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なぜIT企業の外国人は日本語がうまいのか?

 
あなたの「日本語マスター法」を教えてもらえますか?

テレビを見ていても町を歩いていても、日本語を上手に操る外国の人が増えている。あるとき、日本語がペラペラのアメリカ人に出会った。文法も発音もほぼ完璧。外国語のなまりはなく、むしろ東北弁のなまりが少しある。聞けば、東北地方の大学に留学経験があり、留学中のわずか1~2年で、日本語をほぼマスターしたという。今は、日本語を巧みにあやつりながら、IT企業の社員として働いている。

 「IT企業に勤める外国の人って、なんで日本語がうまいの?」「英語を何年も勉強しているのに、英語を話せない日本人(私)が多いのはなぜ?」「もしかしたら、外国人と日本人の脳の違いに秘密がある?」

 そんな謎を解き明かすべく、日本のIT企業に勤める4人の外国人に体当たり調査を敢行。彼らの日本語マスター法から、効果的な語学学習のヒントを探った。

Case2 コンピューターと言語、好きなことを追求

  David Evans
  デイビッド・エバンスさんの場合
  アマゾン ジャパン

 

 

負けず嫌いの根性でやる気に
 

オンラインショッピングサイト「Amazon.co.jp」の運営サポートを行うアマゾン ジャパン。同社でシステムエンジニアとして働くデイビッド・エバンスさん(同社Sr.Search Engineer)は、2006年に国立情報学研究所の博士研究員として来日。2年後、日本好きが高じて、アマゾン ジャパンへ。現在は、日本人、アメリカ人、中国人、ドイツ人という国際色豊かなチームの一員として、サイトの検索エンジンを担当している。

 

 デイビッドさんの母国はアメリカ。10代のころから、電子工学系エンジニアだった父親の出張に同行し、世界中の学会に参加していたという。13歳で初めて日本に来たとき、町で目にする看板の文字がローマ字ではないことに驚き、初めて「言語の違い」に気づいた。まったく読めないことが悔しくて、高校生になってから、夜学のクラスで日本語の勉強を始めた。

 

 大学に入ってからは、日本語よりもコンピューターサイエンスの勉強に集中。とはいうものの、日本から留学で来ていた日本人学生と交流を深めるなど、ときどき日本語を話すように意識していたという。


ハイレベルな授業に苦戦

 大学を卒業し、コンピューターサイエンスの博士号をとるために、ニューヨークのコロンビア大学の大学院へ。そこで自分が好きなコンピューターと言語の両方を混ぜた、自然言語処理の分野に進もうと決めた。

 

 コロンビア大学といえば、日本文学研究の第一人者である、ドナルド・キーン博士を輩出した名門で、日本語プログラムのレベルが高いことでも知られる。デイビッドさんは、それまで4年間、テキサスの大学で日本語の勉強をしていたが、それでも、授業についていくのは大変だったという。

 

 それにしても、アメリカの学校ではどのように外国語を教えるのだろうか。日本で英語を習う場合は、先生が日本語で文法の説明をして、意味を理解する、というのがお決まりのスタイルだが。


 「文法も教えますが、主な目的は、自分の気持ちを相手に伝えるということ。テストも、書くよりは、聞き取りとか、話すことが多いですね。最初の授業から先生はすべて日本語。何を言っているのか全然わからないけど、ペンを握っているから、“あれはペンだろう”と」

 

 なるほど。「読み書き」よりも「聞くこと話すこと」に重点をおいている感じだ。文法や単語が多少間違っていても、簡単な言葉でいいから、相手に意味を伝えることが大切、というのがアメリカ流らしい。


漫画を読み続けて読解力をアップ
 

授業を受けるにつれ、聞く、話すことには慣れたが、読むことに関しては、まだ苦手意識があったという。さらに磨きをかけるには、毎日続けないとダメだと悟ったデイビッドさんは、あることを思いつく。

 

 「コンピューターが好きだから、日本の漫画を翻訳するプログラムを作ることにしたんです。日本語から英語へ切り替える作業と、文字列をどうやって配置するかというプログラミングの両方を楽しみながら、毎日10ページくらいずつ翻訳しました。知らない言葉でも、10回繰り返し打ち込んだら覚えます。それで漢字も覚えましたよ」

 

 語学の上達に大切なのは、毎日続けることと、楽しんでやること。デイビッドさんが毎日欠かさず続けられたのは、楽しんでやっていたから。「楽しいことだから、進んでやりたい」。そう思えるくらいハマれるものがあれば、語学習得にまた一歩近づく。ちなみに、デイビッドさんがハマった漫画というのは。

 

 「『GTO』です。全巻翻訳しました。学校では習わないような、普通の人が使っている言葉とか、言い方とか、決まり文句もわかるようになりました。おかげで変な日本語を覚えたりも。『原チャリでスカして、オラオラ~』とか」

 

 そんなフレーズは、間違いなく学校の授業では教わらないだろう。

 

自分が活躍できる場を探して


 そもそもデイビッドさんがアメリカではなく、日本で働こうと思ったのはなぜか。

 

 「自然言語処理の分野で活躍したくても、アメリカでは、その能力を発揮できないと思ったんです。コンピューターサイエンスやプログラミングが好きで、英語ができて、日本語も趣味で勉強している……その自分の持っている能力を最大限に生かして、インパクトのあることができる場所はどこかと考えたら、それが日本だったんです」

 

 自分の能力を信じて、活躍できる場所へ自ら飛び込む。勇気のいる行動だと思うが、不安はなかったのだろうか。

 「20代なら、別に失敗してもいいじゃないですか。破産したとしても、もともとそんなにお金もないですから。自分が好きなことをやってみて、もし合わなかったらほかのことをやればいい」

 

 確かに、若いうちなら失敗してもやり直しがきく。必要なのは、初めの一歩を踏み出す勇気と行動力、か。「海外に行って活躍したいなら、自分の能力とか趣味を生かして、どういう生活ができるのかを考えたらいいと思いますよ。英語はもちろん必要だと思いますが、日本人なら、“日本語がわかる”という強みもある」

 

 日本語もスキルのひとつ。そう考えると、ちょっぴり勇気がわいてくる。さまざまな努力を重ねてきたデイビッドさんにとって、効果的、かつとっておきの日本語上達法とは。

 

 「友達と一緒に飲みに行くことですね。ニューヨークにいたときも、日本人と飲みに行って、日本語が使えるような環境を作りました。日本に来てからもそうです。居酒屋だと、お店の中もうるさいし、聞き取りにくい。けど、逆にそれがいいんです。お酒も入っているから、失敗しても気にせずに楽しく話せますから」

(取材・文/佐藤未来)

次回につづく

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