Global Career Guide
「突然ですが、当社名を変更いたします。週明けより新社名で業務遂行のこと。」
東京オフィスの Administration ( 総務部 ) からのメール。いつものように、内容を確認せずに「削除済ファイル」に捨てようとしていた私はびっくり !
「こりゃ大変なことになったわい ……」
などと口では言っていますが、実はそんなに大変なことだとは思っていなかったりします。というのも、外資系企業における社名変更は、日常茶飯事とは言わないまでも、それなりに頻繁に起こることだからです。
「さて、今回はどんな名前になったのかね …… ん、こりゃホントに大変なことになったかも ! 」
今回の社名変更は、従来のものとは異なり、かなりドラスティックなものでした。従来は、「ABC コンサルティング」が「コンサルティング・ファーム ABC」になるぐらいの、単に順序変更ぐらいのマイナーチェンジにすぎませんでした。しかし、今回の社名変更では、長年慣れ親しんできた「社名」があっさりとなくなっているではありませんか !
「こりゃ、うちの社長も思い切ったもんだ ……」
社名を言うと私の会社がバレてしまいますので、ここでは内緒にしておきますが、かなり斬新な名前に変わったのです !
「領収書を切ってもらうときの説明が大変だなぁ ……」( これが私の第一印象です。社長、ごめんなさい。)
週明けから、社員のメールボックスには新社名対応に関する説明のメールであふれかえりました。というのも、日系企業と異なり、外資系企業というのは社員全員を集めて説明するような機能や場所を持っていません。そもそもどこにだれがいるのか、ボスでさえも把握していないケースも多いのですから、連絡はメールに頼らざるをえないのです。
社名変更というのは、それなりに ( と言うと怒られそうですが ) 経営幹部の思い入れがあるのでしょうから、各人が勝手な解釈で外部と話をされては困ります。本部の方できっちりとした「Q&A」を作り、社員全員が同じ回答をするようにしておかねばなりません。今回の Q&A は社名が大きく変更されたこともあり、読み応えたっぷり ( ? ) の内容でした。
(Q1) 今回の新社名を決めたのは誰ですか ?
(A1) グローバル社員 15,000 人全員で決めました。だれか一人の判断というわけではありません。
→ これはなかなかいいですね。いわゆる優等生的な回答。しかし、私は昨日まで全く知りませんでしたがね。ま、いっか……
(Q2) 今回の社名の由来は何ですか ?
(A2) この名前は 1994 年に弊社が買収したある会社の名前に由来します。この名前を利用した理由は、お客様に馴染みのない新しい名前を購入するために何千万円もつぎ込みプロモーションを行っていくよりも、今ある資産に付加価値をつけ強化していくことができるからです。
→ おおぉぉぉぉっ ! これはシブイ回答ですな。全く新規の名前をつけるとメール・アドレスを取得するだけで数億円かかったりするそうですから、まさに外資系らしい合理的な決断です。これには拍手 !
(Q3) 同業他社の社名について意見はありませんか ?
(A3) 私たちが社名を変更する目的は、派手な名称を選択して一過性のセンセーションを巻き起こすことではありません。長く続くブランドを形成することが目的なのです。
→ シ、シブイ …… 総務部長、よく考えたなぁ …… 涙、涙 ……(T-T)
実際には、一般社員がここに挙げたような質問を受けることはほとんどないのですが、今回のいきさつや経営の考え方が非常によくわかる Q&A でした。満足、満足、っと。
「社名は変わっても仕事は一緒だ、さぁ、頑張るぞー ! あ、そうそう、午後の A 商事さん向けのプレゼン資料、カラーで 20 部印刷できてるっけ ?」
「そ、それが ……」
「どうしたの ? 」
「それが、タカシさん …… 大変なことに …… ロゴやら何やら、旧社名のまま印刷してしまいました ……」
がーーーーーーーーーーーーーーーーーーん !
あ、あと 40 分しかない ……
「す、すぐ修正して ! キンコーズに持ち込んで製本だぁー ! いそげぇー ! 」
…… 社名変更って大変ですね …… トホホ ……
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ