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キルギス(2)– 留学先として

昨夏、訪れた中央アジアの3ヵ国が気に入ったので、また今夏も訪れたのですが、今回は留学の話です。

「えっ、キルギスに留学?!」と思う人もいるかも知れませんが、キルギス(Kyrgyzstan)は、日本から、ロシア語学習の留学先として人気です。ロシアより物価は安いし、親日です。とくにウクライナ侵攻以降は、日本人に限らず、ロシアよりも中央アジアを選ぶ学生が増えているようです。ロシアのビザ取得は、以前にも増して厳しくなっているようですし。

驚いたのはキルギスの人には、ロシア語の方が得意で、母語のキルギス語が苦手という人が少なくないことです。たとえば、8月にアラアルチャの近くで滞在したゲストハウスでは、「ロシア系の学校に行ったので、キルギス語は苦手」という20代の女性が働いていました。街中でも、キルギス人同士でロシア語で話しているのが聞こえてきます。

一方キルギスは、中央アジアで唯一アメリカ式の大学がある国です。中央アジア・アメリカ大学(AUCA = American University of Central Asia)は、ソ連崩壊後の1993年に、中央アジアを民主主義に導くリーダーを養成するために設立された大学で、アメリカの私立大学と提携しています。*

日本の私立大学数校とも提携しており、日本から交換留学する学生もいます。英語圏の国に比べ、留学にかかる生活費が格段におさえられるのは魅力でしょう。大半の授業は英語で行なわれ、英語を学ぶのが目的ではなく、一般教養科目(liberal arts)を”英語で”学びます。ロシア語の受講も可能です。

南アジアの学生に人気の医大

ところで、キルギスの(英語)オンラインコミュニティでは、パキスタン人やインド人などの南アジア人が「差別がひどい」と投稿しているのをよく見かけます。「南アジア系には貸さない」という大家が多く、部屋を見つけるのも大変なようです。(キルギス人による差別的な投稿も珍しくない)

それどころか今年5月には、ビシュケクで、主にパキスタン学生が住む学生寮を700人ものキルギス人の若者が襲撃するという事件が起こりました。何十人もの留学生が負傷し(治療費はキルギス政府が負担)、「帰国したい」という学生のために、パキスタン政府がチャーター便を飛ばしたくらいです。結局、500人以上の学生が帰国しました。

それ以外にも何年も前から、南アジアの学生が街で襲われるといった事件が相次いでいて(コロナの緊急事態でボランティアをしていたパキスタン人の医大生まで)、学生らはキルギス政府に保護を求めていました。(留学生らはロシア語を話せず、警官は英語を話せないので、まず意思の疎通ができない)

南アジアの国々では、自国の医学部に入れなかった学生の間でキルギスやウズベキスタンの医大への留学が人気なのです。たとえばインドでは、今年、公立私立併せて11万人弱の募集定員に対し、240万人以上の学生が医学部入学のために受験したという驚きの競争率が背景にあります。

ただし、自国で医師になるため、自国の医師免許試験に受からなければないのは、日本と同じです。受験するには、卒業した大学が国によって承認されなければならないのですが、キルギスで、パキスタン政府の承認を受けている医大は4校のみ、ウズベキスタンでは皆無です。3年前に、キルギスとウズベキスタンの医大21校が、パキスタン政府の承認を受けられなかった際には、医師や医大生2000人が抗議デモを行いました。

日本の留学生にはハンガリーの医大が人気ですが、ハンガリーの医師免許を取得すれば、EU内で医師として働くことができます。(大半の日本人学生は、日本に戻って医師免許を取得するようですが)中央アジアで医大に行っても、そうしたメリットはありません。

それ以外にも、南アジアからの留学生からは「講師が英語を話せない」「賄賂でいくらでもいい成績が買える」などの不満が聞かれ、「キルギスの医大への留学は勧めない」という声は少なくありません。

首都ビシュケク

これらの大学はすべて、ビシュケク(Bishkek)にあります。キルギスの自然美に関しては、昨年書きましたが、有名なアラアルチャ国立公園(Ala-Archa Nature Park)は、ビシュケクから車で40分ほどで行けるので、日帰りすることも可能です。

日帰りできる距離に温泉もあります。キルギスには天然温泉があちこちにあり(通常、露天)、山々(冬には雪山)を眺めながら、お湯につかることができます(水着着用)。海外の温泉には温いものが多いのですが、キルギスには日本並みに熱いものもあります。

ビシュケクではキルギス最大の市場、オシバザール(Osh Bazaar)が有名で、そこにサムサ(samsa)が非常においしい食堂があります(今まで食べたサムサの中で一番)。地元の人でにぎわう食堂で、突然、日本語が聞こえてきたときには驚きました。若い日本人のカップルが入店してきたのですが(見かけは地元民)、サムサを勧めておきました。(ケバブもおいしい)  

オシバザールついでに… キルギスのオンラインコミュニティで、9月に「フィンランドで盗まれた娘のスマホがキルギスにある。誰か、チェックしに行ってくれないか?」との投稿がありました。その2週間後には「その後、娘のスマホが移動して、今はオシバザールにあるようなので、誰か行って取り戻してくれないか?」とも。盗まれた後に売られているのだから、売っている人が返してくれることなどないだろうに…  地元の人からは「あきらめるしかない。Move on」との声が相次いでいました。

*上述のアラアルチャの近くで泊まったゲストハウスのオーナー一家に、この大学で修士を取得した女性がいたのだが、英語の先生もやっていたということで、もちろん一般のキルギス人に比べれば英語は上手。が、その後、(乗馬・ホーストレッキングで有名な)村で出会った(若いシンガポール人夫婦に雇われた)ガイドの方が英語はうまかった。その男性は、家族がアメリカ在住で、アメリカに半年、滞在したことがあるそう。アメリカ人と話すスピードや語彙でも通じて、今まで出会ったキルギス人の中で一番英語がうまかった。
その人は40代で、中学の頃、外国語を選択する際に、当時の彼女が英語を選択するのについて行って、たまたま英語を学習することになったそう。当時、キルギスではドイツ語が一番人気だったそうで、偶然にもマイナーな英語を学んだことが後々幸いしたもよう。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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