Global Career Guide
(前回の続き) イギリスで仕事をしていた際、クライアントのマネージャーである、ケンブリッジ卒の才媛 Pam が、自身は手ぶらにもかかわらず、大荷物を抱えた私に会議室のドアを開けさせた “事件”。
どうにも納得がいかなかった私は、Pamに対してクレーム気味に、その行為の意図を問い質してみることにしました。
「タカシ、ここは英国なのよ! 紳士が淑女のために尽くすのは当然じゃない!!」
という回答を予想していた私に、Pamは意外なことを話し始めました・・・
私 「Pam、どうしてさっき、ドアを開けてくれなかったんだい?」
PamはTea Tableで紅茶を2つ入れ、1つを私に差し出しながら言いました。
Pam 「そうね、あれは失礼な態度よね・・・。イギリス人の私もそう思うわ・・・ でもね、あれは タカシ のためにやったのよ!」
(なぬ?! ワシのため・・・ とな?!!)
Pam 「保守的な高齢者は別として、あんな行為が非合理で、バカげていることくらい、イギリス人はみんなわかっている。私だって、ドアを開ける・開けない以前に、あなたが抱えていた荷物を持ってあげたいと思っていたんだから・・・。 クレバーなタカシのことだから、変な誤解はしてないだろうけど・・・」
(へーー、そうなんだ・・・ 思いっきり、誤解しとったわい!)
Pam 「イギリスは、自らの意思で、変化を止めた国。だから、伝統にしがみつくしかないのよ。それが、時代遅れで、バカバカしくて、非合理なことだとしても・・・。
だから、女性に荷物を持たせる男はダメだし、女性のためにドアを開けない男もダメ・・・ これだけの組織(Pamが所属している組織=私のクライアント=日系メガバンクのロンドン支店)だから、どこでだれが見ているかわからないでしょ?
そんな人に、日本から来た タカシ ってのは、礼儀知らずで、マナーがなっていない!・・・って、陰口を言わせたくないのよ。タカシは、私の大切な guest なんですもの・・・。 それが真相ってわけ。ゴメンね!」
Pamは舌を出して、おどけていました。ケンブリッジ卒の才媛が初めて見せた、人間味溢れる行動。どこの国でも、まともな感性を持った人って、苦労が絶えないもんですね、ホントに・・・
あれから10年以上の年月が流れました。女性活躍推進をはじめとするダイバーシティの理念が、日本でも、やっと普通のこととして取り上げられるようになってきました。
実は、今になって思うと、Pamが、“時代遅れで、バカバカしくて、非合理な・・・” と言っていた英国式マナーが、なんだか妙に腹落ちするような気がするのです。
荷物を持つ、ドアを開ける・・・、およそ “力仕事” に分類できることは、体力で勝る男性がやった方がいいのです。一方、Pamは例の一件以降も、一貫してエリートのお嬢様風情は変わりませんでしたが、私を含め、メンバーのために、ミーティング後には必ず お茶(イギリスなんで、紅茶です)を淹れてくれました。
こういう “おもてなし系” は、やはり女性にやってもらった方が、間違いなく様になる。 古臭い “伝統” とやらも、あながち捨てたもんじゃない。そこには、合理性、実用性、そして見栄えというか、情緒性も兼ね備えた “役割分担” がきちんと考慮されているのです。
「女性は、お茶だし をしていればいい。仕事に口を出すな!」 となるからおかしいわけで、「女性に お茶だし をお願いした方が、様になって、ホッとするなぁ・・・」 と言うべきだし、私は本当にそう思います。
逆に、さえない男性に対して、「あなたは 力仕事 しか能がないんだから、さっさと荷物運んで!」 と、はっきりとは言わないまでも、明らかにそういう態度を示している女性が、私の経験則では何名もいたように思います。
これも、「私は小物を運ぶから、こっちの大物をお願いしていいかな?」 と言えば済む話。 ほんの少しの 思いやり で、職場における異性間のコミュニケーションは円滑になるのです。
このコラムのタイトルにもなっている 「日本版 “女性活躍推進” が イケてない理由」 とは、本来、男女がジェンダー(性差)として持っている強み・弱み と 社会における女性の評価 をごちゃ混ぜにしていること、そして、全てを同時に解決しようとしていることにあるのではないかと思います。
まずはジェンダーに関して、男女相互が理解することが先決です。そして、相互に尊重しあう。日本の場合は、歴史的に、男性のジェンダーのみが尊重され、女性のそれは軽視されてきた。一方、欧米では、マナーとして、それを禁じた。だから、ダイバーシティの土台・基礎がしっかりしている。
そもそも、スタート地点が違うのです。
上記の背景があるため、日本における女性活躍推進は、容易には実現しません。いくら安倍首相が声高に叫んだところで、一朝一夕には変わらないのです。
加えて、ルールや規制で強制するものでもない。欧米が、数百年かけて築き上げてきた マナー が、ルールの強制で即座に代替できるわけなどないのです。
重要なのは、“教育” です。これは、大人も対象にしています。男女それぞれの強み・弱みは何か? どのように役割分担すれば、よりよい社会となるか? あまりにも男系に歪んだビジネス社会に、いかにして女性を招き入れ、活躍してもらうか? 教育を通して、そのロードマップを描く能力を身につけるのです。 政府はあくまでも、それを後押しする役割に徹するべきでしょう。
これは、女性だけでなく、外国人、ハンディキャップのある方、性的マイノリティの方、全ての多様性を受け入れていくために必須のアクションです。繰り返します。ダイバーシティは強制的なルールや規制ではない! それは、男女雇用機会均等法がさしたる効果を上げていないことで証明されています。
ダイバーシティは “文化” です。日本という国の文化と親和性のあるダイバーシティを作るには、相応に時間がかかります。政府や企業は短期の成果を求めがちですが、焦ってはいけない。教育をベースに、時間をかけて、1つ1つ解決していく。それが一番の近道のように思います。
このシリーズは今回で終わります。が、定期的に私が感じた 変化 をレポートしていきたいと思います。みなさんも、焦らずに、ゆっくりと、変化を起こしていってください。では!
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ