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タカシの外資系物語

ビジネス・コンティニュイティ・プラン2003.04.18

外資系企業におけるリスク管理が、日系企業より優れていることについては、このコラムでも何度か触れてきました。そもそもリスク管理というのは、万が一発生した場合、企業に損失を与えることを未然に防ぐことを目的としています。つまり、できれば起こらないにこしたことはないし、たとえ起こった場合でも金額的な補填が保証されれば、とりあえずは OK と思われていました。


しかし、9.11 の NY テロ事件以来、リスク管理の発想が大きく変化しました。その変化とは、保険としてのお金を受け取ることはもちろんのこと、企業としての事業継続をどのようにはかっていくかということに、重点が移っていったということです。要は、不慮の事故・災害が起こったときに、どれほどの短時間で通常業務に復帰できるかということが問題なのです。


以上のような考え方を、「ビジネス・コンティニュイティ・プラン(以下BCP)」といい、欧米企業を中心に、最近積極的に取り入れられています。BCP 策定の目的は、利益の確保というよりもむしろ、顧客へのサービスを継続し続けることにあります。欧米企業の経営者が考えているのは、危機が発生した場合にこそ、顧客サービスを継続することにあります。たとえどれだけの赤字になろうが、そういう場面で勝ち得た評判は、将来何物にも替えがたいものになることを、彼らはよく知っているのです。ですから、9.11 の時ですら、マネージャー以上には、「基本的に顧客へのサービスは停止しない」というメッセージが出ていたほどです。(『CEO の危機管理 ( NY テロ事件 1 )』参照)


さて、外資系企業に勤めている私のような一般社員は、BCP をどのようにとらえているでしょうか ? 実は私が外資系企業に勤めるようになって、一番気にしていることは、「いつなんどきでも(たとえ休日でも)仕事ができる状況を、常に作っておく」ということです。これは日系企業で働いていた時にはない発想でした。


例えば、週末にオフィスの模様替えか引越しがあるとしましょう。夕方 4 時にもなると、業者がオフィスをウロウロし始めます。なんだか落ち着かなくなって、「今日は仕事にならないなぁ……」などと頭をかきながら、適当に時間を過ごしてしまう。日系企業の大半はこうでしょう。しかし、外資系企業は違います。引越し業者がウロウロしようが、自分の机やイスがなくなろうが、仕事ができる限りは続けるのです。確かに PC さえあれば、それを膝の上に広げて仕事はできます。どうしても机が欲しければ食堂か喫茶店に行けばいい、引越しぐらいで仕事を「中止」する理由にはならない、ということです。


ナマケ者で有名な私も、この考え方には同調します。誤解を恐れずに言えば、ビジネスパーソンの大半は、所詮 PC があればできる仕事しかしていないのですから、大した理由もなく中断することはありません。日本人は勤勉に働いているように思われがちですが、外的要因(=引越し・非日常的なイベント・など)に極めて弱いように感じます。まぁ 9.11 のような状況になっても働けとは言いませんが、どうでもいいようなくだらない理由で、いちいち手を止める必要はないでしょう。


あと外資系企業では、本当に業務をこなすことが困難な場合には、会社そのものを「休み」にしてしまいます。通常のサービスが提供できないのだから、クライアントにとってもその方がハッピーなのだという発想です。これは数年前のことですが、グローバルベースで E メールとナレッジ(知識情報)が詰まったサーバーがダウンしたことがありました。そのとき、私のプロジェクトのボスは、「今日は休みにしよう。クライアントに話してくる」と言って、客に掛け合っていました。客も初めは目を丸くしていましたが、「不十分な状態でサービスを受けない方がいい」というボスの説得で、最後には納得していました。少し極端な気もしますが、外資系らしい話だと思います。


ということで、外資系企業においては、BCP の精神は社員全員が共有している「常識」だといえます。ですから会社が用意すべきは、何かが起こったときに仕事ができる場所とインフラ(データのバックアップなどを含む)ということになります。確かに、日本人は災害に対する危機意識が弱い民族です。でも今の世の中、いつ地震や戦争が身近に起こっても不思議ではありません。イラクの状況は対岸の火事ではなく、常に不測の事態に備えた準備が必要だと言えるでしょう。


「まいったなぁ……」


先日のこと、採用面接の面接官として本社に呼ばれた私。実は人事部担当者の手違いで、30 分ほど空きができてしまいました。プロジェクトの現場に戻るにしては時間が短いし……私と同様に呼ばれた2人のマネージャーも、どうしたものかと途方に暮れていました。


「こんなときこそ BCP の精神で……」


私はおもむろに PC を取り出し、電源を入れました。他の 2 人も追随してきました。


「さ、さすがに、こやつらも外資系の端くれ……なかなかやるわい……負けてなるものか………」


早速仕事の続きをやろうと PC に向かった私を迎えてくれたのは、何やら黒い画面。バッテリーが切れています……がーーーーーーーーーーーーーーーーん。


「あれ ? タカシ、PC 使わないのかい ?」


なんてイヤミな野郎なんだ………ううーーぬぅ………


「あ、あぁ、ちょっと、ある原稿の構想を練らなきゃならないんだよ……まだ構想段階だから、今は PC は使わない、かな……」


私にしてみれば、精一杯の反抗。バッテリーが充電されていないなんて、「BCP 精神」以前の問題、私もまだまだですね。


え? で、紙とボールペンで何をしてたんだって? だから、「ある原稿」の構想ですよ! こう見えても、私自身の「BCP」は完璧なんですよ、ハイ !


『外資系企業におけるリスク管理が、日系企業より優れていることについては、このコラムでも何度か触れてきました……』


……よし、今週のコラムはこれで行こう !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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