Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。みなさん、英語でプレゼンをする時、事前にちゃんとリハーサルしていますか?最近実施した英語でのプレゼンテーション研修で感じたことを、今日のテーマにします。
クラスのメンバーのTOEIC平均点は、600点くらいかなという感じでした。正直、英語が流暢に話せるというレベルではありません。5分間の英語プレゼンをスライドも使いながら行うのが事前課題だったのですが、ほとんどの方がリハーサルをしていないことは驚愕でした。英語でのプレゼンの成功は、「語学力と経験の掛け算」に左右されるので、ほとんどプレゼンをしたことがない、英語力の足りない方がリハーサル無しで臨むのは無謀です。全員のTAKE1は、前に出た途端に頭が真っ白になる方あり、緊張して体が前後に揺れる方あり、途中で「えっと」を何度も挟む方ありで惨憺たる結果でした。
英語でのプレゼンなんてその気になれば現場で、なんとかなるんじゃないのと思う方もいらっしゃるかもしれないので、入念なリハーサルが私の会社員人生で最大のプレゼンを、救ってくれた話をシェアさせていただきます。
某30万人企業の日本法人で人事本部長をしていた時、本社からG9と呼ばれていたCEOとその直属の部下が来日することになりました。当然、カントリー・レビューになります。日本法人のアメリカ人社長は、新しい人事の仕組みを導入していることを強調したかったので、私を3人のプレゼンターの一人に選びました。プレゼンターは、イギリス人、スコットランド人、日本人の私です。
当日、Board Roomに早めに入室したところ、G9が放っているなんとも言えない緊張感にびっくりして、「こんな張りつめたところに、あと15分もいたら胃がおかしくなる」と外にさりげなく出ました。廊下には、他の本部長たちが何人かすでにいて私を見るなり苦笑しています。「あぁ、だから廊下にみんな立ってるのか。」一度は部屋の中に入ったものの、あまりの緊張感に耐えられなくて、みんな外に出たというわけです。
スタート時間の5分前になり、さすがに入室しないわけにいかないので、日本法人のメンバー、ぞろぞろ入室しました。アメリカ人社長はプレゼンは大の得意なので見事なオープニング・スピーチをして、イギリス人が最初のスピーチを始めました。ここで私に異変が起きます。左の膝が震え始めたのです。パニクりそうになりました。性格的なものなのか、本来は日本語でも英語でもプレゼンをやる前に緊張しないのが私です。それなのに、この大事な大舞台で膝が震えているのです。まずいと思い、左手で膝を押さえました。震えが止まるどころか、押さえている腕にまで震えが伝染する始末。役員室の高級テーブルで足元に覆いは付いていたので、足は震えていても見えませんが、机より上の腕が震えていたら見えるのでバレてしまいます。あがっているのが人から見えるような弱さは、アングロサクソン系の企業ではイコール負けを意味するので、思わず手を膝から離しました。
あまりにも落ち着かないので、テーブルの上のミネラルウォーターを飲むことにしました。今でもはっきり銘柄を覚えています。Volvicの500ml。最初のスピーカーが終わるまでに、つまりは20分以内に全部飲んでしまいました。私の番はトリで最後だったので、2番めのスコットランド人がスピーチしている間、空になったボトルを握りしめて緊張をリリースしようとしていました。
私の中で、「こんな大舞台で、本当に残念だけれど、今日はダメかもしれない」という思いが湧き上がってきました。CEOの前でプレゼンできる最高のチャンスだけれど、仕方ない。そう諦めた時、アメリカ人社長に”Micky”と呼ばれました。私の番です。行くしかない。いつもプレゼンに出て行く時に自分にかける言葉を、いつも通りにかけました。”Micky, let`s go. It is show time.”
全員の前に立った時、私に再び異変が起きました。まるでスイッチを押したかのように、英語がよどみなく出てきたのです!
普通、英語のプレゼンをする日の朝に3回リハーサルするのが私の習慣です。この日は大舞台だったので、5回リハーサルしてありました。20分のプレゼンなので、100分(1時間40分)バスルームの鏡の前に立っていたことになります。その努力が報われた瞬間でした。自分の体が話す内容・英語を覚えていてくれたのです。いつもと変わりなくスタートできたこの日、アドリブでジョークも出て、CEOに”Micky, that was excellent.”と言われて座ることができました。
ひとえに、入念にリハーサルしてあったお蔭です。あの時、私が手抜きのリハーサルをして、その上にあのド緊張に見舞われたとしたら、G9の前で失態を演じただろうと断言できます。もし英語が皆さんにとって母国語ではなく外国語なら、本番前に必ず念入りにリハーサルをして余裕を持って臨んでください。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。