈黙を破って次のように言いました。


マサル 「タカシさん、なんとなく、私もそうだと思っているんですよ。でも、それならそれで、その誘いに乗ってみようかなって、そう考えているんです。今まで頑張ったきた社員に対して、そんな仕打ちしかできない銀行に、いつまでもしがみついていても仕方ないんでね。もう一度、新人のつもりで頑張ってみようかなって ……」


マサルは何もかもわかった上で、私に連絡してきたのです。彼の決意は固く、私のアドバイスを聞くというよりは、私に何かを「宣言」しているかのようでした。


彼は 8 年間勤めた銀行を 1 月末に退職し、 2 月から FP として○○生命の契約社員として働きます。当面の目標は、まず最初の契約をとること、そして FP の資格を取ることだと言っていました。かわいい後輩のためです。私が彼の最初のお客さんになりましょうかね、トホホ、またお小遣いが減る ……


世の中に存在するヘッドハンティング会社のすべてが、△△コンサルティングのようなことをしているとは思いません。私がお付き合いのあるヘッドハンターは、みんな誠意のある方ばかりです。でも私は、一番問題なのは、マサルを、そして過去には私を「売った」銀行にあると思っています。経営が苦しいのなら、正直に「苦しい」と社員に言った上で、一緒に考えればいいのです。戦略的に構想外になってしまった人材には、彼らが転職しやすくするために、いろいろなサポートをしてやってしかるべきでしょう。それを陰でコソコソと、何もなかったかのように始末しているわけです。


私が再度みなさんに言いたいことは、決して会社に負けてはいけないということです。もしかしたら、自分が会社にとっては戦力外になっているのかもしれません。もしそうならば、それを正直に会社に言わせればいいのです。あなたにスキルがあるのなら、他の部門への異動をアピールできます。他の仕事はしたくないとかスキルの問題でできないというなら、会社に転職のサポートを要求するのです。何度も言うようですが、リストラは会社(経営)の責任なのですから、強い意志を持ってそれを主張すべきなのです。


今年も 1 年が始まりました。今年こそ、日系企業が復活しますよう、そしてその陰で泣き寝入りしているリストラ組の人数が減りますよう、心から期待したいと思っています。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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