Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。本日は、正統派ユダヤ人(Orthodox Jew)が出張者として来日した時のお話です。
「Diversity(多様性)」では、性別・年齢・人種・LGBTsなどで差別しないことが重要になりますが、個人的に宗教にかなうDiversityはないと思っています。
私がモルガン・スタンレーに研修セクションを立ち上げるべく転職した28歳の時、NYから二人の正統派ユダヤ人社員が2週間、講師として来日することになりました。彼らから、「東京にKosher Meal(コーシャーミール)あるよね?」と聞かれた時は、何を聞かれているのかわかりませんでした。たまたまIT部門のトップがユダヤ人だと知り、その件について尋ねたところ、「『正統派』は制約がたくさんあって大変なので気をつけて」と言われ、少し不安になりました。宗教に正面から関わったことがなかった私は、何が「大変」なのか全く分かっていなかったのです。Kosher Mealとは、イスラムのハラルと同じように、決められた調理器具・食材・プロセスで認定シェフが作る特別な食べ物のことです。
ここから東京でのKosher Meal探しが始まります。
◆ IT部長の勧めで、広尾にあるユダヤ教会併設のレストランに連絡しましたが、安息日の土曜日はお休みであることと、テイクアウト対応はしていないことが判明しました。当時オフィスが大手町にあり、宿泊先が日比谷の帝国ホテルの2人が3食広尾まで食べに行くのは現実的ではありません。
◆ 次に、スイスのチューリッヒに機内食用のKosher Mealを扱う業者さんがいるそうで、連絡してみろと言われたので電話しました。しかし、エアライン以外に小売はしていないと、JALの機内食担当を紹介されました。
◆ JALの機内食担当の方はとても気の毒がってくださいましたが、「機内食は、確かに成田の近くに保管はしてありますが、書類上、日本に存在していないのでお譲りすることができないのです」とお返事をもらいました。
◆ NYの2人に伝えると、Kosher Mealには生鮮以外に缶詰・真空パック・冷凍の3種類があり、真空パック16箱分を香港経由で送ったとのことでした。「最初からそうしてよ」と喉まで出かかりましたが、大人の対応でもちろん言いませんでした。
◆ 香港の税関から「マトン(羊肉)を通せない」と連絡がありました。当時、香港はマトン肉の輸入を認めていなかったのです。幸いなことに一箱に収まっていたので、その箱を処分してくださいと頼み、残り15箱を成田便に乗せてもらいました。
◆ ようやく荷物が成田に到着!と思いきや、税関員がこれは何だろう?と思ったらしく開封すると言い出しました。実はそっと開けてもらって戻せばいいのだろうかと思ったのですが、何かあったら困るのでNYに伝えました。わかったことは、開封したら食べられないということ…。箱詰め作業の最後にお祈りをして、ロウをたらして封印するので開けたら一目でわかるし、正統派ユダヤ人以外が開けたら中に入っているものは全部食べられないそうです。お役人が開けると決めたら開けるのでしょうから、これには参りました。
◆ 最終的に本人たちが、スーツケースに2週間分の真空パックの食料を入れて入国することになりました。いでたちが非常に目立つため税関で止められるのは日常茶飯事、没収されたらその時はごめんと言われて覚悟しました。Kosher Meal以外で食べられるものは、生の野菜と果物なのです。大手町に八百屋さんがあるわけもなく、混んでいる通勤電車でどうやって私自身が運ぶかまでエアーシミュレーションしました。
結果としては、この時は、奇跡的に空港の手荷物検査に引っかからなかったのです。到着してみれば、二人は非常に良い人で敬虔な正統派ユダヤ教徒でした。信じるものがある人の強さを感じさせました。ただ、一人の叔父様とお父様がアウシュビッツ収容所で毒殺されていることを、「神様の思し召しなら仕方ない」と言われた時には、28歳無宗教の日本人の私は、絶句して言葉が出ませんでした。今でも理解は難しいです。
出張者が宗教上の制約を抱えている人だとわかったら、具体的な制約の内容、例えば、食べ物、お祈りの場所、安息日などを詳しく聞いてよく準備してください。
多忙な時期と重なると負担になりがちですが、究極の多様性であり、日本に住みながらでは滅多に経験できない貴重な異文化体験です。もうすぐ世間的にはクリスマスですが、ユダヤ教徒にはハヌカという独自のイベントがあり、クリスマスとは全く無縁です。
2021年、どこかのタイミングでコロナが収束し、以前のようにボーダーレスな移動が復活するでしょう。多様性への配慮を忘れないグローバル人でありますように。
多様性を受け入れ、英語でロジカルに発表・主張できて外国人と協働できるグローバル人材の集いです。楽しく学びながら、コミュニティの中で継続的に成長することができます。
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グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。