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タカシの外資系物語

ちがう畑で大きくなあれ !2003.08.08

外資系企業に勤めていると、1 年に 1 人ぐらいの割合で、びっくりするような人事異動が起こります。例えば、つい先日まで私と一緒に IT コンサルティングをやっていた同僚が、いきなり役員 ( ボードメンバー ) になるというようなもの。人事異動というよりは、どちらかというと「抜擢」に近いイメージかもしれません。


では、わが社の経営陣は、一体何を考えてこのような「抜擢」を行うのでしょうか。それは、抜擢した人材の中から、次の経営を担う人材を探そうとしているのです。これは、いわば「幹部候補」を探すためのシステムなのです。


さて、このような人材はどうやって選ばれるのでしょうか。まず、複数の部門で「顔」が売れていなければなりません。例えば、営業成績は非常に優れているが、人事や総務部門から総スカンの人 ( 結構、こういう人って多いですよね ) は選ばれません。営業もできるし、本部のこともわかっているし、情報システムにも明るいし …… 「そんなやつ、いるか ?」と思われるかもしれませんが、1 年に 1 人ぐらいはいるのです。そういう人材は、たとえ管理職としての経験が浅くても、社長 ( ないしは日本支社長 ) の権限で、末席の役員クラスに昇進します。もちろん、最後は社長が決めることになりますが、その 1 人に選ばれるまでには役員の大多数の賛成を得なければならないので、社長ひとりが決めているわけではありません。


次に、その人材の担当業務なのですが、これはたいていの場合、もともとは営業や開発などの花形部署にいて、抜擢後は人事部門か社長補佐になるケースが多いと思います。つまり、自分が元々いた部署とは全く違う部門を担当することになります。私は、これには 2 つの意味があると思っています。まず、この人材は将来の幹部候補であるわけですから、会社経営に必要な知識と経験を身に付けなければなりません。そのため、前線の営業や開発部門以外の部門を担当させて、幹部に必要な帝王学を学ばせるわけです。もうひとつは、もとの部門にいたままでは、抜擢された人材がつぶされてしまう可能性があるのです。確かに昨日まで 3 段階ぐらい下の部下だった人間が、急に何の実績も残していないにもかかわらず、自分の上司になるわけですから、その部門の「古株」管理職にとってはたまりません。外資系とはいえども、そのあたりの確執には敏感なので、気を遣ってちがう部門にしている面もあるのでしょう。


外資系にも "outside your field" という言葉があり、これはいわゆる「畑違い」を意味しています。外資系企業は、日本企業以上に専門職化されていますから、営業なら営業、開発なら開発、人事なら人事というふうに、その業務のスペシャリストが寄せ集まった集団といえます。しかし経営は、その集団を束ねなければなりません。「オレは営業一筋。営業のことしかわからないよ」ではすまないのは、外資系も日系も同じです。


伝統的な日系企業では、いろんな業務を広く浅く理解したジェネラリストを数多く育て、その中から、将来の経営陣を選んでいきます。一方で、外資系はそういう育成をしていませんから、ある時期から人材を選抜して、急いで教育しなければならないわけです。


どちらの方法が良いのか、一概には言えないと思います。ただし、役員になる人の数は限られていることを思えば、日本企業に勤める人の大半は、ジェネラリスト用の教育をされてきたにもかかわらず、役員にはなれません。頂点に立つ一握りの人々のために、多くの人がジェネラルな社員育成に付き合っているというのが実態です。スペシャリストの道を進んだほうが、その人の実力が発揮される場合もあるでしょう。ですから、自分の志向と特性を十分に考えて、いろいろな道を考えておくことが必要です。専門性への選択肢としては、外資への転職も有力だと思います。


さて、私の同僚の T くん。彼は先日の人事異動で、人事部のシニアマネージャー ( 副部長格 ) に昇進しました。これが、「選ばれし者」としての抜擢であることは、だれの目にも明らかでした。


私 「T くん、大抜擢じゃん。すごいね !」


すると T くん、何やら元気がありません。


T くん 「あぁ、タカシ …… おれさぁ、『辞退』しようかな、と思って ……」


私 「ええっ !」


発表された人事異動を辞退する、なんてことが許されるわけはありません。要するに、彼は会社を辞めようかな、と言っているのです。


私も「ええっ !」なんて大げさに驚いてみたりしていますが、彼の気持ちは痛いほどわかります。実は「大抜擢プログラム」に選ばれて、順調に経営上層部に登りつめた人は、いまだかつてひとりもいないのです。つまり、それほどの厳しい競争が、彼を待ち受けているのです。


T くん 「まだまだ、IT コンサルタントとしてやり残したことがたくさんあると思うんだよ。それに、外資系企業に転職したのは、IT のスペシャリストになりたいからであって、偉くなりたいわけじゃないから ……」


大抜擢されたからといって、将来の身分が保証されたわけではありません。このまま行けば、彼は半年後ぐらいに US の本社に派遣されて、本社の役員補佐となります。その段階で本社役員から「X」をくらえば、そこでもう終わり。日本でも彼をクビにせざるをえないのです。そういう経緯でクビになった場合、同業他社も簡単には雇ってくれません。そういう暗黙の了解が、まだまだ業界に残っているのです。まさに、「選ばれし者」から「敗れし者」へ、一気に転落していくのです。


数日後、T くんから、ごく親しい同僚宛てにメールが来ました。


「このたび退職して、○△コンサルティングに行くことにしました。今までありがとう ! 数年後、『IT コンサルタント』 として、みんなで集まれることを楽しみにしています。Good Luck !」


もし、自分だったら …… そう考えると、彼の結論にケチをつけることはできませんでした。そして、いまさら「畑違い」でチャレンジすることができるかどうか …… ま、世の中のリスクとリターンというのは、うまい具合に均衡を保っているのですな。それにしても、私のところにはいまだかつて「大抜擢」の話そのものが来ないのですがね …… これはこれで、ちょっと寂しかったりする今日この頃です、トホホ ……

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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