Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。
アサーティブネスという概念が日本に導入されて17年になりますが、自分の意志を英語で上手にはっきり伝えること得意でしょうか? 本日は英語人相手に英語を話すのであれば、「英語人マインド」で明確に話さないと通じないという実例をご紹介します。
先日ある大手日系企業で、外国人向けに企業研修をしていた時のことです。
私は研修会社のセールスの女性と一緒でした。彼女はTOEIC850点くらいはあるんだろうなと思わせる英語を話します。 ただ、マインドはかなり日本的かもしれません。つまり、行間を相手に読んでもらいたい日本人なのです。
その日は雨で気温も低く、寒い1日でした。日本人だけなら当然、暖房を入れるだろうというお天気でした。 ところが、この日の参加者は欧米育ちの若い男性ばかり。 チャイニーズ・アメリカン、ジャパニーズ・カナディアンなと、アジア人の血を持って生まれてはいますが、エアコンを強くかける環境で育っているので、アジアで生まれ育った人達と、皮膚感覚が全く違うアジア系欧米人で要は白人男性と同じです。(低い温度を好むという意味です。)
その日、暖房のない部屋を寒いと感じる人は、セールスの彼女と講師である私の二人しかいない状況でした。 「いくらなんでも寒すぎませんか?」 と講師の私が言ったので、セールスの彼女が、参加者に声をかけてくれました。
”We are fine, but isn`t this too cold?”
”No, this is fine.” で終わってしまいました(苦)
まず、「私たちは大丈夫だけれど」という出だしは、先方がお客さんだから気を遣ったのだと思いますが、全く通じない残念な出だしだったと思います。”大丈夫ならOKだね”と思われて終わりです。欧米の文化には日本の「お客様は神様です」の発想は存在しないです。
”僕たちに気を遣ってくれているのかもしれない、We are not fine.なのかな?” なんて、行間読みには誰も走ってくれません。”ちょっと寒すぎませんか?”も、額面通りの質問と取られてYes/Noで終わります。まさか、”本当は寒いの、そこんとこ汲んでください”という意味が含まれているとは、夢にも思わないのです。
よく、英語力は結構あるのに、欧米人とコミュニケーションを取ろうとすると誤解が生じる話を聞きますが、まさに目撃した感じでした。率直さが足りないし、自分がどうしたいのか相手にどうして欲しいのかをもっとストレートに伝えないと、英語では通じないですね。文法や単語の問題ではなくマインドの問題です。
私はかなり寒くて、企業研修が立て込んでいる週に「ここで風邪を引いたら大変」という気持ちが働き、アサーティブネスのボタンを押しました。
”This is too cold for me. I would like to raise room temperature a little for a while. Is that OK with you? If it gets too warm for you, just let me know.”
と自分がどうしたいのかをダイレクトに伝えました。
結果は、”Oh, OK. If you feel that way, go ahead.” で、想像通り何の問題もありませんでした。
みなさんが同じ状況にあったら、どのようなやり取りになりそうでしょうか? 何となく気を遣ってしまうでしょうか? このケースから確認できるのは以下の3つのように思います。
・ 日本以外の国でお客様は神様ではありません。
・ 英語人に「察する」「行間を読む」「空気を読む」習慣はありません。求めるとガッカリします。
・ 自分が何をしたいのかを、率直に伝えて大丈夫です。 NOと言って問題ありません。
ついつい「悪い」という意識が働いてしまう方のために、私が「あぁ、NOは伝えて大丈夫なんだ」とつくづく実感したオーストラリア人とのやり取りを、ご参考までにお伝えしておきます。
オーストラリアに住んでいた2012年、親友と美術館巡りをしていました。友が「ミッキー、その絵の前で写真撮ろうか?」と声をかけてくれたので、自分の後ろの絵を振り返って見ました。残念ながら自分の好みの絵では全くなく、思わず”No, thank you. I don`t like this picture.” と口から出ていました。 膝までついてファインダーを覗いてくれて、あとはシャッターを押すだけだった友にさすがに悪いことをしたかなと、その後の彼女の様子を見ていましたが、別にどうということはないのです。彼女は良かれと思ったけれど、相手が望まないなら「あっそう、OK〜」で全く問題無しです。
英語力さえあればグローバルな舞台で英語人と渡り合えると誤解しがちですが、実際には考え方・マインドを変えるよう意識することが大切です。行間を読んだり空気を読んだりすることよりも、明確に自分の意志を伝える力がグローバル人材には必要です。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。