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異文化を理解する : 権力格差

元・外資系人事部長、現グローバル人材育成家の鈴木美加子です。今回のテーマは、異文化を理解する指標の一つ「権力格差」です。

国による「権力格差」の違い

何年か前に、フィリピン・セブ島の英語学校へ視察に行ったとき、散歩をしていたら墓地がありました。ゲートを入ってすぐのところは、よく映画で観るような土に墓碑が埋まっているシンプルなお墓でした。ずっと歩いて奥に行くと、ゲートも何もなかったのに突然高級住宅街に入り、不思議な構造の街だと思いました。

歩くこと3分、「ここにある家みたいな建物は、もしかして全部お墓???」と気がつきました。家にしては入り口に隙間があります。中をのぞくと奥に遺影が飾ってあります。お墓です。絶句。2階建てのものが多く、東京にあるほとんどの家より大きいです。 死してなお、生きていた時の自分に、いかに権力と富があったかを示したいってことですよね。日本人には理解しがたいですが、腑に落ちることを思い出しました。

世界の文化を6つの指標で測る理論があり(ホフステード)、指標の一つに「権力格差」があります。世界には、一握りの人達に権力と富が集まることを国民が許容する格差が大きい国と、社会がフラットで階層がないことを望む国があります。

権力格差の指数が高いのは、おおざっぱに言うと、南アメリカ・アジア・アフリカです。
権力格差の指数が低いのは、いわゆる欧米です。
ちなみに、日本は54で中庸です。

格差がある国のマネジメント・スタイル

フィリピンのスコアは94。圧倒的に格差社会なので、それがお墓に現れていたということです。

格差がある国の特徴はマネジメント・スタイルに表れます。例えば社長は一スタッフに直接声をかけたりしてはダメです。間にいる中間管理職に告げ、それを中間管理職がスタッフに伝えるという、指示命令系統を守る必要があります。急に社長に声をかけられたスタッフは、「クビなんだろうか」と不安になりますし、中間管理職は「直接コンタクトされて、私の立場がない」になります。

私が泊まっていたビジネスホテルでも、レストランが暇な時間帯にスタッフとおしゃべりして、色々教えてもらっていた時、白人の男性が入ってきました。スタッフは立ち上がり、少し緊張感が漂いました。彼は、ホテルのオーナーでした。権力格差が大きいフィリピンにおいて、オーナーは雲の上の人、思わず立ち上がったのでしょう。

私はオーナーとも話をしました。興味深かったです。「僕は、スタッフと同じスペースで食事はしない。彼らと同列の人間でないことを示す必要があるから。」日本人に生まれ、アメリカの企業で長く過ごした私には驚きの一言でした。フラットでカジュアルなことをよしとしない文化が存在することを再認識できました。

現在、外資で仕事をされている方も、これから外資に転職される方も、外資と言っても色々あることを覚えていて欲しいです。大きく括って欧米と呼ばれる企業は「権力格差」が小さいので、ポジション関係なくカジュアルで大丈夫です。東南アジア・南米・アフリカと仕事をするようになったら、求められるマネジメント・スタイルは大きく違います。

権力格差と言えば、世界で一番スコアが高いのはマレーシアです。数値は100。この事実を知って腑に落ちた20年も前の出来事があります。私はアジア・パシフィックの仕事をしていました。ある時、各国を歴訪する必要が出て、何も考えずに北から南に日程を組みました。

たまたまマレーシアで1日費やす曜日が金曜日になりましたが、当時の私はアジア各国についての知識が乏しく、何も感じず出張に出ました。イスラム圏の金曜日は、1日に何回も礼拝する必要がある大事な日です。東京から出かけ、たった1日しか過ごせない私は、時間になると全員が礼拝所に行ってしまうのを驚愕の眼差しで眺めていました。冷静に考えれば、アジア本部から来た大して偉くもない人より、アラーの神の方が大事に決まっています。

感心すると同時に、ちょっとした怒りもこみ上げてきました。「なぜ、金曜日はミーティングにならないので、違う曜日に来てください」と言ってくれなかったのか、当時は理解できなかったのです。

ホフステードで全て説明できます。権力格差100ということは、お上が絶対。私は偉くはなかったですが、マレーシアがレポートしている上位組織のアジア・パシフィック本部の人間。「来ないでください」と言えるわけはないのです。あの時の私は、日程を決める前に「これでいいですか? 祝日や宗教上の理由で、日程をずらした方が良い場合は教えてください」と聞くべきでした。

異文化のもとで仕事をすることは、時に相手の価値観がわからないので大きなストレスを生みます。よくわからない時は思い込まずに、聞いてみることが大事です。お互いに歩み寄る気持ちがあることを示せると、距離が縮まるし仕事もうまくいくようになります。多様性を味方につけて仕事ができるようになりたいです。

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鈴木美加子

グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役

日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師

NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)

株式会社AT Globe

強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。

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