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タカシの外資系物語

前の会社の顧客を攻めろ ! ( その 1 )2003.11.14

「タカシ、そろそろわが社にも慣れてきたかな ?」


何やら背後に殺気がすると思ったら、上司の M 氏が立っていました。


「え、えぇ、まぁ……」


「何かわからないことがあったら、遠慮なく言ってくださいよ。じゃ……」


M 氏はそれだけ言い残して去っていきました。


もうそろそろヤバイかな……何が「ヤバイ」かと言いますと、要するに、M 氏は私にそろそろ仕事でも取って来いと言っておるわけです。転職してはや 4 週間、確かにそろそろ何かやってもいい頃です。一応、「経験者採用」で採用されていますので、M 氏も気を遣っているのでしょう。うるさいことは言わないのですが、その方がかえって不気味だったりします。


私とてこの 4 週間というもの、何も指をくわえて遊んでいたわけではありません。新しい会社にはどんなスタッフがいて、過去にどんなプロジェクト経験があって、どのようなやり方(方法論)を使っていて、どんなクライアントに強いのか……これでもいろいろと研究していたつもりです。


「そろそろ動くかね、っと」


私は前職で付き合いのあった顧客に対して、新しい会社での営業アプローチを開始することにしました。


私はこのような営業をする際、「E メール」ではなく、「(郵便の)手紙」を多用します。理由はいくつかあるのですが、まず E メールでは返事を強要しているようで何となく押し付けがましくなってしまい、「スマートさ」を売り物にしている(つもり ? の)私としては、何となくしっくりきません。一方、手紙ならフォーマルかつ心がこもっている感じもしますし、相手にその気がなければ無視してもらっても結構、みたいな潔さがあります。ま、どっちでもいいから早くしろ、って感じですが。


「○○銀行 企画部 A 部長 殿……」


そういえば、A 部長には本当にお世話になりました。前職時代、結局仕事はもらえなかったのですが、私を個人的に非常にひいきにしてくれたのです。新しい会社は、同じ A 部長のいる○○銀行の別の部門のプロジェクトにも参加しているようですので、声をかけやすい相手です。


「拝啓 本当にご無沙汰しております。以前、XX コンサルティングでお世話になりました、タカシです。このたび、XX コンサルティングを退職し、△△コンサルティングに転職いたしました……」


……と、ちょっと待てよ……XX コンサルティングというのは A 部長にお世話になっていた時代の名前でして、私がいた前の会社の名前はすでに「YY コンサルティング」に変わっています(No.138 『「社名変更」狂想曲』参照)。


「お世話になっております。以前、XX コンサルティング(現YYコンサルティング)でお世話になりました、タカシです。このたび、YY コンサルティングを退職し、△△コンサルティングに……」……っっと、ちょっと待てよ……そう言えば、今私がいる会社は 2 ヵ月後に社名変更を予定しています。


「以前、XX コンサルティング(現 YY コンサルティング)でお世話になりました、タカシです。このたび、YY コンサルティングを退職し、△△コンサルティング(もうすぐ□□コンサルティングになります)に転職いたしました……」


……なんのこっちゃ……自分でもどの会社に所属しているのかわからん……


「……つきましては、意見交換を兼ねて、ご挨拶させていただく機会をいただきたいのですが、いかがでしょうか。何卒よろしくお願いいたします。タカシ」


あれから 1 週間が経過した朝、E メールの受信ボックスに A 部長から返事が来ていました。


「タカシさん、返事が送れてすみませんでした。いかがお過ごしですか ? どうやら、△△コンサルティングにヘッドハントされたようですね ? おめでとうございます。XX コンサルティング在籍時には、貴重なアドバイスを戴き、本当に感謝しています。今後ともよろしく。


さて、今週であれば、木曜か金曜の午前中はどうでしょうか ?」


よーーーーーーーーし ! 私は早速、木曜の朝でアポイントをもらうように、返事しました。


「何かいい話があればいいけど……」


木曜の朝、私は約束の時刻より 30 分ほど早く、○○銀行の本店ビルに到着しました。転職後、初めての営業活動です。実は前職時代にも、これほど早く約束の場所に到着したことはありませんでした。何となく、初心に帰ったようで、すがすがしい気分です。


近くのコーヒーショップで 20 分ほど時間をつぶし、私は受付に向かいました。受付嬢も、前職時代に通っていた当時と同じ人でした。


タカシ 「おはようございます !△△コンサルティングのタカシと申します。企画部の A 部長様と、10 時からお約束いただいているのですが……」


受付嬢 「承りました。XX コンサルティングのタカシさんですね、そちらのソファーでしばらくお待ちくだ……」


ち、ちがうって ! XX は前の会社で、今は△△に転職したんだってば……どうも、前のイメージが強いようで、「タカシ = XX」というのが頭に染み付いているようです。


タカシ 「いや、あの、XXじゃなくて△△なんですけど……」


受付嬢 「あ、失礼しました。社名を変更されたんですね」


タカシ 「いや、私が移ったんです……」


受付嬢 「あーーー、そうなんですか……では、ただ今 A に連絡を取りますので、しばらくお待ちください。」


なんか、気まずーーーい雰囲気。


受付嬢 「あ、もしもし、こちら受付です。A 部長あてに、△△コンサルティングのタケシさんがお見えになってますが……」


わしゃ、タカシじゃーーーーーー ! わざとやってんのかぁーーーーー ! (T-T)ぜぃぜぃ……


私はもう少しで叫びそうになったのをこらえ、受付横のソファーに座って、待つことにしました。


ソファーは、エレベーター側を向いており、いつもなら A 部長の秘書である女性が降りてきて、私を会議室まで案内してくれるはずです。私はソファーに深く腰をかけて、何から話すべきか、再度頭の中を整理していました。


「いらっしゃいませ、こちらで受付をお願いします」


受付には、訪問客がひっきりなしに来ています。


みんな、大変だねぇ……オレだけじゃないんだな……私は、訪問客の動きを背中で感じながら、感慨にふけっていました。業界内でも IT 投資に積極的な A 銀行には、同業のコンサルティング会社や IT ベンダーが足繁く通っています。


受付担当 「いらっしゃいませ、こちらにご記入ください」


訪問客 「どーも、すみません……XX コンサルティングの者ですが……」


この人もコンサルティング会社なんだ……お互い、大変だよね、XX さんか……XX、XX、XX ってあんた、わしの前の会社やんけーーーーーーーーーーーーーーーーーー !


受付担当 「XX さんですね、あれっ ? 先ほどお連れのタカシさんがお見えになっていましたよ……どちらに行かれたのかしら……」


……あ、あのなぁ……わしゃ△△のタカシやと、言うとるやろーーがぁーーーー お連れさんじゃないんやーーーーーーーーーーー (T-T)


( 次回に続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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