グローバル転職NAVI

キービジュアル キービジュアル

有元美津世のGet Global!

デジタルノマドビザって必要? 2024.01.16

 

今年1月1日から、お隣りの韓国もデジタルノマドビザ(DNV)の試験導入を開始しました。このビザでは一年の滞在が可能ですが、さらに一年更新して計2年滞在することが可能です。

  取得条件は、海外の企業に勤務し、同じ業種で1年以上勤務経験があり、韓国の一人当たりのGNI(国民総所得)の倍の所得があることというものです。つまり、月708万ウォン(約78万円)の所得が必要となります。

また、1億ウォン(約1100万円)以上の医療保険への加入が義務付けられています。なお、このビザでは家族を帯同することも可能です。

韓国政府は、「DNV の導入により高所得の外国人が国内各地に滞在し、地方経済に活力を吹き込む」ことを期待しているようです。日本とちがい、 韓国ではアウトバウンドがインバウンドを超過している状況で、DNV でインバウンドツーリズムを盛り上げるという狙いがあります。

 

本当にメリットはあるのか

 

日本では、 DNVの制度化を勧める政府に対し、10月に推進団体が早期化への要望を含めた共同宣言を発表しました。

推進派が挙げるメリットに「経済効果」「地域活性化」「イノベーションの促進」などがありますが、これらは、DNV を早々と導入した国々が「考えられるメリット」として挙げていたものです。実際に、デジタルノマドが、どれだけの経済効果を生み出しているのかというデータには、私は、まだお目にかかっていません。

いち早く2021年にDNV発行を開始したクロアチアが、一部、データを発表していますが、やはり効果は不明です。(それなのに、スロベニアが真似るらしいけど。)

デジタルノマドが90日超の滞在を希望して在留資格を申請した数は、2022年には1223件、2023年は11月までで1398件だったそうです。そのうちロシアから600人、ウクライナから211人で、半分以上を占めています。

(デジタルノマドをしたいというより、戦争から避難したい人たちでしょうか?もちろん、両国に比較的近いというクロアチアの立地もありますが。)それ以外の国では、アメリカが153人、イギリスが60人とのことでした。 各国のリモートワーカーがチェックインするデータベースによると、チェックイン数、ノマドのお気に入り度ともに、DNV が発行されていない東京の方がクロアチアの首都、ザグレブ(Zagreb)より上位です。

今後、韓国や、昨年、DNVを導入したスペインの状況を見守りたいと思います。

 

デジタルノマドに人気の東京

 

上述のデータベースによると、2023年、東京が「世界でもっとも急速に伸びるリモートハブ」となりました。日本は、2022年秋まで海外からの旅行者に対して”開国”しなかったので、2023年の数字は前年比驚異的な数字になっていますが、2018年から2022年にかけても、デジタルノマドの数(同サイトにチェックインした数)が69%増えたということです。

現時点でも、5600人の人が東京にチェックインしています。日本への旅行オンラインコミュニティでも、「今、日本滞在中だけど、気に入ったので、滞在を延長しようと思う」といった書き込みは珍しくありません。 このようにDNV がなくても、すでに1~3ヵ月、日本に滞在してリモートワークしている人たちはいくらでもいるわけです。昨年、書いたように、多くのデジタルノマドは、DNV を取得するために、所得証明や取引先との契約書などの書類を準備するのなんて面倒なのです。それであれば、滞在は90日以内にして、別の国に移動するという人の方が多いでしょう。実際に、昨年の欧米人デジタルノマドを対象にしたアンケート調査では、半数以上が滞在期間は4ヵ月以下で、3割近くが1~2ヵ月です。

続けて90日以上滞在したい人はvisa run(※1)する人も珍しくありません。デジタルノマドのオンラインコミュニティでは「〇〇国でvisa runするにはどうすればいい?」という質問が頻繁にされています。


(※1)Visa runとは、その国での滞在許可を延長を目的として他国に出国し、再入国すること。

 

十分な資金を

 

先週、デジタルノマドのオンラインコミュニティで、「デジタルノマドとなって2週間で勤務先をリストラ(lay off)された。今、タイにいるけど、アメリカに帰る予定の日まで資金が持たない。海外から失業保険は申請できるのか?」といったSOS的な投稿がありました。

「すぐにアメリカに戻った方がいい」という声が多い中、「アメリカ国内にいるとウソをついて失業保険を申請しろ」というアドバイスが「海外にいながら失業保険を受給するのは違法」というのと同じくらいあったのにはビックリしました。「バレると、後から返還請求されるよ」という経験者の声もいくつかありましたが。(アメリカの失業保険は州政府の管轄。州によっては、IPアドレスで居場所を確認したり、パスポートの提出を求める失業保険事務所もあるようで。) 

もちろん、「緊急資金もなしに海外に行くのは無謀。少なくとも半年分の生活費は蓄えておくべき」という、まっとうな意見も聞かれました。 この投稿者(ウェブデザイナー)も「5ヵ月前に採用された際には、会社の業績が悪いなんて様子はまったくなく、まさか自分がリストラされるとは思わなかった」と言っていますが、アメリカ企業での大量人員整理が起こってから、「海外でノマドしている間にクビを切られた」とか、「会社に無断でメキシコでリモートしている社員らを次々に呼び戻している」という情報が流れていたんですけどね。最近も、アメリカ企業以外でも「海外滞在を続けるなら、契約社員に変更」と言い渡された人たちが珍しくありません。

ちなみに、アメリカではフルリモート職は激減しており、新たにリモートワークを見つけるのはかなり難しくなっています。フリーの仕事であれば、ありますが、フリーランスとしての契約でも「海外居住は不可」という企業もあります。

実際に、この投稿者も、資金が続く限り、タイに滞在したまま、フリーの仕事を探すことにしたようです。

デジタルノマドを目指す人は、もしかの時のために、十分な資金を用意してから実行に移しましょう。

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

外資・グローバル企業の求人1万件以上。今すぐ検索!

この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

合わせて読みたい

---