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有元美津世のGet Global!

デジタルノマドの実態2022.10.11


  毎日、複数のネットコミュニティ(メンバーの大半がアメリカ人)に顔を出している私ですが、一番しっくりいくのが「デジタルノマド(digital nomad)」コミュニティです。私は、2015年からノマド生活をしており、今年は7月までに6ヵ国に滞在したのですが、海外生活とは縁のない人に、そういう話をすると相手の目が点になります。*

  しかし、デジタルノマド・コミュ二ティでは、1ヵ月~数カ月ごとに国を転々とする人など珍しくもなく(というより平均的)、2週間で10ヵ国以上という強者もいます。

勤務先に内緒で海外に


  そして、同コミュ二ティに、少なくとも毎週必ず一本は投稿されるのが、「海外にいるのを勤務先にバレないようにするのは、どうすればいい?」という質問です。

  ネットでのコメントを見る限り、フルタイムで世界を回ってデジタルノマドをやっている人は、大きく下記に分類できます。

  1. フリーランス(大半)
  2. 小さなIT企業勤務(フルリモート可)
  3. 勤務先に内緒でやっている

  アメリカでは「フルリモートOKの企業」といったリストがよく流れていますが、大企業の場合、それは、たいてい国内に限りというものです。アマゾンやAirBNBなどが「どこからリモートワークをしてもOK」というのもニュースになりましたが、これも米国内に限ったことです。

  米アマゾンでは海外からリモートしているのがわかると、すぐクビだそうです。AirBNBでは、海外でのリモートは年90日間のみという条件付きです。(年に90日間、海外にいるだけでは”ノマド”ではない。)

  Spotifyでは「時差の問題がない同じ地域からのリモートであること」という条件付きで、たとえばヨーロッパ在住の人がヨーロッパでリモートワークするのはOKですが(EU内であれば自由に移動できるので、そもそも問題なし)、太平洋や大西洋をまたいだリモートワークは不可ということです。

  そうした社内の規則を知らずに、直属の上司が部下に海外からのリモートワークを許可しても、人事が反対する場合が多いのです。上司に「人事に確認するように」と言われ、人事に聞いたら「不可」と言われたというケースも多く、「こんなことなら、初めから聞かなければよかった」と悔やむ人も少なくありません。そこで、「デジタルノマドになりたいのなら、勤務先に言わずに黙ってやること」というのが大半の意見です。

  直属の上司からは許可を得たものの、「周りには言わないように」と言われたという人もいます。「自分もやりたい」という社員が増えるのを恐れてのことです。

問題は企業側の法律遵守


  企業が、なぜ海外でのリモートワーク禁止するかというと、現地の雇用法や税法の遵守や人事や税務の業務負荷を危惧するからです。

  雇用法や税法に疎い社員は、「滞在するのが180日以内であれば、その国で居住者と見なされず、課税義務は生じないのだから問題ないだろう」と言うのですが、それは個人に対する課税であり、法人の場合、もっと複雑です。企業が国内に拠点を持たず従業員を雇用するのは違法、または制限のある国が多く、拠点がなくても、人を雇うことによって、税務、雇用法遵守など様々な義務が生じるのです。

  たとえば、イギリス企業は、EU離脱後、EU在住のリモートワーカーを雇用するにはEU内での事務所設立が必要なため、イギリス国内で採用するという企業が大半です。

  アメリカの場合、法人は州法に基づいて設立され、税制や雇用法なども州によって異なるため、州をまたいだリモートワークも不可という企業もあります。

  また、金融業界や医療業界など業界によっては、データ(個人情報)の扱いが法律で定められており、社員が国外からデータにアクセスしたり、国外にデータを転送したりすると、企業が法律違反で咎められる可能性もあるのです。

  そもそも、たいていの国では、就労ビザなしで働くことは違法であり、海外の企業に勤務してリモートワークをする場合は、それを合法化するためにデジタルノマドビザを発給する国が増えているわけです。

  つまるところ、海外からリモートワークができるかどうかは、その企業の就労規則、また個々の雇用契約書にどう定められているかが鍵となります。契約書で「会社に無断で規定の場所、地域からの勤務は不可」とあれば、クビになる可能性があります。実際のケースでは、海外にいることが会社にバレ、「〇日までに国内に戻るように」と会社から通達を受けたり、「過去2年間、海外を回ってデジタルノマドをしていたのに、突然、上司にアメリカに戻ってこいと言われた」という人がいます。

  ちなみに、アメリカでは、来たるべき不況に備え、人員を削減するIT企業が続出していますが、管理職3000人に行なったアンケート調査では、その6割が「まずリモートワーカーから切ることになるだろう」と回答しています。

解決策


  そうした中、よくあるアドバイスが「どうしても海外で長期でデジタルノマドをしたいのなら、勤務先に隠れてコソコソやるのではなく、社員契約からフリーランス契約に変えれば?」というものです。

  また、EOR(Employer of Record)に雇われるという選択肢もあります。EORとは「登記上の雇用主」という意味で、雇用主に代わって人材を採用して、クライアント企業に派遣するもので、日本でいう「無期雇用派遣」のような形態です。

  ただし、「デジタルノマドになりたいからEORに雇われる」という場合は、元々、働いている企業(EORのクライアント企業)で雇われているのを紙の上では雇用主をEORに変えるという形で、職場での日々の作業は、それまでとは変わらないというものです。

  EORは、コロナ以前からありましたが、コロナを機にリモートワーカーの採用にも乗り出しています。越境でのリモートワーカーの採用支援に特化したスタートアップ企業も登場しており、各国で現地企業と提携して、海外150ヵ国以上でリモートワーカーの雇用、人事業務支援可能という企業もあります。

  「正社員でなくなるのは不安定で怖い」という人もいるでしょうが、元々、デジタルノマドとして世界各国を回りたいという人には、安定性を重視している人は少なく、その人が、どれだけ自由に生きたいかにかかっているのでしょう。



* 私の場合、週に数時間しか働かないので、あまり”デジタル”ではなく、ただの”ノマド”に近い。
目が点になる人には「ノマド(遊牧民)」の意味を知らない人も。「そんな根無し草のような生活なんて考えられない」という人も多く、「そんなライフスタイル冗談じゃない。孫に会えないなんて」という40代のメキシコ系アメリカ人に軽蔑の眼差しを向けられたことも… (別に彼女にノマドを勧めたわけではないのだが。私は2ヵ月同じ場所にいたら退屈する。)

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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