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「アンガー・マネジメント」 は使えるか ? ( その 1 )

相手が怒ったプレゼンは成功 ?

「こんな報告書では困るっ !  一体、いくら払ってると思ってんだっっ ! ! 」

ただ今、クライアント役員への報告プレゼン中。すんごい、怒られています・・・

「顔を洗って、出直してこいっっっ ! ! !  どりゃーーーーーーっっっっ(怒)! ! ! ! 」
やれやれ、困ったもんだ・・・

「タカシさん、ど、どうします ?  あの役員、ブチ切れ状態になっちゃいましたね・・・(T-T)」
役員室を出るやいなや、スタッフの K くんが心配そうに駆け寄ってきました。

私 「そうだね。出直せって言うんだから、出直すしかないね」
K くん 「は ?  出直すしかないね、って・・・ 役員をあれだけ怒らせたんだから、超ヤバイじゃないっすか ! 出直すも何も、もうチャンスをもらえないかもしれないし・・・(T-T)」
私 「そうでもないと思うよ。プレゼンは、結構いい線いってたと思うし・・・」
K くん 「へ ? 」
さて、私は何を根拠に、プレゼンはそれなりに良かったはずだと考えているのでしょうか ?

コンサルタントを長くやっていると、上記のようなシチュエーションは、それなりに経験します。実際には、「いやぁ、よくできたレポートだ。本当にありがとう ! 」なんていうコメントよりは、上記のように怒られることの方が、むしろ多いかもしれません。

なぜか ? それは、人間というのは、自分が触れられたくない核心部分を突かれると、怒る傾向にあるからです。

つまり、相手が怒る報告をしたということは、相手にとって触れられたくない部分、指摘されるのが嫌な部分をエグッたわけですから、コンサルティングとしては、それなりの成果があったということ。言い方・伝え方に多少の問題があったかもしれませんので、その点を工夫すればいいだけ。次回のプレゼンではおそらく、「なんだ、そういうことだったのか・・・」てな感じで、役員も折れると思います。そもそも、無意味にブチ切れたことについて、役員さん本人も反省しているでしょうから。

もちろん、報告内容があまりにも poor で怒られることもありえます。しかしその場合は、上記のようにブチ切れることはまれでして、「怒る」というよりは、どちらかというと「呆れる」という感じの対応が多いように思います。「勘弁してよ、タカシさん・・・ もうちょっと、何とかならないの ? 」てな感じ。ま、いずれにしても、怒ったり、呆れられたりしないのがベストなんですけどね・・・

人が怒る理由

そもそも、人はなぜ怒るのでしょうか ? 私なりに以下のような分類で考えています。

【人が怒る理由】
(1) 触れられたくない核心部分(弱みや改善すべき点)を指摘された場合
(2) 単にイライラしている場合
(3) 「怒る」という行為が好きである場合
(4) 本当に怒るべき状況にある場合

(1)については冒頭で述べた通り。問題は、(2)ですね。これは対処が難しい。なぜなら、理由がないからです。「今日の課長は、虫のいどころが悪いなぁ・・・」なんてこと、よくあるんじゃないでしょうか。こんな日は何を言っても怒られますから、極力避けたほうがいい、となります。
しかし、中には、常に( 24 時間 365 日 ! )怒っている人もいます。こちらがどれだけ譲歩しようが、怒りっぱなし。周りを威圧するオーラを放ちながら生きているような人です。

(3)は、昔よくいた頑固親父みたいな人のことを指しています。何かあると、「コラーーッ ! 」とか言って追いかけてくるおじさん、近所に一人はいましたよね、こういう人・・・

留意すべきは、(2)と(3)は似ているようでいて、怒る動機・理由が全く異なります。(2)は、単にイライラしているから怒っているのであって、動機・理由は特にありません。(3)は、好きだから怒っているわけで、趣味・嗜好の類です。仕事中は恐いけど、飲みに行くと優しくなる部長などは、(3)の部類といえます。

(2)と(3)のどちらが対処しやすいかというと、それは(3)でしょう。「あの人は怒るのが趣味なんだから・・・」と割り切ってしまえばいい。普段からそういう人なんだ、と思えばいいのです。しかし(2)の場合は、怒っている本人自身が、感情をコントロールできていない可能性が高い分だけ、対処が難しいと思います。もしかしたら、本人も苦しんでいるのかもしれない。最近では、(2)を理由(=夫が意味もなく、常に怒っている)に離婚するカップルも多いとのこと。深刻な問題です。

(4)は、スタインベックの小説 『怒りの葡萄』( The Grapes of Wrath )でいうところの “怒り” です。この小説では、大恐慌下において、土地を奪われ、仕事も誇りも失った農民について書かれています。つまり、貧困・差別・戦争などといった社会的矛盾に対しての怒り、これは人間が本来持つべき感情だと思いますし、その感情をバネに、成長がはかれるという意味では人間にとって必須なのかもしれません。

外資系マネージャーは怒らない ?

一般に、外資系企業のマネージャー層は、あまり怒りません。いや、心の中では怒っているのかもしれませんが、怒りの感情を表に出さないようにしています。どうして、そんなことができるのか ?  それは、怒りをコントロールする「アンガー・マネジメント」( Anger Management )という教育を受けているからです。

1 つ断っておきますが、外国人のマネージャーでも、怒る人はかなりいます。実は私、外国人(特にアメリカ人)の上司が怒るとき、ある単語を特徴的に使うことに気付きました。

アメリカ人上司 「なんだ、この報告書は !  すぐに書き直せ ! 」
私 「は、はぁ・・・」
アメリカ人上司 「Do it, Now ! 」
私 「・・・と言われても、すぐには難しいので・・・」
アメリカ人上司 「NooooooooooooooooooW (ニャーーーーーーーーーーーーーーウ) ! 」

その単語とは、「Now」です。私が接してきたアメリカ人上司の多くは、怒る際に「Now ! 」を多用します。怒り度合いが大きいほど、発音も大きく、語尾も猫並みに伸びます。ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!

外資系企業が自社のマネージャーに「アンガー・マネジメント」を受講させる最大の理由は、「怒りによって、仕事の効率性が落ちることを避けるため」です。確かに、怒っている(怒られている)時間って、バカになりませんよね。

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次回のコラムでは、実際に私が習った「アンガー・マネジメント」の方法と、その効果について述べてみたいと思います。

(次回続く)

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。 出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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