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タカシの外資系物語

前の会社の顧客を攻めろ ! ( その 2 )2003.11.21

前回の続き )「さて困ったことになりました。転職して初めての営業活動を開始したのはいいのですが、そこで前職の同僚アキラと鉢合わせ。加えて、その顧客は前職時代に私とその同僚が開拓した顧客だったのです。


「いやーーー、ご無沙汰しています。会社は変わっても、お互い今後とも頑張って、いい仕事をしていきましょうね !」なーんていう挨拶をするはずがありません。いまやライバル同士、激しい火花を散らしているのです。


アキラ 「あれれ ? タカシさんじゃないですか、面白いところでお会いしましたね」


こいつ、全然変わってないな …… 相変わらず、イヤミなやつ …… アキラは私より 2 歳年下です。某有名国立大卒に加えて MBA ホルダーということで、プライドの高さも半端ではありません。ただ、私は彼のことを買っていました。確かに人当たりやビジネスマナーという意味では問題ありなのですが、その反面、自分の意見・主張がはっきりしているのです。


( アキラ ) 「それは違いますよ。あなたはこうすべきだ」 ( タカシ ) 「いやいや、まぁ、そういう考え方もあるということで …… 」彼が言い切り、私がフォローする、顧客の前での掛け合いでは、結構いい感じでやっていたのは確かです。


「どーも、こんちは。調子はどう ? 」


私は平静を装って、聞いてみました。


アキラ 「見ての通りですよ」


私 「今日は A 部長のところに、転職の挨拶をしにきたんだよ」


アキラ 「そうですか。タカシさん強敵だからなーーー。うちの仕事、横取りしないでくださいよ」


ギ、ギクッ ! かなり痛いところをつかれています。「横取り」というと非常に悪意を持って聞こえますが、まぁ、それに似たようなことを期待しているのは確かです。でも、横取りしないでくださいよ、というからには、何か案件を取ることができたのかもしれません。


私 「なんか、取れたの ?」


アキラ 「ま、そういうわけでもないんスけど ……」


出た、「ス」攻撃。そういう変な言葉遣いはやめろと、あれだけ言ったのに……( わしゃ、おばあちゃんか ! )


アキラ 「じゃ、お先に」


彼はわざと目を合わせずにエレベーターに乗り込んでいきました。私も同じエレベーターに乗ればよかったのですが、なんだかばつが悪く、黙って彼を見送っていました。


企画部横の応接室。前職時代と何も変わっていません。しばらく待っていると、A 部長が小走りに入ってきました。


A 部長 「どーもタカシさん、ご無沙汰しています。いやー、転職されたんですね、びっくりしましたよ」


私は内心、かなりホッとしました。それは A 部長の対応が、前職時代の私に対するものと、ほとんど同じだったからです。前回、「A 部長は、私を個人的に非常にひいきにしてくれた」と言いましたが、彼がひいきにしてくれたのは、「前職 XX コンサルティングのタカシ」なのか、「個人としてのタカシ」なのか、自分でも自信がなかったのです。彼の態度だけで安易な判断はできませんが、少なくとも彼は、私個人のために忙しい時間を割いてくれているのです。


実は、A 部長以外にも、数名の方に転職の挨拶のアポイントをお願いしました。そのうち、私と会う約束をくれたのは、1 割にも達しませんでした。4 割ぐらいは、「ご活躍を期待しています !」と激励の言葉をかけてくれたものの、「タカシさんもお忙しいでしょうから、わざわざ来ていただかなくても …… 」という調子で、暗に断られました。残りの 5 割は、返事すら来ません。ある金融機関の B 次長とは、前職時代のプロジェクトで 2 年弱ほど「濃密な」お付き合いをしていました。彼と一緒にロンドンに出張したこともあります。にもかかわらず、返事は来ませんでした。


ある程度予想していたこことはいえ、かなりショックだったことは否定できません。「オレは自分の力で仕事が取れる !」と、いい気になっていた自分。現実には、かなりの割合で、顧客は私「個人」ではなく「会社」と付き合っていたのです。


「私が付き合っていた人々、人脈のすべてが、私個人ではなく会社を見ていたのだとしたら ……」そんな悪夢を振り払ってくれたのが A 部長だったのです。私は久しぶりに、A 部長とシステム開発のあり方について意見を交換しました。気づくと、すでに 1 時間が経過しています。


「あっ、随分長居してしまいまして、お忙しいでしょうに …… 」


「いやいや、久しぶりにその『タカシ節』を聞くことができて、面白かったですよ」


「また何かあれば、気軽に声をかけてください。仕事の話はもちろん、それ以外の話でもかまいませんので …… 」


私が立ち去ろうとしたとき、A 部長は次のように言いました。


「年末から年初にかけて、いくつかのプロジェクトが立ち上がる予定です。もう少ししたら、コンサルティング各社に、RFP (Request for Proposal :提案依頼、見積依頼のこと ) を出そうと思っています」


「え ?」


「まず、タカシさんが元いた XX コンサルティングに出します。今までのお付き合いもありますし。一方で、今タカシさんがいる△△コンサルティングとは付き合いがありません。なので、タカシさん、あなたに RFP を出します」


私はしばらくの間、うれしくて声が出ませんでした。会社ではなく、私に RFP をくれるなんて……な、泣ける話やないですかぁーーーー(T-T)


A 部長 「その調子で頑張ってください。お互い今後とも頑張って、いい仕事をしていきましょうね !」


冒頭で、アキラと私が交わすことができなかったセリフを、A 部長の口から聞くことができました。私は何やらはずかしい思いがして、挨拶もほどほどに、その場を立ち去りました。


フーーーーーーー。久しぶりの営業で、少し緊張しましたが、いい話ももらえそうで何よりです。よかった、よかった ……


10F の企画部フロアーから乗ったエレベーターは、途中の 6F で止まりました。乗り込んできたのは、なんとアキラでした。でも、エレベーターの中にいる私には気づいていません。


「本当にお時間いただき、ありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします !」


アキラはエレベーターのドアが閉まるまで、腰を大きく曲げてお辞儀をしていました。人前で挨拶すらできず、いつも私に注意されていた、あのアキラが、です。


「よっ !」


「あら ? また会いましたね」


ビジネスマナーの身についたアキラは、非常に強敵です。A 部長が出す RFP は、熾烈なコンペ ( 競争入札 ) になりそうです。


「お互い今後とも頑張って …… いい仕事しような !」


「え ? ええ …… じゃ、私は本屋に寄っていくんで、これで ……」


「ああ、じゃ。Jim ( 前職時代の上司 ) によろしく」


彼は私とは違う出口から出て行きました。おいおい、そっちに本屋はないよ。意地っ張りなやつだねぇ、まったく。


ビジネスマンにとって、いい顧客といいライバルを持つことは、本当にかけがえのない財産です。転職して、そのありがたみを再認識したタカシでした。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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