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ゴールデンビザ -- 長期滞在・投資ビザ(2)2024.01.30

 

10年の在留資格が得られるGolden Visaを年間5万人ほどに大判振る舞いしているのが、UAE(アラブ首長国連邦)です。後述のように、Golden Visaを廃止する国が続出する中、UAEでは、先週、取得条件を緩和しました。不動産であれば、価格200万AED(55万米ドル)以上の物件の購入が必要ですが、これまで頭金(約20万米ドル)が必要だったのが、必要なくなりました。なお、UAEでは、医者や科学者、ITエンジニアなどの専門家でも同ビザの取得が可能です。

 

ポルトガル

 

ここ数年、とくにアメリカ人の間で移住先として人気なのがポルトガルです。Golden Visaの発給が始まった2012年から2023年の11年の間に、取得が一番多かったのは中国人(45%)だったのですが(次いでブラジル人)、最近ではアメリカ人が最多です。2021年には、ポルトガルに住むアメリカ人は前年比45%増加しました。

このビザの取得条件のひとつに、(場所と築年数により)35万~50万ユーロの不動産購入がありましたが、在留資格を得た人の75%以上が、この不動産投資を利用していました。 

住宅価格が信じられないレベルの米両海岸の人にすれば、50万ドルで家が購入できれば安いものです。それで、ビザ取得のために不動産が買いまくられた結果、リスボンやポルトなどの都市部では住宅産価格が高騰し、地元の人には手の届かない価格となってしまいました。家賃も高騰し(リスボンの中心街では数年で5倍に)、地元の人たちが住めなくなり、抗議活動も起こりました。

2022年、ポルトガルの月収中央値は916ユーロ(年収1万1000ユーロ)で、就業者の半数以上、15~35歳の就業者の72%が月収1000ユーロ未満である中、その何倍もの家賃ということです。(2023年の最低賃金は月760ユーロ。)

そこで、昨年、投資対象として不動産は除外されました。2023年前半、ビザの申請は18%減少し、とくにアメリカ人の間では38%減少しました。一方、国内株への投資が増え、ポルトガル政府は満足しているようです。

 

各国で廃止が相次ぐゴールデンビザ

 

Golden Visaの見直しを強いられているのはポルトガルだけではありません。つい先週、オーストラリアが、50万豪ドルを投資すれば在留資格を得られるというGolden Visaを廃止しました。このビザによって「海外からの投資を招致し、イノーベーションを活性化する」との触れ込みだったのですが、大したビジネススキルもない人たちの取得が多く、地元経済に貢献していないことが判明したようです。それどころか、カンボジアのフン・セン政権の高官が資金隠しに利用したり、マネロンに悪用されていることも発覚しました。なお、2012年の開始以来、取得者の85%が中国人でした。

豪政府は、今後、海外からの富裕層よりも、地元経済に貢献できる技能労働ビザに力を入れるようです。


・EU

実は、ヨーロッパでも、2019年ごろから、マネロンなどの懸念のため、EC(欧州委員会)が警鐘を鳴らしていました。とくにウクライナ戦争勃発後、EUでは、加盟国にGolden Visaを廃止するよう勧告しています。

2019年の時点で、EUでは20ヵ国でGolden Visaの取得が可能で、そのうちキプロス、マルタ、ブルガリアの3ヵ国では、100万~200万ユーロで市民権(国籍)の取得も可能でした(” Golden Passport”と呼ばれる。)

2022年、EU離脱後のイギリスでも、ロシアから違法な資金が流入したため、富裕層が在留資格を短期で取得できるプログラムを廃止しました。その後、アイルランドやオランダでも廃止に至りました。キプロスは、数年前のマレーシア政府系ファンドの不正疑惑に絡んでいた大富豪に市民権を与えて、国際的に非難を浴びました。(3年以上かけて、その市民権をはく奪。)

スペインは今も、50万ユーロを不動産に投資、または100万ユーロの預金することで在留資格が得られますが、昨年、このビザを廃止する法案が議会に提出されており、今後、廃止される可能性が高いです。ギリシャは、25万ユーロの投資で在留資格が取得可能でしたが、昨年から50万ユーロに引き上げられました。

100万ユーロで市民権(citizenship)が買えるマルタは、2022年にEUによって法的措置を起こされ、ロシアとベラルース国籍保持者には市民権の授与を止めたようです。

EUの場合、EUのパスポートを取得すれば、EU内を自由に移動できますし、ビザ免除で訪問できる国も一気に増えます。

 

その他

 

アメリカやカナダにも投資ビザはありますが、取得のハードルは高いです。アメリカでは、100万ドル以上の投資をし、フルタイムの社員10人以上を雇用するなど、いくつかの条件があります。2022年にこのビザ(EB-5)を取得した1万人のうち、半数以上が中国人でした。実際に、このビザを取得した後、現金で50万ドル以上の住宅を購入する中国人らを私も見てきましたが、どうやったら、それだけの資金が得られるのか... カナダの場合、Startup Visa、または州のプログラムになります。

日本では、経営管理(Business Manager)ビザが、これに当たりますが、投資額が500万円と低いです。最近では、「スタートアップビザ」(外国人起業活動促進事業)というのができ、起業の準備のために1年滞在できるというものです。資本金だけでなく、生活費や活動費も確認されるため、ある程度の資金がある人向けのようです。

余談ですが、中国出身で在米の友人によると、小学校時代の同級生が、とにかく中国を脱出したいということで、昨年、一番簡単に永住権や市民権が取得できるエクアドルに移住しました。しかし、昨年12月、エクアドルでは麻薬組織の抗争が起こり、政府が宣戦布告して治安が極度に悪化しています。(世界的には大々的ニュースとなったが、日本では、ほとんど報道されていない?)エクアドルは、南米では治安はいい方だったのですが、やはり中南米は政情が不安定な国が多いので注意が必要ですね。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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