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連載500回記念コラム「この10年で変わったもの、変わらないもの」

お蔭様でこのコラムも連載500回を迎えました。読者の皆さんの長きに渡る応援に心から感謝します。本日は、外資への転職という視点でこの10年で変わったこと、そして変わらないことを振り返ってみます。

変わったもの

1. 転職がより身近に

かつては「終身雇用」が一般的だった日本ですが、転職市場は大きく変化しました。厚生労働省のデータによると、2023年の転職者数は約370万人と10年前の2013年(約280万人)と比べ30%以上増加しています。特に、外資系企業への転職が増え、英語を活かしたキャリアアップを目指す人も多くなりました。

ただし、転職市場が活発になったからといって、頻繁に転職すれば良いわけではありません。企業の平均在籍年数が短くなっているものの、20代・30代で転職を繰り返すと、40代以降のキャリアに影響を及ぼす可能性があります。転職を考える際は、なぜ転職する必要があるのかを明確にすることが重要です。

2. 副業が一般化

かつては「副業禁止」が一般的でしたが、政府の「働き方改革」もあり、現在は多くの企業が副業を認めるようになりました。2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」を改定し、副業を推奨したことも大きな要因です。リクルートの調査によると、副業をしている人の割合は2019年の10%程度から2023年には約20%に倍増しています。

副業のメリットは、本業以外のスキルを試せること。例えば、ライティングやデザイン、プログラミングなど、趣味からスタートして収益化できるケースも増えています。「いきなり独立は不安」という人にとって、副業はリスクを抑えながらキャリアの選択肢を広げる手段になっています。

3. 採用活動の変化 – 履歴書は「斜め読み」される

インターネットの発展により、海外企業へ英文履歴書(レジュメ)を送るハードルが格段に下がりました。今ではワンクリックで世界中の企業に応募できます。その結果、企業の採用担当者のもとには大量の履歴書が届き、一枚一枚をじっくり読む時間は減少しました。

かつて私が企業人事だった頃は、履歴書の70%ほどに目を通していましたが、現在はその割合が30%程度にまで下がっているとのこと。つまり、ほとんどの履歴書は「流し読み」されるのが前提です。

この状況に対応するためには、履歴書の書き方を工夫する必要があります。「Summary(要約)」は6行以内に、職務経歴は1社につき5つのポイントまでに絞ることが重要です。長々と説明するよりも、端的に成果を伝えることが採用担当者の目に留まるコツと言えます。

4. LinkedInの台頭 – 転職市場のゲームチェンジャー

日本では2020年前半を境に、LinkedInの利用が急増しました。特に、転職活動においては転職エージェントだけでなく、企業の人事担当者が直接候補者を探す「ダイレクト・ソーシング」の手法が広まっています。

LinkedInを活用する際のポイントは、英語でプロフィールを作成すること。適当に書くのではなく、具体的な業績を数値化し、実績を明確に伝えることが求められます。「売上を○%伸ばした」「プロジェクトを○件成功させた」など、定量的なデータを入れることで、企業側にとって魅力的なプロフィールになります。

5. 転職市場の流動性がさらに加速

転職市場が活発になることは、個人のキャリアアップにとってプラスですが、短期間での転職を繰り返すことには注意が必要です。特に30代後半以降の採用では、「ある程度は長く働いてくれるかどうか」を企業側がみる傾向にあります。履歴書に短期間での転職歴が多いと、書類選考で落とされる可能性が高まります。

転職を考える際は、「次の職場で何を成し遂げるのか」「3年後、5年後にどうなっていたいのか」といった長期的な視点を持つことが重要です。

変わらないもの

日本人の対面主義 – AI採用は進まない

テクノロジーが進化し、AIによる採用プロセスが増えるかと思いきや、日本では対面での面接が依然として重視されています。

7年前、ニュージーランド航空のマーケティング職に応募した方が、AIを使った面接システムに戸惑ったという話があります。Zoomが接続され、画面の向こうに誰もいない状態で1時間話し続けなければならなかったのです。当時、「企業の採用担当は不要になるのでは?」という議論もありましたが、日本では「直接会って話す」ことを重要視する文化が根強く、AI採用はあまり普及していません。

現在でも、多くの企業がオンライン面接を導入しているものの、2次面接以降は物理的に可能なら対面での面談が行われることが一般的です。「人手不足」と言われながらも、しばらくは人が直接面接をする流れが続くでしょう。

おわりに

この10年で、働き方や転職市場は大きく変化しました。転職が当たり前になり、副業の選択肢が広がり、採用プロセスも変わりました。一方で、日本人の対面主義の文化は根強く残り、すべてがデジタル化するわけではないというのも興味深い点です。

今後の10年で、働き方やキャリア形成はさらに変化していくでしょう。大切なのは、変化に適応しつつも、自分の価値観や目標を見失わないこと。これからも、皆さんのキャリア形成に役立つ情報を発信していきます。

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鈴木美加子

グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役

日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師

NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)

株式会社AT Globe

強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。

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