Global Career Guide
(前回の続き) GW休みで、少し間が空きましたので、これまでの話をおさらいしておきましょう。
外資系企業は、中途採用が下手です(言い切る!)。 ビジネス上、“下手” というのは、「投資>リターン」 と表現できます。要は、投入したコストが、期待した戦力強化につながっていない、ということになります。
少し補足しておくと、日系・外資系問わず、中途採用というのは本当に難しい。各社とも、たまに出る “大当たり” の味が忘れられずに、やっている面が大きい。一種のギャンブルです。数学的な成功の期待値は、かなり低いのではないかと思います。
加えて、外資の場合は、“出戻り中途採用”(過去に退職した人材を、再度中途で採用し直すこと)を積極的に推進しています。これは、中途採用のギャンブル性を低減している反面、既職者のモチベーションを大幅に低下させています。一度退職した人間が、自分より高いランクで再雇用されていることも多く、不公平感ありありです。
だから、デキル既職者が、相当数辞めていく。つまり、入り口で優秀な人材を中途採用する一方で、底が抜けていて、既職の優秀な人材を失うという結果を招いているわけです。このことは、私が、「外資系企業は、日系企業に比べて、中途採用が下手だ!」と言っている理由の大きな部分を占めています。
アメリカ的発想で考えると、特定の企業に勤めるということは、ステップアップの一環にすぎません。この “ステップアップ” という概念が非常に重要で、転職のたびに、経験値・スキルが向上していることを前提にしています。よって、“出戻り中途採用” で、過去に退職した時点よりも高いランクで再雇用されることが論理的に成り立つのです。
あくまでも私の経験則から述べると、これは当を得ています。つまり、アメリカにおける “出戻り中途採用” は “ステップアップ” であり、実際に、「こいつ、しばらく見ないうちに伸びたなぁ・・・ 外で色々な経験を積んだんだろうなぁ・・・」 と納得する場合の方が多いと思います。
一方、これも私の経験則でしかありませんが、日本の “出戻り中途採用” は、「こいつ、(良くない意味で)全然変わってないなぁ・・・ おそらく他社でも冴えなかったんだろうなぁ・・・」という人が多い。ときには、以前勤めていたときに、大トラブルを出して、半ば解雇に近い形で会社を去った人間を、“出戻り中途採用” で再雇用している例も散見されます。これでは、既職者の志気が下がるのも無理からぬところでしょう。
一部の外資系企業では、退職者を “卒業生” として扱い、それを売りにしています。いわゆる、“alumni(アルムナイ)” という組織ですね(実は私の前職の会社にも、今の会社にもあるのですが・・・)。
誤解のないように言っておくと、私は “alumni” という組織やその活動を否定しているわけではありません。いーじゃないですか、同窓会! 同じ釜の飯を食った者同士、大いに盛り上がればいい。
しかし、ごく一部の “alumni” で、実力以上の権威付けをしているところがある。例えば、外資コンサルティング業界の場合、コンサル会社を卒業後、起業して大成功した人が少なからず存在します。彼ら/彼女らは優秀な人ばかりですし、血のにじむような努力もされたのだろうし、運も良かったのでしょう(運も実力のうち!)。評価に値する偉業を成し遂げたことに、相違ありません。
しかし! だからといって、そのコンサル会社の卒業生が全員、評価に値する人材かというと、それはかなり怪しいのではないでしょうか。ごく一部の成功者の虎の威を借りて、その他大勢の狐が “alumni” で幅を利かせている・・・ こりゃ、どう考えてもおかしい。
この “alumni” 幻想(イリュージョン) というのは、世の中に相当はびこっていて、私も含め、部外者がそれに加担している部分もある。例えば、某有名外資系コンサル出身の人が書いた本というだけで、つまり “alumni” だけを信じて、その著者が虎なのか、狐なのかを峻別せずに購入してしまう。
玉石混交とはよく言ったもので、「ホントに、“alumni” だけだな、こいつ・・・ しょうーもない本出しやがって・・・」 ということがよくあります。騙された私が悪いんですけどね・・・。 みなさんも、“alumni” イリュージョン には気をつけてくださいね!
話を戻しましょう。このシリーズの冒頭で、私は2つの論点を提示しました。
(A)何事も効率的で、ときに狡猾ですらある外資系企業が、どうしてこのような間抜けな状況に陥るのか?
(B)また、にもかかわらず、どうして外資系企業は、それなりの実績を上げ続けることができるのか?
(A) は解決済み(ホントか?!)として・・・、ここでは、(B) についてお話します。
ここで、みなさんに興味深い寓話を御紹介しましょう。
ある地方に住むネイティブ・アメリカンが 雨乞い をすると、必ず 雨が降る。なぜか?
なぜだかわかります? 答えは・・・
雨が降るまで、雨乞いを止めないから (たとえ、何年かかろうが、降るまで続ける)
一休さんばりのとんち問答ですが、これって結構、含蓄のある言葉なんですよ、これが・・・。外資の中途採用の場合、全体としては失敗している・・・ これは、かなり確からしい事実です。しかし、外資は失敗のままでは、決して止めない! 成功するまで、つまり、「中途で入ったAさん、すごいね!!」という人材を獲得するまで、止めないのです。
ごくまれに起こる 大穴 に賭けることで、その人が期待以上の成果を上げてくれることにより、それなりに格好がついているというわけ。
それともう1つ、“出戻り中途採用” に刺激されて、発奮する人が多いというのもあります。私など、この部類ですね。ロイヤリティ高く勤めてきた既職者の矜持というか、単に、負けず嫌いの人が多いというか・・・(外資には、日系の100倍ぐらい 負けず嫌いの人が揃っています・・・)。
現実問題として、ウカウカしていたら、自分のポストが奪われる可能性を常に秘めているわけで、中途採用に対する ボラティリティ(感応度) が高いんでしょうね。まさにこれこそが、外資の強みのように思います。
みなさんは、現在の仕事、職場、仲間に矜持を持っていますか? 中途の連中などに負けぬよう、彼ら/彼女らをいかに指導し、使うか、という視点で、既職者の意地を示しましょう! あ、喧嘩しろと言っているのではないので、誤解なきよう。緊張感を持って、仲良くやりましょうね。
では!
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ