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タカシの外資系物語

おせっかいな上司2002.06.28

今日は日曜日。空模様は、梅雨とは思えないほどの快晴です。でも、私の心は沈んでいました。なぜなら、今日は私が作った提案書のレビューの日なのです。


私のところに、ある大手顧客への提案話が舞い込んできたのは、ほんの 2 週間前のことでした。数年前、私の会社がその顧客のNY支社に、あるシステムを導入しました。今回は、いよいよそれを日本にも展開するという非常に大きなビジネスの話です。


Jim 「タカシ ! とうとうこの日が来たぞ。われわれの英知を結集し、全社挙げて案件の獲得に向かうんだ !」


上司の Jim はこう言ってゲキを飛ばすのですが、私に与えられたのは小さな会議室と 3 名のスタッフのみ。「英知を結集し、全社を挙げて ……」とは、とても言えない状況です。まぁ、文句ばかり言っていても仕方ありません。私は 3 名のスタッフを使って、提案書作りをシコシコと始めました。


次いで、上司の Jim は、以下のようなメールを発信しました。


"Help other practitioners by sharing your information and experience about XXX. SEND replies via email to Takashi..." (「XXX に関する情報を教えてください。返信はタカシまで …… 」)


これこそ彼が言うところの「英知を結集し、全社を挙げて……」ということなのでしょう。実力者Jimの依頼に対して、翌日には数十通のメールが私のところに届いていました。


「世界中から情報が集まって、作業が楽じゃないか …… 」一見、そう思われるかもしれません。しかし、実態は「ほとんどの情報が使えない」「使えないにもかかわらず、ひとつずつ返事をしなければならない」という、私にとっては地獄のような展開が待っているのです。これはメールだけではありません。東京にいるほとんどの外国人部長から、「オレの方法論を使え」「説明してやるから、ミーティングをセットしろ」と矢のような催促。こちらは提案書を作る作業そのもので手一杯、十分に対応できません。


「もう勘弁してよ …… 口をはさむなら、作業を手伝ってよ …… トホホ …… 」


以上のような状態で迎えた提案書レビュー会。予想通り、口出しした外国人部長から、多くのコメントをもらう羽目になりました。が、休日に行ったこともあり、私は一つひとつの意見に対して、「どうしてその意見を使わなかったのか」「代わりにどのようなソリューションを使っているか」ということを説明しました。その結果、多くの外国人部長から、


"OK ! It's perfect, Takashi. I will keep on support you." ( 「タカシ、よくわかったよ。協力するから、いつでも言えよ」 )


という言葉をもらいました。


一方、日本人の部長連中はどういう反応をしたでしょうか。まず、彼らからは事前に一切のコメントをもらうことはありませんでした。レビュー会でも同様に、私の案に対しては、何一つ文句を言うことはなかったのです。


確かにそれはそれで、私にとっては楽なのです。しかし、会社という企業体で見たとき、うまく機能していると言えるでしょうか。例えば、結果的に Jim と私がこの提案に失敗したとしましょう。その場合の日本人部長の反応は、


「そりゃ残念だったね。でも、そっちでやったことなんだから、オレには関係ないよ」または陰口として「オレがやればうまくできたのに ……」


なんてところでしょう。


一方、外国人部長の反応は以下の通り。


「タカシ、お前のソリューションに対しては、オレも同意したんだ。責任はお前だけのもんじゃないから気にするなよ ……」


もちろん、外国人部長の中にも日本人的な人はいますし、その逆もしかりです。しかし総じて、両者の反応には上記のような違いがあるのです。


私は外資系企業の強みが、ここに隠されていると思っています。あるレベル以上の管理職全員が、それなりの責任を負っている。責任を負う代わりに、非常に厳密なチェックを行う。その過程で、提案内容自体がブラッシュアップされていく。日本企業のやり方に慣れた人にとっては、非常に面倒なプロセスなのですが、提案内容が良くなることに加え、失敗したときのリスクも分散できているという効果を持っています。


さて、いよいよ明日は顧客へのプレゼンテーションです。前日になっても私のメールボックスは外国人部長からのコメントで溢れかえっていますが、可能な限り対応したいと思います。メールの最後に、以下の言葉を添えて ……


"Thank you for your comments. I can do it with you all". ( 「コメントありがとう。みんなと一緒だから心配ない、きっとうまく行くよ !」 )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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