Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。本日は、“日本語での仕草が世界スタンダードでない場合、切り替えができないと揉め事が発生する可能性がある”について書きたいと思います。
現在海外で仕事をしている知り合いの話です。その国はホフステード異文化モデルの指標の一つ、IVR(人生の楽しみ方)のスコアが低く、有給休暇という概念が普及していません。日本から派遣されている加藤さん(仮称)は、元外資系勤務で一年に1日も有給休暇が無いという概念は理解できないしおかしいと思っていたので、自分の判断で10日休んだそうです。これが、現地の社員の勘にさわり彼の上司に直訴した社員が4人もいます。こちらもホフステード異文化モデルの指標、IDV(個人主義)のスコアが低く集団主義の国なので、みんなで一緒に上司に言いつけようというわけです。ちなみに、PDI(権力格差)の高い上位者を絶対と思う国でもあるので、彼らにとって、休みを取りすぎているように見える同僚に対する上司の判断は絶対です。
上司のところに直訴した4人の様子を見て、上司は部下の意見も聞かないと中立な立場取れないと思ったので、加藤さんも呼びました。まずは、4人の社員が状況を話します。この時、上司は英語コミュニケーション上、致命的なミスを犯してしまいます。それは、英語を聞きながら「うなづく」ことです。日本語でのうなづきは「共感=あなたの話を聞いています」を意味しますが、英語でのうなづきは「同意=あなたの言ってることは正しいです」を意味します。これは大きな差で、加藤さんは切り替えられない上司の様子を見てびっくりしたそうです。
集団直訴の相手が、「加藤さんは、1年に10日も休んでるんですよ。おかしいですよね」と英語で話している間、上司はずっとうなづいていたそうです。彼は、「そうかぁ、なるほど、その先はどうなった? 君たちの話を聞いてるよ」というサインを無意識に出したわけです。その様子は見ていた4人の社員はどう思ったか、英語コミュニケーションの基本に則り「ふーん、なるほど。それは君たちが言っていることはもっともだ。加藤さんが悪いね」と同意してくれたものだと当然思ったのです。
4人は加藤さんの方を見て「ほらね、君の上司も僕たちが正しいって言ってるじゃないか」と鼻高々だったそうです。驚いたのは上司です。なんでこう言う展開になったのか全く理解できない様子だったそうです。「いや、僕はまだ何の判断もしていない」と言ったら、今度は4人が混乱して、しまいには怒り出したそうです。
私にも似たような経験があります。29歳でモルガンスタンレーに勤めていた時、本社から駐在していたアメリカ人の人事部長と話をしていました。彼の意見と自分の意見は少し違うという話をしていたのですが、話の途中で、彼が突然立ち上がって、私の頭を両手で挟み、”Micky, your body language is confusing. Why do you nod so often why you are saying NO? By the way, this is not sexual harassment.” と言ったのです。私は何を言われているのか、全く理解できなかったので、”What do you mean?”と答えました。彼の説明は、「君は言葉では、少し違う意見だとハッキリ言っているのに、ずっとうなづいて I agree to what you say. のようなサインを出している。YesなのかNoなのか、どっちなんだ?」でした。
全く無意識だったので本当に驚きましたが、ありがたい指摘でした。この後、私は英語を聞きながらうなづかないように猛特訓をして、自分の癖を直しました。ほんのちょっとのことですが、部下や同僚や自分自身の立場を悪くしてしまう可能性がありますので、肝に銘じてください。日本語でのうなづきは「共感」を示し、英語でのうなづきは「同意」を示します。
Non-verbal(非言語)のジェスチャーやサインも、誤解の元になる場合がありますので、日本語でのジェスチャーがグローバル・スタンダードかどうか異文化アンテナを高くして英語人を観察してください。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。