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タカシの外資系物語

地方における外資系2002.11.15

私の生まれ故郷は奈良県です。大学は大阪で、就職してから十数年来、海外での出張以外はずっと東京に住んでいます。そもそも最初の就職が銀行で、外資系に移ってからも金融機関を中心としたシステム・コンサルティングをしている関係上、いきおい東京以外で仕事をする機会がほとんどありませんでした。確かに、地方銀行に売り込みをかけることも過去にはあったのですが、私の場合は契約までいったケースがありません。逆に地方のお客様も「東京の外資系に頼むぐらいなら、地方に常駐しているメーカーのコンサルタントに御願いしたほうがいい ( 面倒くさくない、安い ) 」とお考えの部分もあるようです。


一般的にも、「外資系企業」のほとんどは、その拠点を東京や大阪などの大都市圏に置いています。最近は多くの地方都市でも、外資系企業の誘致に積極的になっているようですが、なかなか実現できていないようです。業種として金融などのサービス業が多く、大都市の消費者マーケットを狙っていることもあるでしょうが、それ以外にも外資系が地方に進出しない理由があるように思われます。


まず交通の利便性が挙げられます。外資系企業には頻繁に欧米からの出張者がやってくるので、成田や関空などの国際空港がそばになければ不便で仕方ありません。次に、人材確保の容易さが挙げられます。英会話を含め、外資系が前提とするスキルを持った人材は、大都市に集中しています。


さて、仮に上記 2 つの問題点を解決したとしても、実は大きな問題があります。それは、「外国人に適した生活環境」という点です。つまり、六本木や青山など、外国人が好むとされるスタイルの街が、地方には皆無なのです。私はこれが一番大きな原因ではないかと思っています。「郷に入れば郷に従え。その考えは甘いんじゃないのか」と思われる方も多いのではないでしょうか。確かにニューヨークやロンドンには、日本でいうところの六本木のような街はありません。しかし、実質的に、日本人駐在員の住んでいるところには多くの日本人 (=同胞 ) が住んでいたりします。客が日本人ばかりの居酒屋もかなり存在します。


このように見ていくと、「外資系=サービス業」である以上、日本の地方都市に外資系企業が進出するのは、直感的に難しいような気がします。しかし、この考えこそが日本が国際国家になりえない、最大の原因ではないかと思うのです。


例えば、今年のノーベル賞を受賞した田中さんや青色 LED で有名な中村さんの技術が、日本ではなく海外で評価されるのは、海外の方がその値打ちを理解しているからに他なりません。「値打ちを理解する」というのは、「それを売れば儲かる」からであって、要は商品化するアイデアがあることを意味します。残念ながら、技術を商品化し、それをマス ( 大衆 ) に売り込んでいくスキルは、外資系の方が一枚上手であることは否定できないでしょう。

世界的に有名なソフトウェア企業である、S 社と O 社の本社は、それぞれドイツとアメリカの田舎町にあります。私はそれら両方を訪問したことがありますが、特に前者はいわゆる「ド田舎」です。夜 8 時を過ぎればあたりは真っ暗ですし、周囲には何もなく、娯楽を求めることもできません。しかし世界中から人が集まってきます。なぜなら、 S 社が生み出す技術が、大きなビジネスになるからです。そこに「六本木」がなくても集まるのです。


一方で、田中さんや中村さんが勤める ( 勤めていた ) 企業は、日本の地方都市 ( 京都と徳島 ) にありますが、多くの外国人を集めることができたでしょうか。結局は、外国人の「ビジネス展開に持っていくスキル」を取り込めなかったために、優れた頭脳が海外流出してしまったり、賞をもらってはじめて、その偉業に気付いたりしているのです。日本には、優れた技術を持った「メーカー」が存在します。その多くは、研究所や生産工場を地方に所有しています。そこに、もっともっと多くの「外資の血」を取り込まなければ、日本の製造業は、近いうちに空洞化してしまうような気がしてなりません。


さて、これは私の身近にあったケース。地方にある大手企業向けのシステム構築プロジェクトで、うちの会社は 20 人以上の外国人コンサルタントを投入しました。プロジェクトの佳境だった 3 か月間、ホテルの手配がつかなかったので、ある民宿に 5 人程度押し込んだことがあったのです。民宿のおばあさんいわく、


「おんやまぁ、こんな多くの外国人さんを見たのは、生まれて初めてだべさ……」


そのプロジェクトが終わってから、早や 2 年が経過しますが、アメリカ本社に帰ったコンサルタントが、おばちゃんのもとを頻繁に訪れているとのこと。ほらね、住めば都、六本木より魅力的な場所が、地方にもあるってことですよ、ね !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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