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タカシの外資系物語

「特許」は誰のもの ?2002.03.29

最近、ある裁判が注目を集めています。それは、世界的な発明である青色発光ダイオード ( LED ) の開発者・中村修二 氏 ( 現カリフォルニア大教授 ) が、開発当時に在籍した日亜化学工業株式会社に対して起こした訴訟です。


訴訟内容を簡単にまとめると、「 1. 日亜化学名義の特許を、中村氏に返還すること」「 2. それが認められない場合 ( 予備的請求 ) は、 20 億円を支払うこと」などです。 LED の市場規模は年 5,000 億円と言われ、日亜化学がこの市場において国際的に高い競争力を持っているのは、中村氏の発明・特許に拠るところがほとんどだといっても間違いないでしょう。しかし、中村氏が会社から受け取った報奨金は、たったの「2 万円」だったと言います。海外の研究者達は、このような中村氏の状況を見て、「"Slave"( 奴隷のような ) Nakamura」と呼んでいました。彼が、アメリカの大学教授に転身したのも、海外の友人からの強い助言があったからだといいます。


さて、以上のように「企業は研究者の発見・特許に対して、それに見合うだけの報酬を支払う」というのは、欧米外資系企業のスタンダードなのでしょうか ?


実は、この答えは「半分イエス、半分ノー」という、極めて曖昧なものになります。私の知る限りでは、どこかの企業に所属するサラリーマンが、何かの発明をすることによって、会社から数十億円の報酬を得た、などという話を聞いたことがありません。確かに、投資銀行のトレーダーなどの中には、数十億円に近い報酬を得る者がいます。しかし、両者には決定的な違いがあるのです。


・ 研究者の場合 → ノーベル賞級の発明をしたからといって、ビジネスとして収益を得られるかどうかはわからない ( 所属する企業の力があってこそ、ビジネスに発展する )


・ トレーダーの場合 → 所属する企業に、トレーダー自身が収益をもたらした ( だから、そのうちの数パーセントをボーナスとして得た )


ですから、非常に意地の悪い言い方をすれば、中村氏単独の力で LED の特許をどこまで売り込めたかは未知数なのであって、うまくいった後になってから、「俺のもんだから返せ」というのは、やや身勝手な意見のような気がします。


外資系企業とてそんなに甘くはないので、おそらく同じようなケースでも、数十億なんて報奨金は払いません。その代わり、日本企業と大きく違うところは、「社員による発明・特許は、基本的に社員に帰属する」ということでしょう。つまり、その発明・特許を独り占めしたいなら、その時点で会社を辞めればいいことになります。もちろんその後、企業はあなたの発明・特許を市場に売り込んではくれませんが。


中村氏の提訴に関する記事は、そのほとんどが「従業員の発明・特許を会社が独り占めしており、よくない。すぐに貢献度に応じ、報奨金を支払う制度を導入すべし。それがグローバル・スタンダードである」という論調になっています。しかしこれは間違っています。真のグローバル・スタンダードとは、「あなたが発明したものが本当に売れそうなら、すぐに会社を辞め、自分のリスクで売り込みなさい。そうすれば、リターンは独り占めできますぜ …」ということです。


記事の論調はどうあれ、中村氏もそこのところは理解されているようで、「オカネはともかく、特許を返してくれ」と言っています。LED の場合は、日亜化学が売り込んで育てた、というよりは、誰が売っても売れる技術だったので、そういう意味では中村氏が有利かもしれません。しかし、ならばどうしてその時に会社を辞めなかったのか、その点は言い訳出来ないのではないでしょうか。別に監禁されていた訳ではないのですから、その時点で訴訟するのが「筋」というものでしょう。


私は個人的には、サラリーマンが仕事中に発明する特許やアイデアは、基本的にはその個人のものだとしても、企業に所属し続ける限りは、企業のものだと思います。帰宅後に自宅の研究室で発見したならともかく、その企業のインフラを使ってできた発明や、社内の議論で見つけたアイデアは企業のものでしょう。「発見」「アイデア」「意見」というのは、 LED のようなノーベル賞級のものもあれば、取るに足らないものもあります。しかし企業は、その両方に対して給料を払ってくれていると思います。優れたアイデアに見合った報奨を要求するなら、くだらないアイデアに対してはペナルティを課すべきではないでしょうか。


最近つくづく思うのは、結局日本人というのはリスクを取らないでうまく立ち回ろうとする傾向があるということ、それでは根本的に外資には勝てないのですがね …

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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