Global Career Guide
「 Takashi, How do you want to be in 10 years? ( タカシ、あなたは 10 年後、どのようになっていたいの? )」
あれは忘れもしない10 年程前、私が外資系コンサル会社に転職して初めてのプロジェクトにおいて、 PM ( プロジェクト・マネージャー ) のエレンから言われた言葉です。その日、私とエレンは他のプロジェクト・メンバーと一緒に、 NY のとあるレストランにいました。これから始まろうとしているプロジェクトのキックオフ ( Kick Off ) 集会を、内輪のメンバーだけで実施していたのです。
メンバーの自己紹介が一通り終わったところで、エレンからみんなに質問がありました ( Ellen とのプロジェクトについては、『バースディ・サプライズ』、『事件後のメンタルケア ( NY テロ事件 2 ) 』、『外資系における「英語力」再考』等を参照 )。
Ellen 「 Takashi, How do you want be… at the end of project? ( タカシ、プロジェクトが終わった段階で、どのようなになっていたい ? ) 」
私 「そうだな、コンサルタントとして、プロジェクトの進め方について慣れておきたいし、英語ももっとうまくなっていたいかな … 」
Ellen 「OK! Then, in 3 years? 10 years? ( そう ! じゃ、 3 年後はどうなっていたい ? 10 年後は ? ) 」
3 年後の自分 ? 10 年後 ??! そんなこと、真剣に考えたことありませんでした。前職の銀行にいた頃なら、「今、総合職 2 級っていうランクだから、 3 年後なら 1 級か主任になっていたいよな ・・・ 」などと考えたかもしれません。外資系企業にも似たようなポストはありましたが、エレンが尋ねているのはそんなことではないようです。
私が答えに窮しているのを察したのか、エレンは違うメンバーに話を振ってくれました。
Ellen 「 David, How do you want be in 3 years? 」
David 「 そうだな … この会社にいるかどうかはわからないけど、 million-dollar project ( 100万ドル = 一億円規模のプロジェクト ) の PM を最低 1 件経験して、業界に名前が知られているレベルになりたいと思っている。 10 年後には、ズバリ自分の会社を IPO ( 株式公開 ) して、南の島でのんびりしていたいね ! 」
… ふーーん、そういうことを答えるんだ … って、それはいいけど、オレって 3 年後、 10 年後に、一体何してるんだろ ?
NY のレストランで、エレンに 10 年後の自分を聞かれてから、もう少しで本当に 10 年の歳月が過ぎ去ろうとしています。この 10 年の間に、私は PM として数億円規模のプロジェクトを数件回しました。転職もして、年収もそこそこ UP しました。 David が言ったように、「業界に名前が知られているレベルになりたい … 」と思っていたのも確かです。結果として、このコラムの集大成として、『外資流!「タカシの外資系物語」』 ( あさ出版 ) を含め、数冊の著作を世に出すこともできたので、業界でもそれなりに名が知れる存在になったように思います。でも、それって「成り行き」でそうなっただけのことで、私が 10 年前に目標として描いたもんではないんですよね、これが …
エレンが私から引き出したかった内容は、「 10 年の長期スパンで自分のキャリアを考えること」、そして「直近の仕事が、そのキャリア形成上どのように位置づけられるか、念頭に置くこと」だったように思います。
このようなものの考え方は、外資系企業ではごく普通の見方です。私もこの 10 年間、様々な同僚とキャリアプランについて話をしてきましたが、「 10 年後」の話をしたときに、「今の会社でどうこうなりたい」という回答をした人はほとんどいませんでした。もちろん、「 3 年後」のレベルでは、「この会社において、○○関連のプロジェクトにつきたい」とか、「この会社において、△△のスキルを身に付けたい」なんていう回答があったとしても、それらは「 10 年後」をベースに必要なものを「逆引き」で考えているにすぎません。例えば、「 10 年後に IT 企業の CFO になりたいので、ここ 3 年の間に、 IT 企業の経営全般と会計分野の経験を積みたい … 」という感じ。あくまでも、「 10 年」という大きな流れ ( 大目標 ) の中で、現在・ 3 年後・ 5 年後 … といった目標が立てられているのです。
このことは、先に述べた通り、伝統的な日系企業に勤める社員とは、かなり異なります。日系社員の多くは、「自分自身の 10 年後」≒「今の会社における 10 年後の自分のポスト」 と考えていますから、そこに至るプロセスについては、あまり重視していないように思います。「 10 年後 ? 課長になっていればラッキーだよね ! 」てな、感じ。課長になるために、 3 年後どうしていたいか、 5 年後どうあるべきか、については、ハッキリ言ってどうでもいいというわけです。
さてさて、先日のこと。わが社の違う部門にいるミチコさんから、突然私のところに連絡がありました。
ミチコさん 「タカシさん、ちょっと相談があるのですが … 」
私 「何でっしゃろ ? 」
ミチコさん 「私、コンサルタントにチャレンジしてみたいんですけど … どうでしょう ? 」
現在ミチコさんは、システム開発 (=SE) の仕事をしているのですが、 IT コンサルタントへのステップアップを考えているとのこと ( 一般に、コンサルは上流工程、開発は下流工程という言い方で切り分けています。詳しくは、『 SE とコンサル』参照 )ミチコさんの上司 ( ちなみに、外国人 ) と私が知り合いということもあり、その上司から紹介があったようです。
最近わが社では、本人の適正とやる気次第で、コンサルタントへの配置転換を行っています。もちろん、コンサルとしては一から始めることになりますから、かなりの覚悟と決意が必要なことは言うまでもありません。ただ、実績から見ると、他部門から自発的にコンサルへのキャリア転換した人の方が、コンサルプロパーの人より優秀で、より成果を上げているような気がします。
私 「 … ふーむ。じゃ、一度お話しましょうか ? 」
ミチコさん 「そうですか ? ありがとうございます ! 」
私 「じゃ、そのときまでに考えてきてほしいことがあるんだけど … いいですか ? 」
ミチコさん 「何でしょう ? 」
私 「あなたは 10 年後、どのようになっていたいですか ? 」
数日後、ミチコさんとの面談にて。
ミチコさん 「タカシさんからの質問について、あれからいろいろ考えたんですけど … 」
私 「ふむふむ … 」
ミチコさん 「私、マネジメントに興味があるんです。できれば、将来的には会社の経営に携わりたいし … そのためには、コンサルタントとしての経験が必要だと思っています」
私 「なるほど … 」
ミチコさん 「あと、私がいる SE 部門よりも、タカシさんがいるコンサル部門の方が、早い段階でマネジメントの勉強ができるし … 」
確かに、コンサル部門の方が SE 部門よりも 4 ~ 5 才程度、若くしてマネージャーに就任しています。
ミチコさん 「タカシさんでもマネージャーが務まっているし … 」
私 「そうそう、オレ程度のへなちょこのヘタレでもマネージャーができるしね … おいおい ! ( いわゆる、ノリ突っ込み ) 」
ミチコさん 「 … というのは冗談ですけど ( 笑 )。 10 年後の目標実現のために、コンサル部門のキャリアを積みたいと考えています」
… うーーむ … え ? 何を考えているんだって ? いやいや、 10 年前の私に比べて、非常にしっかりしたキャリアプランを持っているんだなって、感心してるんですよ ! 「最近の若いヤツは … 」なんて言っている一方で、こういう若者も現に存在するわけで … これは私も、ウカウカしていられません。
ミチコさん 「ところで、タカシさんは 10 年後、どうなっていたいんですか ? 」
ギ、ギクッ ! そう来やがったか … 来ると思ってはいたが …
「そうだね、僕はみんなの見本、ロールモデルになっていたいと思うんだ。この会社にいるかどうかはわからないけど、若手のコンサルタントから 『タカシさんのようになりたい ! タカシさんの下で働きたい ! 』 と思われるようになっていたい … 」
い、イマイチ ! 全然具体的じゃないんですけど … (T-T) ま、 10 年前よりは進歩しているということで、今日のところは良しとしましょうかね ! では最後に、みなさんにも。
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ