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有元美津世のGet Global!

激化するデジタルノマド誘致合戦--ノマドの選択肢は拡大2022.10.04


  前回、書いたように、最近、タイもデジタルノマドが使えるビザを設けました。これは最高10年まで滞在できる長期ビザで、デジタルノマドだけでなく、退職者などもターゲットにしているのですが、過去2年の年収が8万ドル以上(または金融資産100万ドル、あるいはタイでの投資50万ドル以上)という条件があります。デジタルノマド・ビザ(DNV)というより、マレーシアの退職者向け長期滞在ビザ(MM2H)に近いですね。所得税は通常の半分だそうですが、課税されます。*

  「え~、そんなの収入的に無理」「長期ビザは不要」という人には、先月、DNVを開始したマレーシアがお勧めです。最高1年滞在でき、条件は年収2万4000ドルで、海外またはマレーシアの企業と最低3ヵ月の契約をしていることというものです。複数の短期契約で合計3ヵ月というのもOKです。

  インドネシアも、一年以上前から「DNVを創設する」と言いながら、今のところビジネスビザでリモートワークを許可しています。60日滞在可能なビザを2回更新でき、最高半年まで滞在できます。ロシアやイギリス、ドイツからの旅行者が多いそうですが、今後、オセアニアや東南アジアからもデジタルノマドを勧誘するそうです。

 なお、DNVでは、大半の国では、最高一年まで滞在でき、その後、更新可能な国もあります。海外の企業に雇用されている、またはフリーランスで海外の企業から仕事を請け負っていて、リモートワークができることが条件です。(どこの国も、地元民から職を奪うことなく、お金だけ落としてくれる旅行者を探している。)

  所得税を課せられる国もありますし(たいてい減税措置あり)、期間限定で非課税という国もあります。また、大半の国で、医療保険の購入を義務づけています。

ヨーロッパ


  昨年、書いたように、一年以上前からデジタルノマド誘致合戦は始まっていたのですが、最近、DNVを設ける国が一気に増えました。コロナで大打撃を受けた観光業を回復させたいというのが 各国の思惑です。

  ヨーロッパでは、DNVを発給する国は15ヵ国に達しており、先月末、ポルトガルも加わりました。ポルトガルでは、これまでは退職者向けビザを使って滞在するデジタルノマドが多かったのですが、所得の内容的にビザ取得が難しいケースもあり、これでデジタルノマドにとってはビザ取得が容易になりました。

  ポルトガルは、近年、アメリカ人の間で大人気です。とくに若い人には、住宅価格や家賃が手が届かなくなってしまい、アメリカを脱出する人が増えているところに、最近のユーロ安が追い風となっています。ポルトガルは、他の西欧諸国に比べ、住宅価格や家賃が安く、アメリカの両海岸の大都市に比べれば格安なのです(給料も安いが)。

 昨年、ギリシャやクロアチアもDNVを開始しました。必要な所得は、ギリシャが月3500ユーロ、クロアチアが月2200ユーロです。なお、EUでDNVを取得するメリットに、EU内を自由に移動できるというのがありますが、クロアチアはシェンゲン(Schengen)加盟国ではないので、そのメリットは享受できません。

  シェンゲン加盟国の島国マルタは月2700ドルを条件としていますが、英語が公用語というメリットがあります。やはりシェンゲン加盟国のハンガリーは、直近の半年間、月1980ドルの所得が条件です。家族の同行は許されないので、40代以下の独身者がメインターゲットのようです。

  中東欧は、西欧に比べ、物価が安く、通常、ビザ取得に必要な所得も低いのですが、ルーマニアでは月3500ドルが必要です。シェンゲン加盟国のラトビアも、今年、DNVの創設が決まりましたが、日本を含むOECD諸国の居住者に限られます。所得条件は月2800ユーロです。

  一方、アイスランドでは、月7100ユーロの所得が必要で、ハードルが高いです。アイスランドは物価がバカ高いので、これくらい稼いでないと厳しいかもしれません。最高半年しか滞在できないのも見劣りします。

  スペインも、近々、DNVの発給を開始する予定です。スペイン国外の企業に雇用されているか、フリーランスで、1年以上リモートで働いいることが条件です。所得条件は月2000ユーロと低めですが、税金は免除されず、一年目は15%、それ以降は25%課税されます。

中南米


  パンデミック中も入国制限せずに、観光客の受け入れを続けてきたメキシコにも、アメリカ人が押し寄せていますが、DNVは設けていません。観光ビザで半年滞在でき、それ以上、滞在したければ「一時居住ビザ(temporary resident visa)」を取得すれば、最高4年まで滞在できます。(その後、永住権申請可能。)

  ブラジルも、今年一月からDNVを設けましたが、所得条件は月1500ドル(または預金残高1万8000ドル)とハードルは低いです。ポルトガルに「デジタルノマド・ビレッジ」を構築した会社が、今年、ブラジルのビーチタウンにも、同様のビレッジを開設しました。

  コスタリカも、今月からDNVを開始しましたが、月3000ドルの所得を条件としています。なお、今月、コロンビアもDNVを開始する予定です。

  このように、デジタルノマドにとっては、滞在先の選択肢はどんどん広がっています。「生活費を稼ぎながら、世界各地を旅行できるなんてサイコー」と思う人もいるでしょうが、実際には、バラ色というわけではなく… 次回は、その実態について。



* 私も6年前に申請しようかと思ったマレーシアの長期滞在者向けビザは、10年だったのだが、昨年から5年に短縮され、その取得条件も、所得や金融資産が4倍以上に跳ね上がったため、申請者が激減。(リタイア後、月収100万円ある人は、別の移住先を選ぶと思う。)

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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