Global Career Guide
ある週末のこと、私は家族と連れ立って、近所の インドカレー屋さん で食事をとっていました。“カレー”・・・ インド料理の代名詞でありながら、日本の家庭料理としてもメジャーの地位を獲得した、われらの国民食。我が家でも家族全員が、インドカレー 日本カレー 双方の大ファンなのであります!
「えーーっと、この、“3種のカレーセット” を1つ。カレーは、シーフード と キーマ、あと、バターチキンにしようかな・・・」 「ガーリック・ナン と サフランライス」 「タンドリーチキン3つに・・・」 「サラダ、サラダ・・・」 「マンゴーラッシー!」 「とりあえずビールと、食後にチャイを2つ・・・」
テーブルの上に乗り切らないほどのオーダーをして、汗をかきかき、カレーをほおばる奈良タカシ一家。いやぁ、至福のひとときですな・・・
「ふーーっ! おいしかったぁ・・・ 満足、満足・・・ お勘定するから、先に出ててねー!」
「お勘定は・・・」 と言いかけたところ、レジにいたインド人と思しき店員さん、テーブルの上のお皿を見て瞬時に、
「4,050円です」
計算はやっ! さすが、2桁の九九を言えるだけのことはあるっ!! すごい!!!
ここ数年、ビジネスの世界において、インド人が目覚しい活躍を見せています。インド人については、計算が速くて、数学が得意で、論理的。だから、ビジネスの世界でも活躍できる・・・ という典型的な説明がなされますが、本当にそうでしょうか? 計算が速くて、数学がわりと得意というなら、かく言う私もそうですが、目覚しい業績上げてないし!(自虐的・・・) そもそも、論理的ならばビジネスで成功する、というのは、あまりにも単純化した論法のように思えるし・・・
ということで、今回のコラムでは、私の経験則と調査をベースに、「インド人がビジネスで成功する理由」 について考察してみたいと思います。
今年の7月、グーグルはインド人の サンダー・ピチャイ氏(Mr. Sunder Pichai)を新CEOに指名しました。 あのグーグルのTOPにインド人が! ということで、インド本国ではお祭り騒ぎで大いに盛り上がったそうです。
実はグーグルのサンダー氏だけでなく、世界的な大企業において、インド人のTOPが次々に誕生しているのです!(以下参照)
・ マイクロソフトCEO - サティア・ナデラ氏
・ ノキアCEO - ラジーブ・スリ氏
・ ペプシCEO - インドラ・ヌーイ氏
・ マッキンゼー元代表 - ラジャト・グプタ氏
・ ドイツ銀行共同CEO - アンシュ・ジェイン氏
・ ソフトバンク次期CEO(孫さんの次) - ニケシュ・アローラ氏
なぜ、インド人がビジネス社会を席捲しているのか? 前述の通り、ステレオタイプ的な回答としては・・・
「インド人は、0(ゼロ)を発見し、2桁の九九ができる国民である。つまり、数学が得意で、論理的な国民である。よって、ビジネス社会でも成功する」
というのがあります。しかし、この論法はツッコミどころが満載の、相当 まゆつば であることは、読者のみなさんも、薄々おわかりでしょう。
まず、「0(ゼロ)の発見」 ですが、ま、確かにすごいことはすごい。それは認める。しかし、「0(ゼロ)」以外にも、「∞(無限)」 や 「虚数(i)」 を発見した人だって、相当すごいはず。そして、これら全てをインド人が発見したわけではないでしょう。それを言うなら、ユークリッドやガウスもすごいし、最近なら、ポアンカレ予想を解いたとされる、ロシアのグレゴリー・ペレルマンも、めっちゃすごい! この命題を予想した、アンリ・ポアンカレ(フランス人)も、負けずにすごい!!
そもそも、「0(ゼロ)の発見」という大昔の一事象だけを取り上げて、インド人が数学が得意で論理的でああること、また、他の民族よりもその度合いが抜きん出ていることを 証明 することにはなりません。言ってみれば、インド人は比較的、数学が得意な国民で、ゆえに論理的に考える人も多い傾向にあるため、ビジネス社会で成功する上で、若干の有利な条件を有しているかもしれない・・・ ぐらいのもんでしょう。
次に、「2桁の九九」について、私が行った独自の調査結果をお話しましょう。私は、同僚・部下・知り合いの インド人 に対して、
「あなたは 2桁の九九 ができるか?」
という質問をしました(ヒマか、わしは・・・)。有効回答数6人(って、ちょっと統計的に有意とはいえないが・・・)の結果は、以下の通りでした。
① 2桁の九九(1×1 から 19×19 まで)を言える - 1名
② 2桁の九九をかつては言えたが、今は忘れた - 1名
③ 2桁の九九全てはやっていないが、14の段までは、かつて言えた - 1名
④ 全く言えない or 九九って何? - 3名
誤解がないように言っておくと、①~③の3名は、インドで育ち、インドの大学を出ています。一方、④の3名は、主に欧米で教育を受け、アメリカの大学を出ています。つまり、事実として、インドでは 2桁の九九 は、学生の多くが経験していることがわかります。
注目すべきは、③の 「14の段までは、かつて言えた」 でしょう。なんやねん、その中途半端さは・・・ この同僚Aは、UCLAのMBAホルダーなんですよ。にもかかわらず、この 体たらく はなんだ! ということで、同僚Aに ツッコミ を入れたところ、意外な反論がありました。
インド人同僚A 「2桁の九九は、学校の正式なカリキュラムじゃないんだ。なんていうか・・・、“遊び” の一種、覚えたやつが偉いっていうか、自慢するためのネタだね。俺は他の勉強で忙しかったんで、全部やらなかっただけだよ・・・」
・・・ま、実際のところ、事実というのは、こんなもんなんですよね。
ということで、
インド人は計算・数学が得意 → 論理的である → ビジネス社会で成功する
というのは、かなり弱っちい論法であることがわかります。よって、別の理由を探しましょうかね・・・ と思案していたところ、インド人同僚Aから、メールが来ました。
インド人同僚A 「確かに、インド人は数学が得意だから、ビジネス社会でも成功する・・・ というのは乱暴な話だね・・・ でも、インド人 と 数学 のつながりを理解したいなら、2桁の九九なんてどうでもいいから、インドで一番有名な数学者のことは調べたほうがいいよ。その人の名は、シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(Srinivasa Ramanujan)・・・」
次回のコラムでは、インド人数学者:ラマヌジャンの逸話から、インド人の特性を探ってみることにいたしましょう。
(次回続く)
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ