Global Career Guide
(前回の続き)グローバル金融機関の日本支社CIOとして、某ヘッドハンティング会社の本社(ホンコン)からオファーを受けたタカシ。「大企業のCIO」「本社から直接のオファー」 という初めての経験(これまでにも、日本人エージェントから、今回より少し低いポストのオファーは何度かあったんですけどね・・・)に、相当浮かれていました。あ、エライコッチャ、エライコッチャ! 一方、きれいな薔薇にはトゲがある、おいしい話にゃウラがある・・・ というのは世の常でして、私は独自のネットワークを活用して、“裏付け捜査” を始めたました。 と、 “ある信頼できる筋” から、「ちょっと、待った!」 の声がかかったのです・・・
「メールや電話では言いにくい。ちょっと会わないか?」
友人Aから連絡が入ったのは、ヘッドハンティング会社CEOのDianaとの面談を明日に控えた夕刻のことでした。
私 「お、オッケー・・・、じゃ、早朝で申し訳ないんだけど、明日の朝8時にXXホテルのラウンジで会おうか?」
翌朝8時、Aが勤める企業のそばにあるXXホテルに行くと、すでにAがテーブルに腰掛けて、難しい顔をしながら、タブレットとにらめっこしていました。
私「久しぶりだね・・・、今日はわざわざ、申し訳ない・・・」
Aが勤務する企業とは、あるグローバル金融機関・・・、そう、今回私がCIOのオファーを受けている、まさにその会社なのでした! 私が “ある信頼できる筋” と言ったのは、Aがその企業に勤める当事者であり、今回のオファーの是非をはかる最重要キーマンに他ならなかったから、なのです。
「ふーーん、そういう状況なんだ・・・」
Aが教えてくれた、その企業の状況は、思っていた以上にネガティブなものでした。
【Aからの “アドバイス” ≒ “密告” まとめ】
(1) 現在、日本法人の社長であるアメリカ人(43歳! ワシより若い! ありがち!!)は、自身の出世しか頭になく、イエスマンのみを取り巻きとして配置している。彼の意向に沿わない役員は、早晩クビにされるか、自分から会社を去っている
(2) 全ての役員は、社長の独裁ぶりに戦々恐々と日々を過ごしており、社員の士気が めっちゃ 低い
(3) 社長のスタンドプレイは、米国本社からも問題視されている。が、それなりに業績が上がっているため、人を入れ替える予定はない
もちろん、Aの言っていることを100%信用しているわけではありません。上記の内容は全て、極めて主観的、かつ、定性的な内容、つまり、「Aはそう感じるが、私はどう感じるかわからない」 内容なのです。
加えて、もし今回の話が成就して、私がCIOとして転職した場合、Aは私の部下になってしまいます。Aにしてみれば、それは相当おもしろくない。よって、妨害したくなる気持ちもわかる。
しかし一方で、「火のないところに煙は立たない」わけで、Aの言い分もあながち嘘ではない状況にあることは確かなのでしょう。また、その原因がいただけない。評価システムや残業が多い等、会社の仕組みが原因となって社員の士気が下がっているのなら、
「よっしゃ、俺が何とかしてやろう!」 という “コンサル魂”
に火がつくのですが、今回の場合は、社長のパーソナリティに問題がある。それによって、会社の業績がガタガタになっているなら社長交代の可能性もあるでしょうが、業績がそこそこにいいわけで、これではどうしようもない。
こういうパターン、つまり
「社長最悪で、社内の士気ダダ下がりだけど、業績はそれなりにいい」
という状況、外資では結構多いのです。中長期的に見れば、社員の士気が上がらないのに、高い業績が維持できるわけはないので、早晩どこかが破綻する可能性が高いわけですが、それはそれとして、短期的に業績が上がっているのだから、外資的には OK なのです。
もっと言うと、現場の社員全員の士気が低いのなら、短期的な業績も悪いはずです。よって、この社長のパーソナリティは、万人がNGというわけではなく、合う人と合わない人がハッキリしているタイプなのだろうと推察できます。
「ありがと、また連絡するよ! え? このままプロセスを進めるかどうかって? うーーん、ちょっと考えてみる・・・ じゃ・・・」
と言いつつ、Aと別れた私の心は、既に決まっていました。それは、
断る!
です
「うそーーん?!」 と思われた方も多いと思います。あの浮かれようは、何やってん・・・と。ま、Aのアドバイスが大きかったのは確かです。しかし、Aのアドバイスだけに従ったわけではない。
こういうのは ノリ の部分が大きいのです。“縁起かつぎ” と言ってもいいかもしれません。可能な限りの判断材料を集めて、可能な限りロジカルに考えて、でも、最後は 自分の勘 を信じる! ケインズが言うところの “animal spirit” というやつです。
そうと決まれば、こういう話は急いだほうがいい。この期に及んでDianaと面談してしまっては、そのまま ズルズル と話が進んでしまう可能性があります。ということで、私は例のごとく、Adaさんに、Dianaとの面談をキャンセルする旨、チャットを入れました。
私 「Hi, Ada-san」
Ada 「Hi」
私 「I would like to cancel the meeting with Diana. I ask to be excused from this offer・・・」
ちょうどお昼時だったもんで、私の急な心変わりに、Adaがランチを喉に詰まらせて卒倒でもされたら困るな・・・と思っていたら・・・、速攻で以下の返事が返ってきました。
Ada 「Could you talk now ?」
・・・というチャットと同時に、Adaさんから電話がかかってきたのです。
(次回続く、ちなみに次回で終わる予定)
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ