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有元美津世のGet Global!

外資・グローバル転職で役立つ英語表現(3)- Cancel Culture2021.12.07


 “Cancel Culture”も、英語メディアに接している人であれば、聞いたことがあると思います。アメリカでは、ちょうどMeToo運動(MeToo Movement)が盛んになった2017年ころから、よく聞かれるようになりました。
 元々は、人種・性差別的発言を”call out”(公に批判)することから、”Call-out Culture”と言われていましたが、そうした発言をした人を「キャンセルしよう、消そう」ということで、今では”Cancel Culture”が主流となっています。
 また、差別的な発言だけでなく、”社会的に受け入れられない”と判断された発言や行動に対しても行なわれ、主にソーシャルメディアを使って、その人の評判を落とし、辱め(online shaming)、社会的に葬る(ostracize)ことを意味します。

 日本でいえば、東京五輪組織委員会の森会長が、女性蔑視発言で辞任に追い込まれたようなことです。(日本では、不倫騒動で”消される”有名人が多いですが。)
 アメリカでは、数々のハリウッドスターやスポーツ選手が”消され”ていますが、「ハリーポッター」の作者、J. K.ローリングも、トランスジェンダーに対する差別的なツイートをしたとして”消され”ています。
 ”消される”のは、個人だけでなく、映画やテレビ番組、企業、ブランドも含まれます。日本語でも出版されているドクター・スースの絵本の一部に、黒人差別的な描写があるとして、今年から出版が中止されました。NFLのWashington Redskinsも、”Redskins”が先住民に対する侮辱的表現だとして、昨年、Washington Football Teamへの改名を余儀なくされました。*
 作品賞を含め8つのアカデミー賞を受賞した1939年作の「風と共に去りぬ」も、奴隷制度の惨さを無視し、黒人の描き方が差別的だということで、昨年、(ケーブルテレビ放送局の)HBOがライブラリーから削除しました。
  また、アメリカでは、ここ2年ほど、奴隷制度時代の政治家やリー将軍(General Lee)など南北戦争時代の名将の銅像が、各地で次々と撤去されています。今年に入ってからは、ニューヨーク市役所の(米独立宣言の起草者)トーマス・ジェファーソン元大統領の銅像が、多くの奴隷を所有し、奴隷を愛人にしていたことから撤去されました。こうしたことも”Cancel Culture”に含まれます。

Cancel


 では、”Cancel Culture”関連の英語表現を少し紹介しておきましょう。

#CancelNike (中国でウイグル人の強制労働によって利益を上げているとして批判の対象に)

#RipChrisPratt (クリス・プラット、ご愁傷様) Rip = Rest in Peace(安らかに眠れ)

The chair of the Tokyo Olympic Organizing Committee was canceled over his sexist remark.

(東京五輪委員会の会長が、性差別的な発言で消された。)

The singer was canceled over his extramarital affair.
(その歌手は、不倫騒動で追放された。)

What she said is outrageous. She needs to be canceled.
(彼女が言ったことは、とんでもない。彼女は葬られるべきだ。)

アメリカ版文化大革命


  一方、こうした傾向は、「言論の自由を奪い、異なる意見の議論を許さない」と批判する声も少なくありません。問題は、一定のイデオロギー(通常、左派)が正しく、それに反する思想や意見は、すべて”悪”というレッテルを貼られてしまうことです。
 「日本社会は、昔に比べて不寛容になっている」という人がいますが、アメリカも同様です。(というより、アメリカの方が過激。アメリカでは、ワクチンに対する懸念などは、口にできない。)
 昨年、ニューヨークタイムズ紙のライターが辞任しましたが、同紙の主流とは異なる意見を示すために雇われたにもかかわらず、多様な意見を示そうとしたところ、同僚からいじめに遭い、圧力を受けたということです。「”正義”とされることから少しでも逸れると、反論の余地なく黙らせて、評判、キャリア、生活の糧を破壊するCancel Cultureとは、こうした新たなイデオロギーの司法制度となっている」と。
 日本の人は、よく「日本の芸能人も、ハリウッドスターのように政治的発言をすべきだ」と言いますが、政治的発言が許されるのは、左派(民主党エスタブ)の意見に限ったことです。**

保守的、共和党支持の発言をすると、フルボッコにされ、キャリア的にも致命的なので、そうした発言は滅多にされません。ゲイのタレントが「ゲイをカミングアウトするよりも、共和党支持者であることをカミングアウトする方が難しかった」と言ったくらいです。(まさに、その通り。)
 俳優のクリス・プラットも、昨年、ツイッターで「4人のクリスのうち、誰が葬られるべきか」という投票で選ばれ、”消され”ました。本人が何らかの発言をしたわけでもないのに、「大統領選の際にバイデン氏支持を表明しなかった」「インスタで共和党議員をフォローしている」「所属している教会が反LGBTだ」という理由からです。***
 アメリカの主流メディアは元々、(民主党エスタブ支持の)左派ですが、グーグルやメタ(元フェイスブック)、ツイッターなども、同様の視点で言論統制を行なっています。たとえば、日本のYouTuberも体験していますが、(ワクチン反対論者でなくても)ワクチンに慎重な内容を投稿しただけで”misinformation”として削除されますし、大統領選前も保守系の投稿は同様の扱いを受けていました。現役大統領がツイッターに消されたくらいですから...
 このように、「何が正義か」「何が人の目に触れるべきか」をBig Techが決めるようになっているのです。
 今、中国では「文化大革命2.0(Cultural Revolution 2.0)」が進行中だと言われていますが、何年も前に中国からアメリカに移民した中国系アメリカ人が、こうしたアメリカ社会の傾向に対し、「今、アメリカでも文化大革命が起こっている」として全体主義への傾倒に警鐘を鳴らしています。
 ということで、下記のような声もあります。

Let’s cancel Cancel Culture. (キャンセルカルチャーをキャンセルしよう。)


* 批判が高まる中、オーナーは「絶対、改名しない」と拒否していたが、スタジアムのスポンサーであるFedExから改名しないと契約を解除すると言われた。それに先だって、ナイキやウォールマート、アマゾンなども、同チームのグッズの販売を停止していた。このように、Cancel Cultureは、企業のブランドマネジメントにも影響を与えている。
 
** 民主党エスタブというのは改革は求めておらず(”Republican Lite”と呼ばれる所以)、党内の真の改革派も虐げている。
 
*** 敬虔なクリスチャンということでターゲットとなっている。「敬虔なクリスチャン=保守的」ということで、大半はそうだが、そうでないケースもある。最近は、妻(A・シュワルツェネッガーの娘)を称える投稿に対し、「Cringy, insecure(ドン引き、精神的に不安定)」と叩かれている。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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