Global Career Guide
(前回の続き)“コンピュータが人類全体の能力をはるかに超え、それ以降の歴史の進歩を予測できなくなる” ・・・ これが現実のものとなる時点を “Singularity” と呼び、具体的には 2045年 に到来する、と予測されています。日本では一部マニアやオタク系の人しか知らない、この “Singularity” ですが、アメリカでは大人は当然のことながら、子供たちの間でもポピュラーな話題となっています。これは、“Singularity” の研究に関する最先端の組織として設立された「特異点大学(Singularity University)」 という研究機関のバックアップメンバーに、米政府、NASA、グーグルなど、そうそうたる組織が名を連ねていることからもわかるでしょう。今回のコラムでは、“Singularity” に対する日米の差異について俯瞰するとともに、ビジネス社会への影響について検討することにいたしましょう。
先日のこと、某ITベンダー主催のセミナーで、東大大学院准教授の 松尾豊 先生が講演されるというので、参加してきました。松尾先生は、日本におけるAI(Artificial Intelligence:人工知能)研究の第一人者でして、特に “ディープ・ラーニング”(コンピュータによる学習)分野では、世界的研究者として知られています・・・って、みなさん、ご存知でしたか? もしかしたら、日本よりアメリカの方が知名度が高いのかもしれませんね。悲しいですが・・・
そもそも、今回のコラムでこのテーマを取り上げた1つの理由は、松尾先生の著書 『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(角川EPUB選書) を読んで衝撃を受けたことが発端でして、是非みなさんにもお読みいただきたい。Amazonでも高評価、めっちゃ面白い!
講演の全容を御紹介するのは主旨ではないので、インパクトのあった発言骨子を以下に掲載します(筆者による勝手な要約含む)
① 画像認識 においては、今年に入って、AIが人間を超えるというデータが出てきた。例えば、2枚の写真を見て、それが同一人物か、異なる人物か、を当てるテストでは、既にAIの方が人間より上である
② ①の開発競争は、Google、Microsoft、Facebookなど、IT企業(主に、アメリカ系)の独壇場となっている。これらの企業は、関連技術を持つ企業を、法外な買収金額でM&Aしまくっている
③ ①の結果、現時点において、「リキャプチャ」(ぐにゃぐにゃした文字や数字)による画像認証は、ほとんど役に立たない = ぐにゃぐにゃした文字や数字 でも、AIなら楽勝で読める!
④ “Singularity” については、ある意味では、googleが登場した時点で、既にAIは人間を超えている
⑤ 人間がAIに滅ぼされる・・・ という議論は、かなりナンセンス。AIが人間を凌駕するのは、“知識” の部分であって、“生命維持” “子孫継続” という、生物が持つ根源的な能力を、コンピュータは持っていない。よって、いかにうまく使うか? = 共存するか? という観点が重要・・・
松尾先生はアカデミズムの方なので、ビジネスへの言及はほとんどありませんでしたが、ここで少しだけ “金儲け” の観点を入れてみましょう。
松尾先生の話を伺って、「こりゃ儲かるな・・・」と思ったのは、画像認識の技術、特に “人相の照合” です。現時点にいても、数字や文字の暗証番号に代わって、指紋・手相・虹彩(角膜と水晶体の間にある薄い膜)を照合する、いわゆる “生体認証” が既に実用化されていますが、この技術に “人相の照合” が加われば、処理プロセスを簡易にすることができ、認証レベルに応じた(手軽な認証でいい場合には、人相のみでOK等)対応が可能となります。
また、防犯などの分野では、画期的な進歩が期待できます(これが軍事などにつながっていくと、それこそSF映画の世界になってしまうのですが・・・。MARVELの映画に出てくる典型的な悪者のパターンですな・・・)。世界中の人間を、その人相で特定できる技術が確立されたら・・・、それを開発した企業には、莫大な富がもたらされることでしょう。グーグルなどのIT企業が目指しているのは、経済的側面でいえば、そういうことなのだろうと思います。
“人相の照合” を実現するためには、膨大な “人相データ(つまり、顔写真)” が必要となります。仮に、2006年にグーグルがYoutubeを買収した目的が、「合法的な顔写真の収集」 にあったとしたなら・・・ 私はグーグルの 先見性 に、驚愕を超えて、畏怖の念すら覚えます。グーグル、おそるべし・・・
アメリカのIT企業のすごいところは、単なる カネの亡者 ではない ということでしょう。もちろん、収益の獲得は、企業が果たすべき重要な側面です。私自身、金儲けに固執しない企業で働きたくない。そういう企業の株も欲しくない。
しかし、その一方で、社会を変革してほしい! という願望もあります。社会を変革しながら、カネを儲ける。儲けたカネで先行投資し、また社会を変革する・・・ これが、リーディング企業のあるべき姿なのではないでしょうか。
例えば、グーグルの取り組みは、個人情報が丸見えになるという観点では、ときに非難にさらされます。しかし、グーグルが実現した情報検索技術により、社会が変革されたのは間違いない。グーグルが登場したことによるメリットとデメリットを比較すると、やはり、メリットの方が大きいように思います。だから、短期間にあれほどの時価総額を誇る企業体となったわけです。
また、グーグルは、自社の技術が悪用されないために、相当の投資をしています。冒頭で触れた、「特異点大学(Singularity University)」への出資も、その一環なのでしょう。AIによる 負の側面 を、いかに管理するか? 調子に乗って、MARVEL映画の悪徳企業にならないよう、相当な投資をすることでブレーキをかけ、リスクをヘッジしているのです。
翻って、日本企業はどうか? これは私見なのですが、日本企業というか、日本人全体に見られる特徴は、
リーダーとして責任を負う覚悟が欠けている!
ではないでしょうか? 日本企業だって、その気になれば、世界初のアイデアを出すことくらい、可能だと思います。しかし、リーダーになって、コストやリスクを背負いたくない。だから、先頭に出ないのです。モノマネがうまい のではなく、モノマネの方が楽 なのです。
次回、このテーマの最終回では、AIをいかに管理するか? 管理、というのはおこがましいな・・・、AIといかに共存するか? について検討することにいたしましょう。
(次回続く)
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ