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有元美津世のGet Global!

デジタルノマドの闇2022.10.18


  デジタルノマドビザを発給する国が増え、そうした国では、これまで難しかった半年~一年の滞在が可能となりました。

  同時に、メキシコシティやリスボンなどデジタルノマドに人気の都市では、弊害も起きています。旅行者用に賃貸物件を民泊などの短期賃貸に転用するオーナーが増えており、長期賃貸物件が不足し、家賃が高騰しています。

  元々、隣国アメリカからの旅行者や移住者が多いメキシコですが、2022年前半だけで海外からの旅行者が200万人近くに達し、コロナ前の2019年前半の最高記録250万人に迫る勢いです。今年前半だけで、短期賃貸物件への需要が4割以上、上昇しています。

  首都メキシコシティの平均的な年収は200万円以下ですが、外国人旅行者が多い地域では1DKのアパートの家賃が月20万円を超えています。外国人向けのおしゃれなカフェやレストラン、ピラティスやヨガの教室、コワーキングスペースもどんどん増えていて、地元民が手を出せるような店も減っています。最低賃金が一日1000円に届かないのに、アイスクリームが500円以上したり、といった具合です。地元の人が行くと、(スペイン語でなく)英語のメニューが出てくるレストランもあるそうです。

  そこで、「ここに到着したところだって?リモートワーカーってか?お前らなんかバイ菌だ。地元民はウンザリしてる。出ていけ!」といった英語の張り紙がされた地域もあります。ネットのコミュニティでも、「アンタらのせいで、毎日、物価が高騰している。来ないでくれ」といった地元民の投稿も見られます。

  とくに地元の言語を学ぼうともせず、外国にいるという自覚もなく、ただ「自国よりも物価が安い」というだけでやってくる外国人は歓迎されていません。

  最近、アメリカ人に大人気のリスボンでも、家賃が過去数年で5倍に高騰し、アパートの家賃は30万円を超えており、「(最低賃金が月11万円で平均的な年収が400万円以下の)ポルトガル人は自国に住めなくなってしまった」と抗議活動も起こっています。

  こうした問題は、実は、アメリカ国内でも生じている問題で、アメリカ人が、この問題を海外にも”輸出”しているという批判も出ています。シリコンバレーやニューヨーク市では、もう10年以上前から、住宅価格や家賃が高騰して、教員やサービス業への従事者の給料では生活できなくなっています。こうした中、生きやすさを求めて海外に移住するアメリカ人が増えているのです。(日本に移住したがっている人も少なくない)。*

  各国政府がデジタルノマドビザを発給して、外国人に中長期で滞在してもらおうというのは、地元でお金を落としてもらい、地域経済を盛り上げるためなのですが、このようにオーバーツーリズム(観光公害)と同様の問題が生じてしまっているのです。

孤独、自己管理


  また、ネットのデジタルノマド・コミュニティで、よく見られる投稿に「寂しい。家に帰りたい」「皆は、どうやって孤独に対処してる?」というのがあります。そもそも、言語や文化の違う異国の地で友人を見つけるのは難しいですし、場所を転々とすれば、その度、知り合いを見つけなければなりません。

  宿泊先やコワーキングスペースなどで知り合って仲良くなっても、数日~数ヵ月で、皆、あちこちに散らばって行きます。(その後、E友として、ずっと連絡を取り合い、また違う場所で落ち合うといったことも可能だが。各地で知り合った友人を、それぞれの国に訪ねて行くという人もいれば、「新たな出会いがほしいなら、Tinder使えよ!」という人も。)

  孤独感に苛まれて、半年~一年でノマド生活を断念する人もいますし、数年、各地を転々とし、「地域社会に属さない生活に疲れた」とデジタルノマドを卒業する人もいます。


  さらに、リモートワークをうまく行うには、国内でも自己管理能力(セルフマネジメント)が必要ですが、海外でノマドをする場合、時差との戦い、ネット環境の確保といった課題が生じます。

  アジアと北米では、ほぼ日夜が逆になるので、アジアにいながら北米の時間に合わせて仕事をするには(または、その反対)、夜中に起きていなければならないので、これを最大のデメリットとして挙げる人は少なくありません。

  私の場合、様々なタイムゾーンで、常に日本時間を意識し、日本時間ベースでの締切に間に合わせる必要があります。時差によっては、前日に仕上げなければならないですし、締切前に移動が続く予定であれば、移動するまでに仕上げておくといった工夫も必要で、締切よりも数日前に仕上げられるよう、早めに取り掛かる場合もあります。場所によっては、ネットがつながりにくいところもありますので、そういう場合も、ネット環境が良好な場所にいる間に納品しておくといった対処も必要です。

  セルフマネジメントの苦手な人には、厳しい環境かもしれません。


  ネットのデジタルノマド・コミュ二ティでは、デジタルノマド志望者が「デジタルノマドをやっていて一番困ることは?」という質問も、よく見られます。私が閉口するのは、一年中、常に旅行の計画を立てていなければならない点です。まず渡航先を決める際には、結構なリサーチが必要で、数日どころか、数週間にわたる場合もあります。

  渡航先を決めた後は、飛行機を予約して、宿泊先をリサーチして予約すると作業が続きますが、この一連の作業を、毎年、何度も行なわなければならないのです。計画を立てるのが嫌いな人には、辛い作業だと思います。計画を立てずに、行き当たりばったりというのが好きな人もいますので、そういう形もアリだと思いますが。

  お分かりのように、デジタルノマドというのは、誰にでも向くライフスタイルではないのです。



* ポルトガルの場合、以前からGolden Visaという投資ビザがあり、不動産に50万ユーロ投資すれば、2年間滞在でき、5年後には永住権や市民権を申請可能。カリフォルニアや米東海岸の住宅価格に比べ安いので、これもアメリカ人に大人気で、ポルトガルでは住宅価格が高騰し、地元民が購入できない状態になっている。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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