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有元美津世のGet Global!

グローバル人材なら知っておきたいコロナ下の入国制限2021.06.08


 先月、米国務省が日本への渡航勧告(travel advisory)をレベル4(渡航中止)に上げたことで、また日本では大騒ぎになってしまったようです。

 アメリカは、世界の8割の国に対しレベル4を出しているので、日本だけに厳しく勧告されているわけではありません。(昨年、レベル1から2に引き上げた時も日本では同様の反応が起こりました。なお、同勧告は6月8日にレベル3に下げられました。)それよりも、そのずっと前に、日本の方がアメリカに対し、渡航中止勧告(レベル3)を出しています。(日本の渡航勧告レベル4は「退避してください」。シリアに対して出されている。)自分たちが先に渡航中止勧告を出しておいて、相手から同じことをされると大騒ぎというのは、グローバルな視野ではないですね。

 そもそも、いくらアメリカ人が日本に入りたくても、日本が入れてくれない! 日本は、今、世界160ヵ国以上からの入国を禁止しており、ほぼ鎖国状態です。(なのに、未だに、海外から観光客が入ってきていると思っている人がいるようです。)

 もちろん、そうした中、オリンピック関係者は特別枠で入国するのですが。海外メディアもオリンピック騒動に便乗して、渡航勧告について書き立てていましたが、まともなメディアは「米政府が日本に対し渡航中止勧告を出したが、日本の国境は閉ざされているので、実質、影響はない」と書いていました。

渡航・入国 101(入門編)


 以前も書いたように、日本は「入国制限が甘い」という人がいますが(日本語オンリーの世界)、そんなこと思っている人は、海外には、ほとんどいません。日本を含めた一部のアジア・オセアニアは、欧米などに比べて入国制限が非常に厳しいのです。(そもそも入国者全員にコロナの検査を行っている国は、世界でほんの一握り。)[1]

 もう一年前から、ビザ免除の入国は停止されているし、新たなビザはもちろんのこと、すでに発行済みのビザも無効になっています。これだけで、ほとんどの人は入国できません。(入国できる証明がなければ、出発時に航空会社が乗せてくれません。コロナ下では搭乗時にPCRの陰性証明も必要。こうしたことは海外渡航の基本の基本です。)

 日本は当初、在留資格(居住可能な中長期ビザ)のある外国人も入国禁止にしていましたが、「在住者が再入国できない」ことでG7国を中心に批判を受け、昨年10月、在留資格所有者は入国できる「レジデンストラック」が設けられました。しかし、短期出張者向け「ビジネストラック」とともに、1月から停止されています。どちらも、日本に受入企業・団体があることが条件で、入国に際し、受入機関が入国後の活動計画書を提出、宣誓書に署名し、入国後の14日間の待機などの責任を負うものでした。

変異株で、さらに厳格に


 変異株の流行で、入国制限はさらに厳しくなっており、去年までは、日本国籍なら入国時の抗原定量検査だけで、入国前の陰性証明は必要なかったのですが、年末から必要になりました。

 さらに、変異株が検出された国からの入国は、空港での検査で陰性でも、指定宿泊施設での強制隔離が義務付けられました。[1] これには、EUの大半を含む50ヵ国ほどが対象で、指定宿泊場所で3日、(ベトナム、マレーシアからの入国)6日間、(インドなどからの入国)10日間、強制隔離が行われ、3日後、6日後、10日後に行われた検査で陰性であれば退所となります。が、その後、さらに計14日間のうちの残りの日数、自主隔離が求められています。[2]

 つまり、こうした国から入国するには、下記のプロセスとなります。(帰国者からは悲鳴。)

       渡航前PCR検査(陰性証明)→ 入国時抗原検査 

       → 国によって3、6、10日間強制隔離 → 3、6、10日後、PCR検査、陰性であれば退所
   → 残りの期間、自宅やホテルで自主隔離 (以前から、14日間、公共交通機関は使えない)

 以前は、入国後14日間、厚労省からLINEで、毎日健康チェックが来て、それに応答する形でしたが、今は、接触確認アプリ(COCOA)や位置情報確認アプリ、(厚労省職員との対話用)ビデオチャットアプリなどのインストールが義務付けられています。(日本で使えるスマホがない人は、空港で自費で高額の強制レンタル。)

 今、変異株が発見された国・地域が、毎日のように、そのリストに追加されていて、アメリカの場合、4州だけだったのが、6月に入り、さらに15州が追加されました。(こういうニュースは英語での方が先に流れる。)

 なのに、NHKには「水際対策が強化され、空港の検査で陰性でも、14日の自主隔離が求められるようになりました」と書いている記者もいましたが、同様の対策は昨夏から行なわれています。

 さらに、渡航前のPCR検査が日本政府指定の検査方法でなければ入国は許されません。実際に、5月、オランダから帰国しようとした日本人が、検査方法が違ったため入国できずにオランダに強制送還されています。今月、予定されていたジャマイカとのサッカー親善試合が中止されたのも、このためです。アメリカから出発した選手は問題なく入国できましたが、ヨーロッパから入国しようとした選手らは、PCRの検査方法が違ったため、アムステルダムで乗り継ぎ便に搭乗できなかったのです。(どちらにしろ、検査方法を含む政府指定の書式を使っていれば回避できた。15言語で用意されている。)

「渡航勧告」とは


 話は戻りますが、「渡航勧告」というのは、「勧告」なので、法的強制力はありません。「渡航を自粛してくれ」ということです。(ブルームバーグの日本語版が”travel warning”を「渡航禁止」と誤訳していた。) なので、飛行機さえ飛んでいれば、渡航する人は必ずいます(私も日米往復してるし)。

 1年前から渡航勧告が出ているにもかかわらず、今、米空港の入管はコロナ禍前のように帰国者の長い列ができています(外国人窓口も行列。)また、5月には、成田発ダラス行きアメリカン航空便で、アメリカ経由でメキシコに母親と遊びに行く途中だった日本人女性が(エコノミー)座席のUSBチャージャーが故障していることに腹を立て、乗務員と争いになり、操縦室のドアを叩くなどしたため、シアトルに緊急着陸するという事件が起こりました。その女性は、もちろん逮捕。(この時期、わざわざ日本から何十時間もかけて、感染が拡大しているメキシコに遊びに行くって、かなりの強者。)

 英語ニュースでは大きなニュースになっていましたが、日本語オンリーの世界の人は知らないようです。




[1] ちなみにアメリカが渡航前陰性証明を義務付けたのは、今年一月末。昨年の感染爆発時でも、空港でのPCR検査はもちろん、サーモグラフィーも健康に関する質問も何もナシ(つまり検疫ゼロ。)陰性証明書も入国時に回収しない。
[2] 以前から強制隔離をしているアジアの国でも、過去2ヵ月感染が拡大しているが、日本語オンリーの世界の住民は知らない?
[3] 在留資格所有者のインドなどからの再入国は禁止されているので、入国できるのは日本国籍・永住権保持者のみ。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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