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“リケジョ” と 外資系 (その2)

“リケジョ” が生まれる条件

前回の続き) STAP細胞を発見したチームのリーダーをつとめた小保方晴子さんのニュース以来、“リケジョ” が脚光を浴びています。ノーベル賞を2度も(!)受賞したキュリー夫人が “元祖リケジョ” だとして、優秀な女性科学者は過去にも存在したわけですが、近年では、イギリスのサッチャー元首相(オックスフォード大・化学者)やドイツのメルケル首相(ライプチヒ大・物理学者)など、国のトップとして辣腕を振るい、社会を変革していく “リケジョ” の事例もどんどん出始めています。今回のコラムでは、ビジネスにおける “リケジョ” のリーダーシップについてお話したいと思います。

何を隠そう、私の奥さんも私も完全なる 文型 です。ただ、私は数理経済学を専攻しましたので、数学に抵抗感はありません。奥さんの方も、コンピューターをバリバリ使う学際的な学部でしたので、理系との接点は大きい。彼女の友人の中には、ゲノム解析で有名な学者もいるぐらいです。なので、最近NHKでよく取り上げられる 数学モノ の番組はよく見ますし、NHKスペシャルの名作として知られる 「リーマン予想」 や 「ポアンカレ予想」 の特集については、DVDまで持っています。ま、科学マニアの夫婦だと思ってください。

しかし! 「数学や物理・化学に抵抗感がない」「科学が好き」 というのと、“リケジョ” =大学の研究者・企業の研究職としてやっていくレベルの人 とは全然違います。なんと言っても、“リケジョ” は “リケ(理系)” を職業にしているわけで、当たり前ですが、プロなんですよね。ソファに寝っ転がって、「へぇ、リーマン予想って面白いねぇ。素数って、深遠な世界だなぁ・・・」 と感心している 1科学ファン とは違うわけです。

さて、ではどうして、“リケジョ” が注目を浴びるのか? 1つには、純粋に数が少ないことが上げられるでしょう。日本の学校では、男=理系、女=文系という分類が、当たり前のように行われてきました。日本にこのような ステレオタイプ的発想 が生まれた理由は、色々と考えられます。まずは、「子供時代の嗜好の延長線説」。多くの男の子は、昆虫や宇宙、乗り物などに興味を持って、そのノリのまま学校に入るため、理系を選択する可能性が高い。一方、女の子は読書や人形ごっこ、お絵描きなどが遊びの主流になるので、文系を選択する可能性が高いということです。

事実、“リケジョ” の発生確率は、女子高出身者が圧倒的に多いようです。東大においても、大半の女性研究者は、桜蔭・女子学院などの超難関女子高の出身者がほとんどとのこと。

あと、前回のコラムにも書きましたが、「科学は “戦争” で発展する説」 というのもあります。最先端技術というのは、軍事の分野で起こります。開発現場も軍隊の一部ですから、女性の比率は圧倒的に低い。つまり、“リケジョ” を受け入れる受け皿になっていないのです。ま、最近は映画とか見ていても、女性のCIAエージェントや軍関係者も目立つようになってきました。“リケジョ” の活躍を阻害する要素は、どんどん減っていると思っていいかと思います。

“リケジョ” のリーダーシップ能力が高い理由

さて、ビジネスの現場における “リケジョ” はどうなのか?(私はメーカーの研究開発現場は知りません。ここでお話できるのは、コンサルティングやシステム開発の分野、また、外資系企業でのお話が中心となりますので、ご容赦ください)

外資系という観点でいうと、正直言って、“リケジョ” の絶対数は少ないと思います。外資系社員、特に女性の場合、“英語ペラペラ” という特性の人材が集まりがちで、“英語ペラペラ” と “理系バリバリ” の両立は難しいというのが実態だと思います。

しかし、そんな中でも、“リケジョ” はいます。そして、彼女たちはリーダーとして大活躍しています。なぜか? それは、仕事ができて、リーダーシップがあるから です。 「なんか、当たり前の回答だなぁ・・・」 そう、当たり前なんです。“リケジョ” は、当たり前のことをしっかりできる、だから、ビジネス現場でも活躍できるのです。

仕事そのものの処理能力が高いのは、理系としての計算能力が寄与していると思います。また、論理的思考力や意思決定における確率的要素などを、瞬時にサバけるのは、理系ならではの能力だと思います。

それに加え、私は “リケジョ” の リーダーシップの高さ に注目したい。なぜ、リケジョは高いリーダーシップ能力を有しているのか? それは、「チームワークで仕事を進めることに慣れているから」 だと思います。数学など、紙と鉛筆で済む学問は別として、大半の理系学問は、実験等、チームで物事を進めます。小保方さんのSTAP細胞しかり、ノーベル賞を受賞した山中教授のiPS細胞もしかり、強固なチームワークとリーダーシップがなければ、あのような大発見にはつながらなかったと思います。

このリーダーシップと、女性ならでは細やかさ および ときに冷徹とも言える割り切り がうまくシナジーしたとき、国家のトップにまで上り詰める “リケジョ” が誕生するのではないか、というのが私の意見というか、仮説です。

磨けば光る “リケジョ”

私の会社では、年に数回、宿泊形式の 「女性マネジメント・セミナー」 なるものを、クライアント企業に提供しています。クライアント企業における、次世代を担う女性に参加いただいて、セミナーやセッション、ディスカッションを行うというもので、弊社の女性役員も複数名が参加するため、非常に人気の高いコースとなっています。

数年前、私のクライアントである某地方銀行のWさんという方を、このセミナーに招待しました。Wさんと初めてであったとき、彼女は銀行の窓口で投資信託を販売する テラー をしていました。幼少時より、理系科目が得意だったらしく、東京の大学で栄養学を専攻し、学者になることを夢見たそうですが、家庭の事情か何かで、地元に戻って、銀行に就職したとおっしゃっていました。ま、いずれにせよ、バリバリの “リケジョ” です。

そんなWさん、わが社のセミナーに参加した後、役員への参加報告をされました(私も同席していました)。そのときに、Wさんが発した言葉を、今も忘れることができません。

Wさん 「○○役員、このたびは貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」
役員 「うんうん、で、どんな感想を持ったかね?」
Wさん 「はい、外資系企業や一部上場企業の優秀な女性に囲まれて、最初は気後れしていました。彼女たちは、プレゼンもうまいし、意見もはっきり言うし・・・。でも、あることに気付いたんです」
役員 「ん? あること?」
Wさん 「私は入社以来、銀行の店舗で、セールスと事務処理しかしてきませんでした。でも、仕事の処理能力は、絶対の自信があります。スピードも、正確さも、彼女たちには負けません」
頭取 「ふむふむ・・・」
Wさん 「そして・・・ プレゼンなどの能力についても、他の参加者にひけを取らないと思っています。ただ、“経験” がないだけなんです。どうか、私たちに “機会” をください。そうすれば、もっともっと活躍してみせます!」

Wさんは今、銀行の本店企画部門で次長をしています。一部では、将来の役員候補、いや、もしかしたら、上級役員職までいくんじゃないかという噂も出ています。

“リケジョ” をはじめ、社内には、磨けばピカピカ光る 原石 が埋もれています。それを発掘するのも、経営の最重要事項だと思います。あなたの横にいる、あの彼女が、実は未来の経営者かもしれません。では!

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。 出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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