Global Career Guide
4月は、転職や異動の知らせが多く届く季節です。無事に新たな職場でのスタートを切れるのは、それまでに着実な準備と努力を重ねてきた転職活動の成果と言えるでしょう。一方で、タイミングやご縁がうまく噛み合わず、思い描いた通りに物事が進まないことも少なくありません。
先日キャリア相談でお会いした方も、まさにそんな状況に直面されており、精神的に不安定な様子でした。詳しくお話を伺うと、まだ現職に在籍しているにもかかわらず、すでに上司に退職の意向を伝え、退職日の話まで進んでいる状態とのこと。そして、その時点で転職先が確定していなかったことが、大きな不安の原因になっていたのです。
相談者の方は、現職の職場環境や人間関係、特に直属の上司との折り合いが非常に悪く、「もう限界だ」という強い思いで転職活動を始めていました。幸いにも最終面接まで順調に進み、応募先の企業からは「内定に向けて前向きに進めたい」との好意的な言葉を受け取っていたため、「もう決まった」と安心してしまい、その勢いで現職の上司に辞意を伝えてしまったそうです。
しかし、その後状況は一変します。ちょうどそのタイミングで、転職先としていた外資系企業が、「採用凍結(Hiring Freeze)」を発表。グローバル本社の判断で、全社的にあらゆる採用活動を一時停止するという方針が打ち出されてしまったのです。
一般的には、すでに正式な内定通知(オファーレター)が出ている場合には、採用凍結の例外として扱われることが多いです。しかし、今回の相談者の場合は、まだ正式な書類が出される前の段階。あくまで「内定を前向きに検討している」という非公式なステージでした。結果として企業側から「大変申し訳ありませんが、今回の採用はなかったことに」と断られてしまいました。
こうなってしまうと現職にも戻りにくく、退職の意思はすでに伝えてしまっているため、相談者は進退きわまった状態に陥ってしまったのです。しかも、直属の上司との関係が非常に悪かったため、「やっぱり辞めません」と撤回することも現実的には難しかったようです。もしかすると上司の側も「辞めてくれて構わない」と内心では思っていたかもしれません。部下との関係がこじれている状態で仕事を続けるのは、双方にとっても大きなストレスですからね。
このようなケースは、特に転職経験が少ない方や、日系企業から初めて外資系企業への転職を検討している方に多く見られます。書面での正式な内定通知を受け取っていない段階で退職を決断するのは、大きなリスクを伴うのです。
さらに、リーマンショックのような世界的経済危機が発生した際には、企業も生き残りをかけて非常に厳しい選択を迫られるため、すでに内定を出した候補者に対しても、泣く泣く内定を取り消すといった対応を取ることもあります。そうした環境下で、既存社員をリストラしながら新規採用を進めるのは、企業としても倫理的に難しい判断となり、結果として採用活動そのものを停止する場合が増えていくのです。
現職に対する不満が積もり、「もう辞めたい」「今すぐにでも職場を離れたい」と感じる気持ちは痛いほどよくわかります。しかし、だからこそ、その感情に流されず、冷静に状況を判断することが何よりも大切です。転職活動は、感情だけでなく、タイミングと戦略によって成功の確率が大きく左右されるプロセスなのです。
「飛ぶ鳥、後を濁さず」ということわざがあるように、たとえ不満があったとしても、円満に退職することは社会人としての基本マナーです。そして、それは将来のキャリアにも確実に良い影響を与えてくれるはずです。転職先の企業が、前職での勤務態度や職場での人間関係について、リファレンスチェック(推薦状や前職確認)を行う可能性も十分にあります。特に同業界内での転職であれば、過去の評価が思わぬ形で自分に跳ね返ってくることも珍しくありません。
どれだけ辛く苦しい現状に置かれていたとしても、次の職場から正式な内定通知書(Offer Letter)を受け取り、雇用条件や入社日が明確になるまでは、絶対に辞表は出さないようにしましょう。焦りや感情に流されず、確実な一歩を踏み出すためには、冷静な判断力が何よりも大切です。不必要な焦りや不安を回避し、自分の未来を自分の手でしっかりと切り拓いていきましょう。
Xでも毎日発信しています。 ID: @Mikako_Suzuki 良かったらフォローしてください。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。